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ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14

パレー指揮 デトロイト響 1958年3月録音



Berlioz:幻想交響曲 作品14 第1楽章「夢、情熱」

Berlioz:幻想交響曲 作品14 第2楽章「舞踏会」

Berlioz:幻想交響曲 作品14 第3楽章「野の風景」

Berlioz:幻想交響曲 作品14 第4楽章「断頭台への行進」

Berlioz:幻想交響曲 作品14 第5楽章「魔女の夜宴の夢」


ベートーベンのすぐ後にこんな交響曲が生まれたとは驚きです。

ユング君はこの作品が大好きでした。「でした。」などと過去形で書くと今はどうなんだと言われそうですが、もちろん今も大好きです。なかでも、この第2楽章「舞踏会」が大のお気に入りです。

 よく知られているように、創作のきっかけとなったのは、ある有名な女優に対するかなわぬ恋でした。
 相手は、人気絶頂の大女優であり、ベルリオーズは無名の青年音楽家ですから、成就するはずのない恋でした。結果は当然のように失恋で終わり、そしてこの作品が生まれました。

 しかし、凄いのはこの後です。
 時は流れて、立場が逆転します。
 女優は年をとり、昔年の栄光は色あせています。
 反対にベルリオーズは時代を代表する偉大な作曲家となっています。
 ここに至って、漸くにして彼はこの恋を成就させ、結婚をします。

 やはり一流になる人間は違います。ユング君などには想像もできない「しつこさ」です。(^^;

 しかし、この結婚はすぐに破綻を迎えます。理由は簡単です。ベルリオーズは、自分が恋したのは女優その人ではなく、彼女が演じた「主人公」だったことにすぐに気づいてしまったのです。
 恋愛が幻想だとすると、結婚は現実です。そして、現実というものは妥協の積み重ねで成り立つものですが、それは芸術家ベルリオーズには耐えられないことだったでしょう。「芸術」と「妥協」、これほど共存が不可能なものはありません。

 さらに、結婚生活の破綻は精神を疲弊させても、創作の源とはなりがたいもので、この出来事は何の実りももたらしませんでした。
 狂おしい恋愛とその破綻が「幻想交響曲」という実りをもたらしたことと比較すれば、その差はあまりにも大きいと言えます。

 凡人に必要なもは現実ですが、天才に必要なのは幻想なのでしょうか?それとも、現実の中でしか生きられないから凡人であり、幻想の中においても生きていけるから天才ののでしょうか。
 ユング君も、この舞踏会の幻想の中で考え込んでしまいます。

なお、ベルリオーズはこの作品の冒頭と格楽章の頭の部分に長々と自分なりの標題を記しています。参考までに記しておきます。

「感受性に富んだ若い芸術家が、恋の悩みから人生に絶望して服毒自殺を図る。しかし薬の量が足りなかったため死に至らず、重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見る。その中に、恋人は1つの旋律となって現れる…」
第1楽章:夢・情熱

「不安な心理状態にいる若い芸術家は、わけもなく、おぼろな憧れとか苦悩あるいは歓喜の興奮に襲われる。若い芸術家が恋人に逢わない前の不安と憧れである。」

第2楽章:舞踏会

「賑やかな舞踏会のざわめきの中で、若い芸術家はふたたび恋人に巡り会う。」

第3楽章:野の風景

「ある夏の夕べ、若い芸術家は野で交互に牧歌を吹いている2人の羊飼いの笛の音を聞いている。静かな田園風景の中で羊飼いの二重奏を聞いていると、若い芸術家にも心の平和が訪れる。
無限の静寂の中に身を沈めているうちに、再び不安がよぎる。
「もしも、彼女に見捨てれられたら・・・・」
1人のの羊飼いがまた笛を吹く。もう1人は、もはや答えない。
日没。遠雷。孤愁。静寂。」

第4楽章:断頭台への行進

「若い芸術家は夢の中で恋人を殺して死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。その行列に伴う行進曲は、ときに暗くて荒々しいかと思うと、今度は明るく陽気になったりする。激しい発作の後で、行進曲の歩みは陰気さを加え規則的になる。死の恐怖を打ち破る愛の回想ともいうべき”固定観念”が一瞬現れる。」

第5楽章:ワルプルギスの夜の夢

「若い芸術家は魔女の饗宴に参加している幻覚に襲われる。魔女達は様々な恐ろしい化け物を集めて、若い芸術家の埋葬に立ち会っているのだ。奇怪な音、溜め息、ケタケタ笑う声、遠くの呼び声。
”固定観念”の旋律が聞こえてくるが、もはやそれは気品とつつしみを失い、グロテスクな悪魔の旋律に歪められている。地獄の饗宴は最高潮になる。”怒りの日”が鳴り響く。魔女たちの輪舞。そして両者が一緒に奏される・・・・」


妄想の爆発に向けて突き進んでいく音楽

ひと言で言えば強烈きわまりない幻想です。
ただし、その強烈さの方向性はミンシュのようなドロドロの愛憎劇とは正反対の方向性での強烈さだというのがこの録音の売りでしょう。

第1楽章の「夢、情熱」も、第2楽章の「舞踏会」も、それはどこかピシッと背筋が伸びたような生真面目さが漂っています。しかし、感情の高ぶりにあわせて舞踏会の最後ではとんでもないことになっていくのですが、まだまだ序の口です。続く第3楽章の「野の風景」では、吹く風はどこかひんやりとした冷たささえ感じる風情に戻ってしまいます。
実は、幻想交響曲殺人事件の殺人現場はこの第3楽章なのですが、その冷たさ故に、殺人は極めて冷静に実施されているように聞こえます。

しかし、この演奏の真骨頂は、それに続く第4楽章からのベルリーズの妄想の爆発です。
今さら言うまでもないことでしょうが、この第4楽章の「断頭台への行進」とそれに続く最終楽章の「魔女の夜宴の夢」はベルリオーズの妄想の爆発そのものです。ですから、音楽はその妄想の爆発に向けて突き進んでいくのですが、パレーの指揮はそう言う突き進んでいく妄想に一切逆らうことなく、その流れに乗って一気に音楽を突っ走らせます。ここまで躊躇いなく、爆発する妄想の頂点に向けて一直線に突き進んでいく演奏は他には思い当たりません。
ですから、これを聴いて「速すぎる!」という人はバーンスタインの録音でも聞いていればいいのです。(バーンスタインファンの人ご免なさい^^;)
おそらく、この録音ほどにベルリオーズという人間の異常さを際だたせた演奏はないでしょうね。

もちろん、ミンシュのドロドロ愛憎劇も面白いことはこの上なしですが、それとは正反対の、このようなシュールな妄想劇も聞きごたえ充分です。

ただし、一つだけ無い物ねだりをするならば、オケの響きにパレーの要求に相応しい切れ味がないことです。
もちろん、頑張っているとは思うんです。
いや、パレーの指揮に応えて必死で頑張っている姿は痛いほどには伝わってくるんです。

しかし、おそらく3本のマイクでワンポイント録音されたために、頑張っても頑張っても、どうしても追随しきれずにモゴモゴとなってしまう場面(おそらく弦楽合奏)があからさまにさらけ出されてしまっています。
これが、後年のマルチマイク録音ならばいかようにも誤魔化しがきいたのでしょうが、ワンポイント録音ではそのようなお化粧直しは不可能です。
結果として、どこかもっさりした感じがつきまとうのですが、それはまあ、やはり無い物ねだりなのでしょうね。もしも、これでオケに切れ味があれば、おそらくあらゆる幻想の録音はこのパレーの前にひざまずかなければいけなかったでしょう。

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