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パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 Op.6

(vn)マイケル・レビン サー・ユージン・グーセンス指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1960年5月14日録音

Paganini:Violin Concerto No.1 in D major, Op.6 [1.Allegro maestoso = Tempo giusto]

Paganini:Violin Concerto No.1 in D major, Op.6 [2.Adagio espressivo]

Paganini:Violin Concerto No.1 in D major, Op.6 [3.Rondo Allegro spiritoso - Un poco piu presto]




ヴァイオリンの技巧の見本市

さて、これらパガニーニのコンチェルトをどう見るか?いわゆるクラシック音楽の通たちからは一段も二段も低く見られてきたことは間違いありません。そして、その事は決して現在だけでの話ではなく、パガニーニが活躍した19世紀においても事情はそれほど変わりません。
例えば、シューマン。
彼は、「私はヴィルトゥオーソのための協奏曲は書けない。」なんて言って、さらに「何か別のものを変えなければならない」などと呟くのです。古典派の時代でも、モーツァルトやベートーベンはソリストの名人芸を披露するだけの協奏曲には飽きたらず、彼らもまた様々なトライを繰り返していました。
ですから、そう言う時代背景の中にこのパガニーニの作品を置いてみると、あまりにも問題意識がなさ過ぎるように見えるのです。

しかし、音楽というのはまずはエンターテイメントだという現実に開き直ってみれば、これは実に「楽しい」作品であることは間違いありません。
ありとあらゆる「美食」を食いつくした果てに、お茶漬けと漬け物に行き着くのは決して否定しませんが、その価値観を全ての人に押しつけるはいかがなものでしょうか?

たまには難しい理屈は脇に置いて、極上の美食に舌鼓をうつのも悪くはないでしょう。

ちなみに、パガニーニには自筆楽譜というモノはほとんど残っていません。それは、彼が病的なまでに疑り深い人間であり、他人に自分の作品が盗用されることをおそれて、演奏会が終わるとパート譜などを全て回収した上に、パガニーニの死後も遺族がそれらの保存に全く無関心であったためにその大部分が散逸してしまったためです。
現在では、そう言う楽譜の存在が確認されているのはこれら6曲のコンチェルトとカプリースだけだと言われています。

誤った英才教育に対する戒めの碑


マイケル・レビンというヴァイオリニストの録音は既に幾つか取り上げているのですが、それに対する評価は至って辛口でした。例えば、彼が1958年に録音したパガニーニのカプリースなどは、テクニックという点ではずば抜けているとは思うのですが、「与えられた答案用紙に向かってひたすら正しい解答を書き続ける神童の姿しか浮かび上がってこない」と書いていました。
この世界には、若くして多くの人を驚嘆させるような才能を示しながらも、その「若き天才」もしくは「神童」から抜け出して一人前の音楽家として成熟するのに失敗した連中が数多く存在します。そして、そう言う「失敗」した一つの典型がこのマイケル・レビンだと言っても大きくは外していません。

もちろん、一人ひとりにはその人ならではの個性があるのですから、同じような困難に直面した音楽家をその様なステレオ・タイプでもって全てが分かったような物言いをするのは間違っているという意見があることも承知しています。
60年代に入って、レコード会社から全ての契約を打ち切られた後も彼は必死で演奏活動を続けるのですが、そのライブ録音などを聞くと「昔の神童」から必死で抜け出そうという強い意志を感じることができるという人もいます。
それはきっとそうなのでしょう。
しかし、そう言う必死の努力もついには報われることなく、最後は力尽きてしまったという事実が覆るわけではありません。

私は、そこに「英才教育」と呼ばれるものの罪深さを感じざるを得ませんし、子供に対して「英才教育」を施そうという人はその様な悲劇を常に心に刻み込むべきなのだと思います。
確かに、その様な英才教育によって、10代のレビンの才能は驚くほどの高さに引き上げられました。

それは56年に録音されたパガニーニのコンチェルト1番、57年に録音されたブルッフのスコットランド幻想曲、そして58年のパガニーニのカプリースなどを聞けば誰もが納得するはずです。とりわけ、スコットランド幻想曲に関しては、もしかしたらハイフェッツの2つの録音(47年盤と61年盤)をも凌ぐ切れ味があるかもしれません。
パガニーニのカプリースについては今さら繰り返す必要がありません。

しかし、パガニーニのコンチェルトに関しては、56年と60年に二度録音しているのですが、その2回目の録音では明らかに切れ味は鈍り、勢いも失っているのが誰の耳にも明らかなのです。
10代後半から20代の初め頃にあれほどの切れ味を誇ったレビンの才能は、その録音を聞く限りでは明らかに下降線を描いているのです。

もしかしたら、彼に施された英才教育は非常に狭い範囲の作品に対してのみ高い適応が示せるスキル教育にすぎなかったのかもしれません。ですから、わずか4年を隔てただけで再録音したときに、前とは違うテイストで仕上げようとしても、彼が新しくできることは殆どなかったのです。
それは、例えば57年に録音されたメンデルスゾーンのコンチェルトを聴けば、そのあたりの事情はよりはっきりとします。

誤解のないように申し添えておきますが、そのメンデルスゾーンの録音は決して悪い録音ではありません。このロマン派を代表する情緒纏綿たるこの作品をものの見事なまでの刀の切れ味で調理してくれています。この作品を始めて聞く人にはあまり相応しくない録音かもしれませんが、あれこれの録音を聞き込んできた人にとっては非常に面白く聞くことのできる演奏に仕上がっているのです。

しかし、なかなか面白いねと思いながらも、聞き終わった後に、結局レビンというヴァイオリニストは何を演奏してもこういう風にしかやれない人なんだという事実に突き当たってしまうのです。
ある人はそう言うレビンのヴァイオリンに対して「一つの色しか持っていない」と評しました。
そして、そう言う一つの色だけに集中させてスキルの向上を強いるところにこそ「英才教育」の罪深さがあることに気づかされるのです。

子供にとって最も大切なことはじっくりと時間をかけて多くのことを学び、様々な体験を重ねる中で成長することであり、間違っても手っ取り早い促成栽培で無理矢理早く徒花を開かせることではないのです。
そして、レビンの悲劇が教えてくれるのは、レビンほどの途方もない才能に恵まれていても、促成栽培のような不適切な英才教育を施されれば人生は台無しにされてしまうと言う厳然たる事実です。

そう言えば、レビンに劣らぬほどの神童として同じ辛苦を味わい、その辛苦からかろうじて抜け出すことができたメニューヒンが、その後半生において教育活動に力を傾注したのは、その様な誤った英才教育から子供達をすくうためでした。
その意味でも、この驚くほどの才能に溢れた若きレビンの録音こそは、その様な誤った英才教育に対する戒めの碑として末永く残しておくべきなのかもしれません。

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