クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(Vienna_Concert_House_Quartet)|ブラームス:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34

ブラームス:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団 (P)イエルク・デムス 1954年録音



Brahms:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34 「第1楽章」

Brahms:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34 「第2楽章」

Brahms:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34 「第3楽章」

Brahms:ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34 「第4楽章」


最後まで楽しく聞き通せる音楽

ブラームスは弦楽4部にピアノを加えた五重奏曲はこの一曲しか残しませんでした。しかし、この作品の成立過程を振り返ってみると、これがかなりの「鬼子」であったことが分かるはずです。そして、そう言う「鬼子」であるがゆえに、彼はこの形式では1曲しか残さなかったことが納得できるはずです。

よく知られているように、この作品は最初は弦楽4部にチェロを加えた弦楽五重奏曲として構想されました。
この五重奏曲は早々と最初の3楽章が完成をしたようで、1862年の8月にはクララに見せています。そして、その4ヶ月後の12月には最後楽章も完成してクララに感想を求めています。しかし、その反応はまり芳しいものではなかったようで、友人のヨアヒムもまた暗に改訂を求めるような手紙を書き送っています。
その結果として、ブラームスは翌年の4月から何度も書き直しを行い、そして何度か試演も繰り返します。しかし、その結果は思わしくないものとなったようなのです。おそらくは、弦楽4部にチェロを加えたために響きが分厚くなりすぎて明瞭さを欠いたのが原因だったようです。
そこで、ブラームスらしく、彼はこの作品を廃棄してしまい、その代わりにこれをもとに2台のピアのためのソナタに仕立て直してしまいます。このソナタが完成したのは1864年の2月頃だったようです。しかし、このピアノ曲も演奏会ではほとんど話題になることもなく、やっぱり駄目だったか・・・、と言う結果になってしまいます。やはり、もとが弦楽五重奏曲として構想された音楽なので、それをピアノに置き換えると失われてしまうものが大きかったようなのです。クララからも「素晴らし音楽の数々がピアノでは飛んでいってしまいます。」という手紙を受け取り、彼はもう一度弦楽を含んだ音楽に書き直すことを決心します。

また、この時期には弦楽六重奏曲の第2番に取りかかっていて、彼の興味が再び弦楽による室内楽の方にむかうようになっていました。そこで、最終的には弦楽五重奏曲と2台にピアノのためのソナタの合体作品としてピアノを含んだ五重奏曲に仕立て直すことになったわけです。
つまり、この作品は弦楽五重奏曲→2台のピアのためのソナタ→ピアノ五重奏曲という変遷を経て1864年の終わり頃には完成に至ったようなのです。

しかし、完成にたるまでには長い時間を要したのですが、1865年の初演で好意を持って迎えられると、多くの演奏会で取り上げられるようになり、1868年にはパリでも紹介されるようになります。

この作品は、今ではブラームスの室内楽作品の中でも一つの頂点とも言える作品として数えられますが、同時に、この形式の作品としてはシューマンの五重奏曲と肩を並べる最高傑作と評価されています。確かに、ブラームスらしい渋さと重厚さにはあふれているのですが、そう言う口当たりの悪い部分が前面に出ることなく、逆に情熱にあふれた若々しさが作品全体を覆っています。
冒頭の第1楽章はブラームスらしい気むずかしさが前面に出ていますが(^^;、力強さと激しさにもあふれています。それに続く際2楽章は一転して叙情的で優しげな雰囲気になるのですが、それも次第に渋くて厚ぼったくなっていくのはブラームスの本能なのでしょうか。さらに、第3楽章はスケルツォ楽章なのですが、おそらくこれだけを単独で聞けばブラームスの作品とは思えないほどに活気に満ちています。
しかし、それもまた最終楽章の冒頭で陰気なブラームスに戻るなぁ・・・と思うとそれは序奏であって、本体はチェロが静かに第1主題を歌い出して活気にあふれた音楽になっていきます。難しい顔をしなくても最後まで楽しく聞き通せる音楽であることは事実です。


楽しく、分かりやすく

現在の弦楽四重奏団の方向性というものは、アメリカにおけるジュリアードやラ・サール、さらにはそれらの影響を受けて、ウィーンでもアルバン・ベルク四重奏団らに代表されるような譜面を正確に音にかえる精緻な演奏スタイルが主流となっています。いや、「譜面を正確に音にかえる」というのはいささか正確さに欠ける表現ですね。「譜面を正確に音にかえる」というのは最低限の前提であって、そのうえでカルテットの4つのパートが同じ重みを持って精緻極まるアンサンブルを実現することが主流になっているのです。

そういう現在の流れから行くと、このコンツェルトハウスの演奏はポルタメントを多用し、歌い回すことに重点をおきすぎたがためにきわめて不正確な演奏になっているという批判はあるでしょう。
また、第1ヴァイオリンのカンパーがリーダー的な役割を果たして、その個性にしたがってじっくりと歌い上げていくスタイルは前世紀の遺物とも言うべき演奏スタイルなのですが、それがこの上もなく耳に心地よいのも否定しきれません。
カンパーは「ムジカー(音楽家)だったが、同時にムジカント(楽士)でもあった」と評されたように、その基本はあくまでも楽しさを大切にした音楽家でした。
確かに、4つのパートが対等の立場で緊密かつ機能的なアンサンブルを形作っていく現在的なスタイルもスリリングな魅力にあふれてはいるのですが、全てが全て、上手下手の違いはあっても同じスタイルでは飽き飽きしてしまいます。

ちなみに、この団体は途中でメンバーが入れ替わるのですが、そのうちのチェロとヴィオラの新しいメンバーは後にウェルナー・ヒンクのもとでウィーン弦楽四重奏団を結成します。そして、このウィーン弦楽四重奏団は日本のカメラータとの共同作業でシューベルトの弦楽四重奏団の全曲録音を完成させることになります。その演奏は、精緻さを何よりも優先する現在的スタイルとは一線を画したもので、明らかにコンツェルトハウス以来の伝統を現在的な姿で引き継いだものとなっています。
ウィーンの凄さはこのような地下水脈におけるつながりにあることをあらためて認識させられるエピソードです。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



1868 Rating: 4.9/10 (212 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2022-05-04:コタロー





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-12-06]

ラヴェル:夜のガスパール(Ravel:Gaspard de la nuit)
(P)ジーナ・バッカウアー:(語り)サー・ジョン・ギールグッド 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Read)Sir John Gielgud Recorded on June, 1964)

[2025-12-04]

フォーレ:夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74(Faure:Nocturne No.7 in C-sharp minor, Op.74)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-12-02]

ハイドン:弦楽四重奏曲第32番 ハ長調, Op.20, No.2, Hob.3:32(Haydn:String Quartet No.32 in C major, Op.20, No.2, Hob.3:32)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2025-11-30]

チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58(Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年11月13日~16日&21日録音(Constantin Silvestri:French National Radio Orchestra Recorded on November 13-16&21, 1959)

[2025-11-28]

ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major ,Op.93)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年5月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on May, 1961)

[2025-11-26]

ショパン: ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21(Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21)
(P)ジーナ・バッカウアー:アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Con)Antal Dorati London Symphony Orchestra Recorded on June, 1964)

[2025-11-24]

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調, Op.127(Beethoven:String Quartet No.12 in E Flat major Op.127)
ハリウッド弦楽四重奏団:1957年3月23日,31日&4月6日&20日録音(The Hollywood String Quartet:Recorded on March 23, 31 & April 6, 20, 1957)

[2025-11-21]

ハイドン:弦楽四重奏曲第31番 変ホ長調, Op.20, No1, Hob.3:31(Haydn]String Quartet No.31 in E flat major, Op.20, No1, Hob.3:31)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1938年6月5日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on June l5, 1938)

[2025-11-19]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」 ハ長調 Op.53(eethoven:Piano Sonata No.21 in C major, Op.53 "Waldstein")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1956年3月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on March, 1956)

[2025-11-17]

フォーレ:夜想曲第6番 変ニ長調 作品63(Faure:Nocturne No.6 in D-flat major, Op.63)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)