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Home|モントゥー(Pierre Monteux)|チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 作品36

チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 作品36

ピエール・モントゥー指揮 ボストン交響楽団 1959年1月28日録音

Tchaikovsky:Symphony No.4 in F minor, Op.36 [1.Andante sostenuto - Moderato con anima]

Tchaikovsky:Symphony No.4 in F minor, Op.36 [2.Andantino in modo di Canzone]

Tchaikovsky:Symphony No.4 in F minor, Op.36 [3.Scherzo. Pizzicato ostinato.]

Tchaikovsky:Symphony No.4 in F minor, Op.36 [4.]Finale. Allegro con fuoco


絶望と希望の間で揺れ動く切なさ

今さら言うまでもないことですが、チャイコフスキーの交響曲は基本的には私小説です。それ故に、彼の人生における最大のターニングポイントとも言うべき時期に作曲されたこの作品は大きな意味を持っています。

まず一つ目のターニングポイントは、フォン・メック夫人との出会いです。
もう一つは、アントニーナ・イヴァノヴナ・ミリュコーヴァなる女性との不幸きわまる結婚です。

両方ともあまりにも有名なエピソードですから詳しくはふれませんが、この二つの出来事はチャイコフスキーの人生における大きな転換点だったことは注意しておいていいでしょう。
そして、その様なごたごたの中で作曲されたのがこの第4番の交響曲です。(この時期に作曲されたもう一つの大作が「エフゲニー・オネーギン」です)

チャイコフスキーの特徴を一言で言えば、絶望と希望の間で揺れ動く切なさとでも言えましょうか。

この傾向は晩年になるにつれて色濃くなりますが、そのような特徴がはっきりとあらわれてくるのが、このターニングポイントの時期です。初期の作品がどちらかと言えば古典的な形式感を追求する方向が強かったのに対して、この転換点の時期を前後してスラブ的な憂愁が前面にでてくるようになります。そしてその変化が、印象の薄かった初期作品の限界をうち破って、チャイコフスキーらしい独自の世界を生み出していくことにつながります。

チャイコフスキーはいわゆる「五人組」に対して「西欧派」と呼ばれることがあって、両者は対立関係にあったように言われます。しかし、この転換点以降の作品を聞いてみれば、両者は驚くほど共通する点を持っていることに気づかされます。
例えば、第1楽章を特徴づける「運命の動機」は、明らかに合理主義だけでは解決できない、ロシアならではなの響きです。それ故に、これを「宿命の動機」と呼ぶ人もいます。西欧の「運命」は、ロシアでは「宿命」となるのです。
第2楽章のいびつな舞曲、いらだちと焦燥に満ちた第3楽章、そして終末楽章における馬鹿騒ぎ!!
これを同時期のブラームスの交響曲と比べてみれば、チャイコフスキーのたっている地点はブラームスよりは「五人組」の方に近いことは誰でも納得するでしょう。

それから、これはあまりふれられませんが、チャイコフスキーの作品にはロシアの社会状況も色濃く反映しているのではと私は思っています。
1861年の農奴解放令によって西欧化が進むかに思えたロシアは、その後一転して反動化していきます。解放された農奴が都市に流入して労働者へと変わっていく中で、社会主義運動が高まっていったのが反動化の引き金となったようです。
80年代はその様なロシア的不条理が前面に躍り出て、一部の進歩的知識人の幻想を木っ端微塵にうち砕いた時代です。
私がチャイコフスキーの作品から一貫して感じ取る「切なさ」は、その様なロシアと言う民族と国家の有り様を反映しているのではないでしょうか。


プロ中のプロ

指揮者というのはそのお国柄というものがよくあらわれる職種だと思います。
典型的なのはハンガリーです。

ザッと数え上げると、フリッツ・ライナー、ジョージ・セル、ユージン・オーマンディ、ゲオルク・ショルティという感じです。ハンガリーというのは小国であるにもかかわらず、怖ろしく恐くて、そして怖ろしく完成度の高い仕事をする指揮者を輩出しました。
そこにあるのは、ファナティックなまでの完璧さへの執着です。

今時、「本場」などと言う言葉は胡散臭いだけなのですが、それでもクラシック音楽の世界ではオーストリア・ドイツ系の指揮者がそれに当たることになっています。そんな「本場」の指揮者と較べれば、言葉はよくないのですが、彼らにはどこか「狂」という字がついて回る雰囲気があります。
ここからさらに東に進んでロシアにまで行くと、ムラヴィンスキーとかマルケヴィッチみたいな同族もいるのですが、さすがにロシアは大国なので、スラブのパワーを爆発させる全く別種の生き物も数多く棲息しています。

それに対して、今度は西に進んでいくとフランスなどと言う国があります。(^^;

主だった指揮者をあげればピエール・モントゥー、シャルル・ミュンシュ、アンドレ・クリュイタンス等が数え上げられるのですが、ここから読み取れる共通点は明晰さへの指向です。ただし、その指向はハンガリー系のような独裁によってではなくて知性とウィットによって成し遂げられているように見えます。
もちろん、こう言ったからとて、ハンガリー系の面々に「知性」が欠如していると言っているわけではありません。
その知性が要求する音楽を、怖い人たちはファナティックなまでのスパルタによって実現しようとするのに対して、フランスの指揮者の多くはウィットによって実現しようとするように見えるのです。

セルにしてもライナーにしても、彼らが要求する水準までにオケが達しなければ、待っているのは地獄の特訓です。
しかし、モントゥーにしてもクリュイタンスにしても、彼らは自らの指揮技術で実現できなければそれはそれで仕方無しとして、その範囲の中で音楽をまとめてしまいます。ただ、凄いと思うのは、その高い指揮技術によって、凡な指揮者ならば入念にリハーサルを繰りかえす事で実現できるレベルよりも高い水準に引き上げてしまうことです。

クリュイタンスのウィーンフィルでのエピソード、「あなた方はこの曲をよく知っている。私もよく知っています。では明日。」というのは有名ですが、これはいかにもフランス的なのです。もちろん、この背景には練習嫌いなウィーンフィルの面々の支持を得るためという算段もあったのでしょうが、本質的には自分の指揮技術に自信がなければ言える言葉ではありません。

そして、その様なフランス的精神を最もよく体現した指揮者がモントゥーでした。

彼の音楽の特徴は明晰なるものへの徹底した指向でした。
しかし、それ以上に彼という指揮者をよく表している言葉は「独裁せずに君臨する」でしょう。

それは、ドイツ・オーストリアを対称の軸として東西でこれほども対照的になるのかと驚かされるほどです。

不思議なのは、彼の棒にかかると、オケは結構下手くそであっても音楽の内部構造がよく分かることです。しかしながら、下手くそであってもオケは怒られもせず、「俺たち結構いけてる!」というマジックにかかるので、結果として音楽に勢いとパワーが漲るのです。そして、その勢いとパワーは時には他では得られない魅力を生み出してしまったりするのです。
そして、そう言う下手くそなオケをモントゥーという人は長い時間をかけて熟成させていき、数年も経てば、これがあのサンフランシスコのオケ(言っちゃった^^;)なのかというレベルにまで高めてしまうのです。

私はセルやライナーという指揮者が大好きで、彼らこそが「プロ中のプロ」だと確信しているのですが、モントゥーのような指揮者に出会うと、プロの形も色々あることに気づかされます。

今回紹介したチャイコフスキーの後期の3つの交響曲はボストン響を振ってのものですからオケは下手ではありませんが、同時代のシカゴやクリーブランドみたいな凄みはありません。しかし、それでもモントゥーの棒にかかると、チャイコフスキーの交響曲は古典派のシンフォニーのようにその姿が明晰に立ち上がります。
聞くところによると、この一連の録音は当初1955年に録音された第6番「悲愴」だけの約束だったようです。
しかし、そのレコードが大好評でよく売れたので、続けて4番と5番も録音されることになったそうです。

考えてみるとこれは実に幸運なことでした。
何故ならば、「悲愴」という音楽は明晰さだけではどこか不満が残る部分があるのですが、4番と5番に関しては、その様なモントゥーの方向性が万全に威力を発揮しているからです。
もしかしたらムラヴィンスキーの録音にも肩を並べられるだけの素晴らしさに達しているかもしれません。

本当に、ボストン響とのコンビでこの録音が為されたことは幸せなことでした。

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