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バッハ:平均率クラヴィーア曲集(選集)


マリア・ユーディナ:1951年録音


平均律クラヴィーア曲集


  1. 平均律クラヴィーア曲集

  2. 平均律クラヴィーア曲集 第1巻



などです。

マリア・ユーディナはこの曲集から、1950年代の初め頃に以下の作品を抜粋して録音しています。


  1. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 1 [Prelude and Fugue in A major, BWV 864]

  2. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 1 [Prelude and Fugue in A minor, BWV 865]

  3. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 1 [Prelude and Fugue in B-flat major, BWV 866]

  4. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 1 [Prelude and Fugue in B-flat minor, BWV 867]

  5. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 1 [Prelude and Fugue in B major, BWV 868]

  6. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 1 [Prelude and Fugue in B minor, BWV 869]

  7. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in C major, BWV 870]

  8. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in C minor, BWV 871]

  9. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in C-sharp major, BWV 872]

  10. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in C-sharp minor, BWV 873]

  11. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in D major, BWV 874]

  12. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in D minor, BWV 875]

  13. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in E-flat major, BWV 876]

  14. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in E-flat minor, BWV 877]

  15. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in E major, BWV 878]

  16. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in E minor, BWV 879]

  17. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in F major, BWV 880]

  18. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in F minor, BWV 881]

  19. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in G major, BWV 884]

  20. Bach:The Well-Tempered Clavier, Book 2 [Prelude and Fugue in B-flat major, BWV 890]



何ともおかしな選び方なのですが、全曲録音するつもりだったのが途中で何らかの理由で頓挫したのかもしれません。

鉄の女


鉄の女

マリア・ユーディナとウラディーミル・ソフロニツキーは、ロシアン・ピアニズムの中でも特別な、そして特殊な立ち位置を占めています。
年齢ではユーディナの方が少し上で、さらにユーディナの方が少しばかり長く生きました。そこへ、もう一人、ロシア出身のピアニストを加えるとこうなります。


  1. マリア・ユーディナ:1899年~1970年

  2. ウラディーミル・ソフロニツキー:1901年~1961年

  3. ウラディーミル・ホロヴィッツ:1903年~1989年



ホロヴィッツは、あんなにも不健康な生活をおくったのにとても長生きをしました。修道女のように禁欲的な生活をおくっていたユーディナはそれよりもはるかに短命だったのですから、神は常に不公平です。
そして、ソロニツキーはそのユーディナよりもさらに短い生涯しか許されませんでした。

コンサートの前には緊張のあまり口もきけなくなり、コンサートを終えると悔恨の涙に暮れていたと伝えられるソロニツキーですから、そのあまりにも痛々しい姿に神が同情して早く呼び寄せたのかもしれません。
こうやって3人を眺めてみると、ピアニストとしての活動時期がほぼ重なっていることに気づかされます。確かにホロヴィッツは長く活動しましたが、ホロヴィッツが真にホロヴィッツだった時期は、ユーディナやソロニツキーの活動時期とほぼイコールです。
そして、この3人が残した録音を聞くとき、音符を音に正しく変換するだけの作業では、音楽は音楽になり得ないことをまざまざと見せつけられます。

ホロヴィッツに関しては今さら何も付け加えることはありません。
彼の指にかかれば、誰のどの作品であっても、それはホロヴィッツの音楽になっていました。
ソロニツキーに関して言えば、それは「楽譜は勝手に改変しますし、リズムや音価も伸びたり縮んだりしますから、昨今のコンクールに出れば間違いなく一次審査で落選します。」というようなものでした。

ただし、聞いてみる側にとってはこの上もなく面白く、そしてその面白さの向こう側に「神々しいまでの世界」が広がっている演奏でした。そして、そこにあるのは自分を信じ切る強い意志と、それを現実の形にしうる強靱なテクニックでした。
その信じ切る意志がホロヴィッツの場合はある種の傲慢さとして、ソロニツキーの場合は悔恨の涙として表出されたとしても、その根底にある格闘の壮絶さは同一のものでした。

それと比べると、ユーディナの演奏は少しばかり雰囲気が異なります。もちろん、彼女の演奏は「音符を音に正しく変換するだけの作業」とは最も遠い位置にあるのですが、そこに存在する「自分を信じ切る強い意志」には確固たる強さが宿っていました。
言葉をかえれば、自分を信じるという一点において、二人の男どものようにうじうじと思い悩むよう弱さとは無縁でした。

ですから、人は彼女のことを「鉄の女」と呼びました。

確かに「女」には「鉄」という言葉が上手くあてはまります。「鉄」に「男」をあてはめて「鉄の男」とすれば、そこからは己の弱さを覆い隠すためのつまらぬ虚勢しか浮かび上がってきません。「鉄の女」からは偉大なる「強さ」が浮かび上がるのに、「鉄の男」からは「哀れな弱さ」しか浮かび上がってこないのです。
ですから、男は根っこにどうしようもない「女々しさ」を自覚しているときの方が強くなれるのです。
「女々しい女」と「強がる男」ほど始末の悪いものはないのです。

そして、彼女のこの「強さ」は「ロシア正教」に対する強靱な信仰によって裏打ちされていましたから、いや、それによって裏打ちされていたがゆえに、確固不変たる強さ、いかなる虚勢とも無縁な本当の意味での強さになり得ていたのでしょう。

確かに、男二人と較べてみれば、テクニック的には見劣りします。随分と荒っぽいと思えるような場面も少なくありません。さらに言えば、同時代の女流ピアニストのような美しくて繊細な響きを持っているわけでもありません。
しかし、彼女のピアノを聞き始めると、何故か最後まで飽きることなく聞き通してしまわざるを得ない魅力が溢れています。

例えば、このへんてこりんな選曲で終わっているバッハの平均率の選集などがその典型でしょうか。

バッハの平均率などと言う音楽は、ただただ正しく演奏しただけの演奏で何曲も連続して聞かされる等というのは苦行以外の何ものでもありません。
ところが、部分的にはかなり荒っぽいと思える、そして録音的にも万全とも思えないのに、ユーディナの手にかかれば、何か不思議な力に導かれるように最後まで聞き通させられてしまうのです。

Maria Yudina

これはユーディナの若い頃の写真として有名なものですが、どくろを書斎の上に置いて彼女は何を考えていたのでしょうか。そしてこの目つきには、どこか狂気のようなものが感じ取れます。
音楽が本当に語りかけるものを形にするためには、人はその人生をどこかで犠牲にしなければいけないと言うことなのでしょうか。



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