クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|スタインバーグ(William Steinberg)|チャイコフスキー:イタリア奇想曲 作品45

チャイコフスキー:イタリア奇想曲 作品45

スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1958年4月4日録音

Tchaikovsky:Capriccio Italien Op.45


気力・体力ともに充実した時期の作品

メック夫人からの不思議な資金援助で音楽院の仕事から解放され、さらには不幸な結婚生活の失敗からも立ち直って、気力・体力ともに充実した時期の作品です。
作品は、通して演奏されるのですが、細かく見ていくと5つの部分に分かれます。

<第1部:アンダンテ・ウン。ポーコ・ルパート>
冒頭のトランペットのファンファーレが印象的です。この旋律は、チャイコフスキーがローマに滞在しているときに聞こえてきた騎兵隊のラッパの響きに由来していると言われています。やがて、イタリア民謡「美しい娘さん」の旋律もあらわれて、イタリアの南国的情緒が大きなクライマックスを迎えます。

<第2部:アレグロ・モデラート>
音楽は4拍子になって優美な雰囲気に変わります。ここは、結構しつこく強弱記号が書き込まれていて、それをどのように受け取ってどのように扱うのかは指揮者によってかなり差が出る場面でもあります。
音楽は、再び第1部の旋律が登場して第3部へと引き継がれます。

<第3部:プレスト>
管楽器がメインとなって印象的なタランテランの旋律を歌います。タランテランとはナポリ発祥の舞曲で、ここで音楽はまた6拍子に戻り快活に踊り出します。

<第4部:アレグロ・モデラート>
音楽3拍子になって落ち着きを取り戻し、第1部の民謡の旋律が重厚な響きで荘重に歌い上げられます。

<第5部:プレスト>
音楽は再び6拍子に戻って第3部のタランテランのの旋律が帰ってきます。ピアニシモで始まった音楽は次第に力をしていきクライマックスを迎えます。そして、その後に短い経過句を経て音楽は2拍子になって怒濤の終結に突き進んでいきます。

と言うことで、非常に分かりやすい構成、華やかなオーケストレーション、そして何よりも魅力的で美しい旋律が散りばめられているので、初演の時から絶賛されました。
なお、この作品はイタリア旅行の時に着想され、そのスケッチをもとに帰国後に完成されています。イタリア旅行の時のチャイコフスキーはそのあまりの刺激と魅力で舞い上がっていて、父の訃報に接しても帰国せず葬儀にも参加しないほどだったので、それはきわめて賢明な判断だったと言えます。


明るくて健康的な音楽

スタインバーグと言えば協奏曲の伴奏をやっている地味な指揮者というイメージがあります。そのイメージの原因となったのがミルシテインとのコンビで録音した数多くのコンチェルトでしょう。

ミルシテインは今も20世紀を代表するヴァイオリニストとして認知されていますから、それらの録音の多くは今も現役盤です。つまりは半世紀以上の時間が経過してもそれらの録音は多くの人の目に触れる機会があり、その目にふれた録音のクレジットを眺めるといつもスタインバーグ指揮、ピッツバーグ交響楽団という記述があるというわけです。
そして、不幸なことに、現役盤を眺めまして見ても「スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団」だけで録音された演奏がほとんど存在しないのです。
結果として、スタインバーグという指揮者に「地味な伴奏指揮者」というイメージができあがってしまったわけです。

しかし、「ああ、あのミルシテインの伴奏をいつもやっていた人ね」みたいな認識がある方がまだしもましで、「スタインバーグって誰?」という反応の方が一般的かもしれません。
もしかしたら、熱心にPCオーディオに取り組んできた人なら、「知っているよ!ASIO規格を作ったドイツの会社でしょう!!」なんて言われてしまうかもしれません。実際、Googleで「スタインバーグ」と検索すれば一番にヒットするのはそのスタインバーグ社の方です。

スタインバーグという指揮者は典型的な職人タイプの指揮者でした。
いますね、こういう人。
結構いい仕事をしてきたのに、そして、元気に活躍していたときはあちこちからたくさんのお仕事が殺到していたのに、何故か亡くなってしまうと一気に認知度が下がってしまうと言うタイプです。そして、その忘れ去られた録音を久しぶりに引っ張り出して聞き直してみると、これまた不思議なことにどれもこれも「いい仕事」をしているのです。
不思議と言えば不思議、理不尽と言えば理不尽なのですが、それが「芸の世界」というものなのでしょう。

スタインバーグの音楽は基本的にはトスカニーニのスタイルなのでしょうが、あの頑固親父みたいに屈折していないのが素敵でもあり、残念でもあるのです。もしも、彼がもっと屈折していれば、セルやライナーのようになっていたかもしれません。しかし、彼はああいう変人になるには人がよすぎたみたいです。
彼が1952年から1976年まで率いたピッツバーグ響のことを「二流オーケストラ」と書いている人がいますが、それはあまりにも聞く耳がなさすぎます。四半世紀にもわたってこの職人的オーケストラビルダーに率いられたオケが二流であるはずがありません。50年代のモノラル録音を聞いても楽器間のバランス感覚は抜群で、内部の見通しのよいすっきりとした音楽に仕上げる能力を有していたことは誰でもすぐに分かるはずです。

言うまでもないことですが、当時の録音技術では後から楽器間の音量バランスを調整するなどと言うことは不可能ですから、この見通しのよい響きが実際のコンサートホールで鳴り響いていたはずです。
確かに、90年代以降のハイテクオケと比べれば精緻さには欠けるかもしれませんが、この時代の水準を考えれば見事なものです。

ただし、スタインバーグは自らが鍛え上げたこのオケをさらに変質的なまでに締め上げて、「セル&クリーブランド響」や「ライナー&シカゴ響」のようにしようとは思わなかったようです。結果として、彼の音楽にはセルやライナーのような凄みはなかったかわりに、何とも言えない明るくて健康的な直線性を獲得しました。
言葉をかえればあまりにも「脳天気」だと批判することも可能なのでしょうが(たとえばブルックナー)、ある意味ではアメリカの「黄金の50年代」に最もふさわしい音楽になっています。そして、あまりにも屈折しすぎた今という時代にそのような音楽を聞くことは一つの「癒し」でもあります。

その意味では、ベートーベンやブラームスみたいな音楽よりはヘンデルの「水上の音楽」やラヴェルの「ボレロ」「ラ・ヴァルス」みたいな音楽の方が相性がいいように思います。また、ベートーベンならば「皇帝」、ブラームスならば「ピアノ協奏曲第1番」のような外連味あふれる作品の方が好ましく思えます。
ただし、誤解の起きないように言い添えておきますは、それは決して彼のベートーベンやブラームスの交響曲がつまらないと言っているわけではありません。それらもまた、屈託のないトスカニーニのように響きます。もしかしたら、音楽の形としてはシューリヒトに近いのかもしれませんが、スタインバーグの音楽はあれほど淡彩ではありません。その意味では、トスカニーニやシューリヒトの亜流ではない、スタインバーグならではの音楽になっています。

それから、もう一つ加えておくと、ブルックナーのロマンティックやチャイコフスキーのイタリア奇想曲みたいに、「なんだこりゃ??」みたいな演奏もあります。そう言うのを聞くと、面白いと言えば面白い、なかなかに一筋縄ではいかない指揮者だったんだなとニヤリとさせられます。もちろん、そう言うのは許せない!と言う人もいるでしょうが、私は決して嫌いではありません。(追記:確かに、この曲線を多用したイタリア奇想曲は変態的ですらあります。)

なお、聞くところによるとこのコンビによる録音はテープ録音が一般的でなかった時代に「35mmマグネチックフィルム」なるものを使って録音されたこともあるそうです。映画用に作られたテープですからコスト的には10倍以上かかったそうですが、録音できる「情報量」が圧倒的に多かったために音質的なメリットは大きかったようです。
デジタルマスタリングされた状態で聞いても、50年代の初期のモノラル録音としては極上といえる音質です。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



2260 Rating: 5.2/10 (131 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-01-17]

シューベルト:4つの即興曲 D.935 No.3(Schubert:Four Impromptus, D935 [3.Theme and Variations, B Flat Major])
(P)クリフォード・カーゾン 1952年12月9日~11日録音(Clifford Curzon:Recorded on December 9-11, 1952)

[2025-01-15]

サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付」(Camille Saint-Saens:Symphony No.3 in C minor, Op.78 "Symphonie avec orgue")
シャルル・ミュンシュ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック (Org)エドゥアルド・ニース=ベルガー 1947年11月10日録音(Charles Munch:New York Philharmonic (Org)Edouard Nies-Berger Recorded on November 10, 1947)

[2025-01-12]

ショパン:ピアノソナタ第2番 変ロ短調, Op.35 「葬送」(Chopin:Piano Sonata No.2 in B-flat minor Op.35)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1952年発行(Guiomar Novaes:Published in 1952)

[2025-01-09]

ベートーベン:ピアノソナタ第26番 変ホ長調 作品81a 「告別」(Beethoven: Piano Sonata No.26 In E Flat, Op.81a "Les adieux")
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月4日~5日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 3-4, 1960)

[2025-01-06]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第19番「不協和音」 ハ長調 K.465(Mozart:String Quartet No.19 in C major, K.465 "Dissonance")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2025-01-04]

フランク:交響曲 ニ短調(Franck:Symphony in D Minor)
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1954年6月27~7月11日録音(Artur Rodzinski:Wiener Staatsoper Orchester Recorded on June 27-July 11, 1954)

[2025-01-02]

シューベルト:4つの即興曲 D.935 No.2(Schubert:Four Impromptus, D935 [2.Allegretto, a Flat Major])
(P)クリフォード・カーゾン 1952年12月9日~11日録音(Clifford Curzon:Recorded on December 9-11, 1952)

[2024-12-30]

シューベルト:4つの即興曲 D.935 No.1(Schubert:Four Impromptus, D935 [1.Allegro Moderato, F Minor])
(P)クリフォード・カーゾン 1952年12月9日~11日録音(Clifford Curzon:Recorded on December 9-11, 1952)

[2024-12-28]

ワーグナー:「ワルキューレ」魔の炎の音楽(Wagner:Magic Fire Music from "Die Walkure")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月4日録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-12-24]

ベートーベン:ヴァイオリンソナタ第5番 へ長調 Op.24 「スプリング」(Beethoven:Violin Sonata No.5 in F major, Op.24 "Spring")
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)