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カッチェン(Julius Katchen)|ブラームス:6つのピアノ小品 作品118
ブラームス:6つのピアノ小品 作品118
(P)ジュリアス・カッチェン 1962年6月13日~14日&28日~29日録音
Brahms:Six Piano Pieces, Op118 [1.Intermezzo. Allegro non assai, ma molto appassionato (A minor)]
Brahms:Six Piano Pieces, Op118 [2.Intermezzo. Andante teneramente (A major)]
Brahms:Six Piano Pieces, Op118 [3.Ballade. Allegro energico (G minor)]
Brahms:Six Piano Pieces, Op118 [4.Intermezzo. Allegretto un poco agitato (F minor)]
Brahms:Six Piano Pieces, Op118 [5.Romance. Andante?Allegretto grazioso (F major)]
Brahms:Six Piano Pieces, Op118 [6.Intermezzo. Andante, largo e mesto (E Flat minor)]
単純でありながら深みのある作品です

これもまた、ブラームス晩年の小品の一つであり、彼の最後のピアノ作品となった作品119の「4つの小品」とともに1893年に作曲された作品です。
これらの作品は、晩年のブラームスがお気に入りだった夏の避暑地、バート・イシェルで書かれ、書かれた作品は出来上がるたびにクララのもとに送られました。ですから、作品118と119の作品は、二つの作品として分けて出版はされていますが、ほとんど同じグループの作品と見て間違いはないようです。
いや、それ以上に、晩年の小品として一つのグループを形成する作品116から作品119に至る20の小品は、出版される過程でいくつかの作品に分けられているものの、そのどれもが晩年のブラームスの孤独な心情を色濃く反映した共通の土台の上に成り立った作品だと言えます。
また、専門家の話によると(私はこういう事はあまり詳しくないのですが・・・)、たとえば私が大好きな作品117の第1曲の冒頭の動機はこの6つの小品の第5曲ロマンスのはじめのところに使われていたり、作品117の第2曲の伴奏音型がこの6つの小品の第6曲の主旋律と関連があるそうです。つまり、これらの20の小品は少ない素材をあれこれと使い回して組み立てている節があるようで、それがある種の共通感を醸し出しているようなのです。
第1曲:間奏曲 イ短調
ブラームスの晩年に特徴的な何とも言えない「秋」の風情が漂う作品です。この何とも言えない切ない雰囲気が晩年の小品の魅力でしょう。
第2曲:間奏曲 イ長調
ある人はこの作品を称してブラームスの「無言歌」と呼びました。作品の構成としてはブラームスらしい手の込んだ技巧が駆使されているらしいのですが、流れてくる音楽はそんな技巧的なことは全く感じさせない親しみやすい音楽になっています。
それ故に、晩年の小品のなかでも結構人気のある作品です。
第3曲:バラード ト短調
中間部の旋律がとっても美しいので、これもまたそれなりに人気のある作品のようです。
第4曲:間奏曲 ヘ短調
右手の音型を左手が音に追いかけるような仕組みになっているので、どこか軽快な雰囲気が漂う音楽です。とはいえ、基本的には侘びしいことは侘びしい音楽です。
第5曲:ロマンス ヘ長調
バロック風の古風な雰囲気が漂う音楽です。そして、ここには私が大好きな作品117のホ長調が少しばかりたたずまいを変えて姿を現してくれます。
第6曲:間奏曲 変ホ短調
これは彼が暖めていた第5交響曲の緩徐楽章のために用意していたものらしいです。専門家によると、この作品は冒頭の揺れ動く3つの音からなる動機で全体が組み立てられているそうです。
この上もない厳しい寂しさに染め抜かれた作品です。
去りゆく景色
先頭に立って進路を切り開くというのは立派なことです。
その人の目に映る景色は次々と後景へと流れていくことでしょう。しかし、彼が見すえているのはその様にしてめまぐるしく移り変わる眼前の景色ではなく、その彼方にある目指すべき目的地です。
そう言えば、子供は運転席の後にしがみついて、流れいく景色を食い入るように眺めるのが大好きです。
精神に活力が溢れ、その目が常に未来を見すえている人にとっては、それこそが心躍る光景のはずです。
しかし、年を重ねてくると、そう言う景色と対峙し続けるのはしんどくなってきて、それとは真逆の景色が好ましく思えてきます。
それは、最後尾の車両の一番後から眺める去りゆく景色です。
めまぐるしく移り変わっていく先頭からの景色とは違って、最後尾か見えるのは過ぎ去っていく景色であり、その景色は何時までも姿をとどめます。そして、その景色は次第に姿を小さくしながら、やがてはるか彼方へと姿を消していきます。
未来は常に不定であり、現在は常に変化し続けます。しかし、過去は常に明らかであり、それは時の流れの中で次第に己を小さくしながら無限の彼方へと没していきます。
いや、そんな小難しいことを考えなくても、過ぎ去ってゆく景色を眺め続けていると、そこに人生を感ぜざるを得ないのです。
ブラームスが、繰り言のように書いた最後のピアノ作品は、まさに過ぎ去っていく景色を眺めるような思いにさせられます。それは声高に何かを主張するようなことはなく、ただただ静かに過去へと沈潜していきます。
- 「幻想曲集」作品116
- 「3つの間奏曲」作品117
- 「6つのピアノ小品」作品118
- 「4つのピアノ小品」作品119
カッチェンのピアノもまた、一つ一つの音を知的に積み上げながら、その知性の枠からはみ出して情に流れることがありません。
確かにゆったりとしたテンポで音楽は微妙に伸び縮みしているようですが、それがべたついた感傷に堕することはありません。そこがカッチェンのカッチェンたる所以なのでしょう。
ブラームスの音楽が本質的に持っている構築生を崩すことなく、それでいながらその中に散りばめられた情感を浮かび上がらせてくれます。
「知的なブルドーザー」と称されることもあるカッチェンなのですが、ブラームスの去りゆく景色をこれほど見事に描いてくれるというのは不思議な感じがします。
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