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ドビュッシー:前奏曲集 第2巻


(P)フェルベール 1953年6月録音


ショパンへのオマージュ?



ドビュッシーはショパンを深く尊敬していました。その意味で言えば、この作品は明らかにショパンに対する捧げ物だったといえます。しかし、それと同時にピアノという楽器の可能性の新しい地平を切り開いたという自負を持っていたドビュッシーですから、単なるオマージュという範囲には収まりきらない対抗心のような物も感じ取れる作品であることも事実です。
ただし、ドビュッシーはこれらの作品をショパンの前奏曲のように「まとまった作品」とは考えていなかったようです。その証拠に、初演の時も、「デルフの舞姫」・「帆」・「沈める寺」・「パックの踊り」の4曲だけが取り上げられました。また、24曲がそろっていても、バッハやショパンのように各調性に1曲ずつ割り当てられていないこともその様な「まとまり」を意識していなかったことをあらわしています。
ドビュッシー自身もこれらの作品をまとめて演奏する必要を認めていなかったようで、「いい物もあれば、悪い物もある」と語っていたそうです。

なお、この前奏曲集の全ての作品にはドビュッシーの手によってユニークな標題がつけられています。ドビュッシーはこの前奏曲集に限らず、自らの作品のほとんどに何らかの標題をつけています。
これは考えてみると実に不思議なことです。何故ならば、ドビュッシーのピアノ音楽に対する最大の貢献は新しい響きを発見したことであり、その最大の価値は音色とリズムにこそあります。その意味で、彼の音楽はいわゆる「標題つきの音楽」とは最も遠い場所に存在しているのであって、その標題だけを見ればロマン派時代のピアノ小品のように見えて、その内実においては新ウィーン楽派の音楽の方が近しいのです。
それでもドビュッシーはほとんどの作品に何らかの標題をつけているのです。
ですから、ドビュッシーの音楽を考える上でそれらの標題は決して無視することは出来ないのです。

おそらくは、ドビュッシーは全く新しい純粋な音の世界を構築しながらも、新ウィーン楽派とは異なる道を歩むことを、そして、歩んできたことをそれらの標題によって宣言しているのでしょう。
つまり、彼にとって新しく見いだした音色とリズムは「目的」ではなくて、新しい表現を実現するための「手段」にすぎなかったのではないでしょうか。
そして、彼が目的としたのは、その様な新しい音色やリズムによって醸し出される「雰囲気」にこそあったのではないでしょうか。その、「新しい雰囲気」を聞き手に伝えるための手段として彼は「標題」にこだわったのではないでしょうか。
彼にとって音楽とは単純な音の構造物に還元することは出来ない物だったのでしょう。ですから、私たちがドビュッシーの音楽に親しむときは、そのれらの標題の助けを得て、その音楽が醸し出す雰囲気に身を浸すことこそが肝要なのではないでしょうか。
そう思えば、ドビュッシーを聴きに行くといつも爆睡してしまうユング君の聴き方は実に正しい聴き方だったのかもしれません。(何故か、ドビュッシーを聴くと眠ってしまう己の自己弁護・・・?^^;)

前奏曲集 第1巻

  1. デルフィの舞姫 - Danseuses de Delphes

  2. ヴェール(帆) - Voiles

  3. 野を渡る風 - Le vent dans la plaine

  4. 夕べの大気に漂う音と香り - Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir

  5. アナカプリの丘 - Les collines d'Anacapri

  6. 雪の上の足跡 - Des pas sur la neige

  7. 西風の見たもの - Ce qu'a vu le vent d'ouest

  8. 亜麻色の髪の乙女 - La fille aux cheveux de lin

  9. とだえたセレナード - La serenade interrompue

  10. 沈める寺 - La cathedrale engloutie

  11. パックの踊り - La danse de Puck

  12. ミンストレル - Minstrels



前奏曲集 第2巻

  1. 霧 - Brouillards

  2. 枯葉 - Feuilles mortes

  3. ヴィーノの門 - La Puerta del Vino

  4. 妖精たちはあでやかな踊り子 - Les Fees sont d'exquises danseuses

  5. ヒースの荒野 - Bruyeres

  6. 奇人ラヴィーヌ将軍 - General Lavine - excentrique

  7. 月の光が降り注ぐテラス - La terrasse des audiences du clair de lune

  8. 水の精 - Ondine

  9. ピクウィック殿をたたえて - Hommage a S. Pickwick Esq. P.P.M.P.C.

  10. カノープ - Canope

  11. 交代する三度 - Les tierces alternees

  12. 花火 - Feux d'artifice


茫洋とした響きがクリアに表現されている演奏


「Albert Ferber」は「アルベール・フェルベール」と読むそうです。そんなことを紹介しなければいけないほどに、このピアニストは忘れ去られた存在になっています。

調べてみると、1919年にスイスのルツェルンに生まれ、マルグリット・ロンやヴァルター・ギーゼキングといった名匠に師事し、ラフマニノフの薫陶も受けたピアニスト・・・という紹介がされていました。
そして、ピアニストとして成功してからは活動の本拠をイギリスに据えるのですが、録音活動は「デュクレテ=トムソン」と言うフランスのローカルレーベルで行ったので、フランス風の「アルベール・フェルベール」が定着したようです。

彼はこの「デュクレテ=トムソン」というレーベルでかなり多くの録音活動を行い、特にこのドビュッシーの録音は高く評価されたようです。
しかし、ローカルレーベルの悲しさか、レーベルの消滅とともに彼の録音も忘れ去られてしまったようです。
ただし、中古LP市場ではかなりの高値で取引されているようですから、一部の好事家の間での評価は高かったようです。

そして、最近になって、漸くにしてCDによる復刻がなされ、誰もが簡単に聞けるようになってみると、なるほど、分かっている人には分かっていたんだと納得できる素晴らしい演奏でした。
そして、個人的な感想を言わせてもらえば、どうにもこうにも苦手だったドビュッシーのピアノ作品を、初めて面白く聞かせてもらえることができました。

私が苦手だったのは、あの茫洋としたドビュッシーの響きです。
何を言ってるんだ、それこそがドビュッシーの魅力なんだろう!と言われそうなのですが、まさにそれこそが「嫌い」だったのです。

しかし、このフェルベールのピアノによるドビュッシーには、そう言う茫洋とした雰囲気が希薄です。
おかしな言い方ですが、その茫洋とした響きがクリアに表現されているような気がするのです。ですから、ドビュッシーの音楽にいつも感じるとりとめのなさが姿を消して、どこかにとっかかりを持ちながら聞き続けることができるのです。

そう考えると、これは異端なドビュッシー演奏なのかも知れませんが、これを好きだという人がいて、とんでもない高値で中古LPを購入する人もいるのですから、これはこれで立派なドビュッシーなのでしょう。

なお、「デュクレテ=トムソン」というレーベルはかなりの優秀録音だったようで、50年代中頃のモノラル録音とは信じがたいほどのクリアな音質です。
また、彼のドビュッシー演奏の中ではこの「前奏曲集」が最も高く評価されているようです。しかし、その是非を判断できるほど良いドビュッシーの聞き手ではありません。
しかし、一つだけ言えることは、この「前奏曲集」を最後まで退屈しないで聞き続けられる数少ない演奏であるとことです。その事だけは、責任を持って保障できます。

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