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ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第1集 作品46


ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1955年4月8日~5月27録音


ドヴォルザークの出世作

ドヴォルザークは貧乏でした。
ヴィオラ奏者をしたり、教会のオルガニストをしながら創作活動を続けていましたが、それでも生活は苦しくて、政府からの奨学金を得るために作品を出品をしてなんとか食いつないでいました。
そんなドヴォルザークに転機を与えたのが、この奨学金獲得のために出品していた作品でした。幸運だったのは、審査員の中にブラームスとハンスリックがいたことでした。特に、ブラームスはドヴォルザークの才能を高く評価し、なじみの出版業者だったジムロックに紹介の労をとります。ジムロックもブラームスからの紹介だと断れなかったのでしょう、早速に「モラヴィア二重唱曲」を出版するのですが、これが予想外に好評で、これをきっかけとしてドヴォルザークの名は広く知られるようになります。
そして、次に企画されたのがブラームスのハンガリー舞曲のような作品で、「スラブ舞曲」として8曲が注文されます。
最初は4手用のピアノ曲集として出版されたのですが、この作品はたちまち人気作品となり、すぐに管弦楽用に編曲されます。すると、このオーケストラ版も各地のオケが競ってプログラムに取り上げるようになって、ドヴォルザークの名声は世界的に確立されるようになりました。
やはり、人間というのは苦しいときに腐ってしまっては駄目で、そう言うときこそ努力を続けなければいけません。ドヴォルザークはこの幸運のきっかけとなった奨学金獲得のための作品提出を5年も続けていました。この5年の努力が結果としてブラームスの目にとまることにもなったのでしょうし、おそらくはこの5年の努力が作曲家としてのドヴォルザークの力量を大きく伸ばすことにもなったのでしょう。そして、その実力があったればこそ、ひとたびきっかけを得た後は、そのきっかけを確実な「成功」に結びつけることができたのだと思います。

まさに、スラブ舞曲こそはドヴォルザークの出世作でした。

第1番:プレスト ハ長調 4分の3拍子
第2番:アレグレット・スケルツァンド ホ短調 4分の2拍子
第3番:ポーコ・アレグロ 変イ長調 2分の2拍子
第4番:テンポ・ディ・ミヌエット ヘ長調 4分の3拍子
第5番:アレグロ・ヴィヴァーチェ イ長調 4分の2拍子
第6番:アレグレット・スケルツァンド ニ長調 4分の3拍子
第7番:アレグロ・アッサイ ハ短調 4分の2拍子
第8番:プレスト ト短調 4分の2拍子

ミッシング・リンク


いったいどこで、はたまた何がきっかけでロジンスキーに「爆演型指揮者」というラベルがついてしまったのでしょうか?

先に紹介したドヴォルザークの「新世界より」などは、直線的で攻撃的と言えるような部分があるにせよ、演奏の基本は「精緻」さへの執念であって「爆演」などとはかけ離れた音楽でした。彼の録音(特に、50年代のウェストミンスター録音)をまとめて聴いてみても「爆演」と言えるような録音は存在しませんでした。
もちろん、探せばどこかに「爆演」と言われるような『粗雑ではあっても勢いだけで押し切る』ようなライブ録音があるのかもしれません。しかし、彼自身が承認した正規録音を聞く限り、ロジンスキーの本質は「精緻」に尽きると思います。

世の中には「勘違い」というものは存在するのですが、この「勘違い」は酷すぎます。
ロジンスキーという男は「精緻」さへの執念ゆえに周囲から嫌われ、疎まれて、ついにはアメリカから追放された男なのです。ひたすら精緻に音楽を再現することに全力を尽くした男が、何かの拍子でそれとは真逆の「爆演型指揮者」というレッテルを貼られたことを知れば、あの世で苦笑を禁じ得ないでしょう。そして、そんな「爆演で良しとできたならば俺の人生、あんなに苦労しなかったよ・・・」とぼやいていることでしょう。
もう一度繰り返しますが、ロジンスキーの本質は「爆演」ではなく「精緻さへの執念」です。

ですから、まとめて聴いた中でひとしお気に入ったのが「ペールギュント組曲」です。

何より素晴らしいのがオケの響きです。
低声部をしっかりと響かせた上に全ての楽器がキチンと役割を果たし、さらにはそれらの楽器のバランスが絶妙にコントロールされています。このゴリゴリとした手応え充分のオケの響きは実に魅力的ですし、その響きでもって描かれるペールギュントの世界は端正そのものです。
そして、驚くのは、そう言う響きのおいしさを見事にすくい上げているウェストミンスター録音の素晴らしさです。

ウェストミンスターの録音というとあまり音が良くないというのが通り相場でした。
しかし、このレーベルの録音は決してクオリティが低かったわけではありません。そうではなくて、60年代に経営が破綻した後に身売りが繰り返され、そのドタバタの中でマスターテープが行方不明になった事が大きな原因でした。マスターテープが行方不明になってからは劣悪なコピーテープからレコードが制作され、さらには「廉価盤」と言うことで材質も粗悪なものが多かったようで、結果として「音の悪いウェストミンスター録音」が出回ることになってしまったわけです。
その後、このレーベルの業績を深くリスペクトしている日本人の手によってゴミ同然に積み上げられている段ボール箱の中からマスターテープが発掘された話は有名です。そして、その発掘されたマスターテープから制作されたCDは、それまでの粗悪品とは別物と言ってもいいほどの音質によみがえったことも、これまた有名な話です。

それでも、ウェストミンスターと言えば実内楽録音がメインですから、ロジンスキーやシェルヘンのような人の業績にまで音質改善の恩恵が及ぶには時間がかかりましたし、未だに粗悪な音質のCDもたくさん出回っているようです。
ただし、MP3に変換した音源で、そう言うオケのおいしい響きがどこまで伝わるのかはいささか不安はあります。
もしも、そのあたりに興味があるようでしたら、できるだけ早くFLACファイルもアップしたいと思いますので、それなりのオーディオシステムで再生してみてください。響きの素晴らしさだけでなく、モノラルとは思えないほどにクリアに楽器が分離していますので、ロジンスキーがどれほどの執念でもってオケをコントロールしているかが手に取るように分かるはずです。

ただし、あれこれ聞いてみて、ロシアや東欧系という周辺部の(こんな言い方は独墺至上主義みたいで嫌なのですが^^;)音楽には非常に高い適応力を示しても、ベートーベンやワーグナーみたいな音楽になるとガタイが小さくなって、いささか不満を感じる事は正直に述べておきます。非常に精緻ではあるのですが、それが結果として音楽をこぢんまりとさせてしまっています。

しかし、ドヴォルザークのスラブ舞曲やコダーイの舞曲、ハーリ・ヤーノシュ組曲などは実に見事なものです。また、独墺系の音楽でもシュトラウスのワルツなんかだとガタイの小ささはあまり気にならないので、セルやライナーを思わせるような直線的で鮮烈な音楽はなかなかに見事なものです。
そう言う意味では、ロジンスキーという指揮者はトスカニーニからライナー、セルへとつながっていく系譜の中で、その間に位置する「ミッシング・リンク」みたいな存在だったのかもしれません。
そう考えると、指揮芸術の歴史的系譜の中で、一度くらいは目配せはしておいた方がいい存在なのかもしれません。

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