クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~



AmazonでCDをさがすAmazonでカザルス(Pablo Casals)のCDをさがす
Home|カザルス(Pablo Casals)|モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364

モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364

パブロ・カザルス指揮 (Vn)アイザック・スターン (Va)ウィリアム・プリムローズ ペルピニャン祝祭管弦楽団 1951年7月5日&7日~8日録音

Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [1.Allegro maestoso]

Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [2.Andante]

Mozart:Sinfonia concertante in E-flat major, K.364/320d [3.Presto]


痛切なる青春の音楽

私が初めてウィーンとザルツブルグを訪れたのは1992年のことで、ちょうどその前の年はモーツァルトの没後200年という事で大変な盛り上がりをみせた後でした。とはいっても、未だに町のあちこちにその「余熱」のようなものがくすぶっているようで、いまさらながらモーツァルトいう存在の大きさを実感させられました。

さて、その没後200年の行事の中で、非常に印象に残っているシーンがあります。それは、ヨーロッパで制作されたモーツァルトの伝記ドラマだったと思うのですが、若きモーツァルトが失意の底で野良犬のように夜のウィーンをさまよい歩くシーンです。そこにかぶさるように流れてきた協奏交響曲の第2楽章の冒頭のメロディがこのシーンに見事なまでにマッチングしていました。
ドラマのBGMというのは安直に選択されることが多くて邪魔にしかならないことの方が多いのですが、その時ばかりは若きモーツァルトの痛切なまでの悲しみを見事に表現していて深く心に刻み込まれたシーンでした。

ところが、一度聞けば絶対に忘れないほどに魅力的なメロディなのに、そのメロディは楽章の冒頭に姿を現すだけで、その後は二度と姿を見せないことに恥ずかしながら最近になって気がつきました。
似たような形に変形されては何度も姿を現すのですが、あのメロディは完全な形では二度と姿を現さないのです。
もったいないといえばこれほどもったいない話はありません。しかし、その「奥ゆかしさ」というか「もどかしさ」がこの作品にいいようのない陰影をあたえているようです。

冒頭の部分で愛しき人の面影をしっかりと刻み込んでおいて、あとはその面影を求めて聞き手をさまよい歩かせるような風情です。そして、時々その面影に似た人を見かけるのですが、それは似てはいてもいつも別人なのです。そして、音楽はその面影に二度と巡り会えないままに終わりを迎えます。

いかにモーツァルトといえども、青春というものがもつ悲しみをこれほどまでに甘く、そして痛切にえがききった作品はそうあるものではありません。


カザルスの歌うモーツァルト

指揮者カザルスの美質は何だろうと考えたときに、真っ先に思い浮かぶのは「歌う」事でしょう。ただし、その「歌」は流麗に流れていく心地よさとは無縁で、どこかその「歌」に命かけていますみたいな、そこに全体重がかかっているような「歌」なのです。
そう言えば、カザルスは何でもない「経過句」のようなワンセンテンスであっても、それを歌うことをオケに要求したと伝えられています。
カザルスにとって音楽に「経過句」なんてものは存在しなかったのです。

ですから、とりわけ彼の手になるモーツァルトは、ロマン派が好んだモーツァルトの姿を誰よりもロマン派風に描き出しているように聞こえます。
例えば、モーツァルトの青春の感傷が溢れている協奏交響曲の第2楽章なんかを聞けば、まさにカザルスとと言う巨人の全体重がかかったような歌い回しなのです。手垢にまみれたという言葉でさえも憚られるほどの「アイネ・クライ」にしても、第2楽章のロマンツェは今まで聞いたことがないような思いにとらわれます。
こういう音楽を聞いてそう言う思いにとらわれるというのは、それだけで値打ちがあります。(何だ、この指示代名詞だらけの文は^^;)

また、カザルスはプラド音楽祭では多くのピアニストとモーツァルトのコンチェルトを演奏しています。
長年の盟友でもあったホルショフスキーは言うまでもなく、ルドルフ・ゼルキン(生まれはボヘミアだが)やユージン・イストミン等のアメリカ勢、そしてイヴォンヌ・ルフェビュールやクララ・ハスキルというヨーロッパの女流ピアニスト等々です。そこでの、一番の聞き所は言うまでもなく歌う(嘆く?)第2楽章の重さでしょう。ライブ録音ですから、至るところから指揮者カザルスのうなり声は聞こえてくるは、そして、そう言うカザルスに触発されてピアノも心の底から歌っています。

もちろん、これを「重い」と思わぬわけではありませんが、ハイドンの時に感じたほどの違和感はありません。その辺りに、ハイドンとモーツァルトを分かつ何ものかがあるのかもしれません。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



2870 Rating: 4.7/10 (97 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-05-06]

ショーソン:協奏曲 Op.21(Chausson:Concert for Violin, Piano and String Quartet, Op.21)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッテ ギレ四重奏団 1954年12月1日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Guilet String Quartet Recorded on December 1, 1954)

[2024-05-05]

スカルラッティ:20のソナタ集(4)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)

[2024-05-04]

スカルラッティ:20のソナタ集(3)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1939年1月9日,11日&12日録音(Wanda Landowska:Recorded on January 9,11&12, 1939

[2024-05-03]

スカルラッティ:20のソナタ集(2)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)

[2024-05-02]

スカルラッティ:20のソナタ集(1)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)

[2024-04-30]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第5番 ヘ長調 K.158(Mozart:String Quartet No.5 in F major, K.158)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-04-28]

リスト:「ドン・ジョヴァンニ」の回想, S418(Liszt:Reminiscences de Don Juan, S.418)
(P)チャールズ・ローゼン 1963年12月録音(Charles Rosen:Recorded on December, 1963)

[2024-04-26]

ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」 op.314(Johann Strauss:The Blue Danube, Op.314)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-04-24]

ベートーヴェン:ディアベリ変奏曲, Op.120(Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120)
(P)ジュリアス・カッチェン 1953年録音(Julius Katchen:Recorded on 1953)

[2024-04-22]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第4番 ハ長調 K.157(Mozart:String Quartet No.4 in C major, K.157)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)