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ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15

(P)カーゾン セル指揮 ロンドン交響楽団 1962年5月30日~6月1日録音



Brahms:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 「第2楽章」

Brahms:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 「第3楽章」




交響曲になりそこねた音楽?

木星は太陽になりそこねた惑星だと言われます。その言い方をまねるならば、この協奏曲は交響曲になりそこねた音楽だといえます。

諸説がありますが、この作品はピアノソナタとして着想されたと言われています。それが2台のピアノのための作品に変容し、やがてはその枠にも収まりきらずに、ブラームスはこれを素材として交響曲に仕立て上げようとします。しかし、その試みは挫折をし、結局はピアノ協奏曲という形式におさまったというのです。
実際、第1楽章などではピアノがオケと絡み合うような部分が少ないので、ピアノ伴奏付きの管弦楽曲という雰囲気です。これは、協奏曲と言えば巨匠の名人芸を見せるものと相場が決まっていただけに、当時の人にとっては違和感があったようです。そして、形式的には古典的なたたずまいを持っていたので、新しい音楽を求める進歩的な人々からもそっぽを向かれました。

言ってみれば、流行からも見放され、新しい物好きからも相手にされずで、初演に続くライプティッヒでの演奏会では至って評判が悪かったようです。
より正確に言えば、最悪と言って良い状態だったそうです。
伝えられる話によると演奏終了後に拍手をおくった聴衆はわずか3人だったそうで、その拍手も周囲の制止でかき消されたと言うことですから、ブルックナーの3番以上の悲惨な演奏会だったようです。おまけに、その演奏会のピアニストはブラームス自身だったのですからそのショックたるや大変なものだったようです。
打ちひしがれたブラームスはその後故郷のハンブルクに引きこもってしまったのですからそのショックの大きさがうかがえます。

しかし、初演に続くハンブルクでの演奏会ではそれなりの好評を博し、その後は演奏会を重ねるにつれて評価を高めていくことになりました。因縁のライプティッヒでも14年後に絶賛の拍手で迎えられることになったときのブラームスの胸中はいかばかりだったでしょう。

確かに、大規模なオーケストラを使った作品を書くのはこれが初めてだったので荒っぽい面が残っているのは否定できません。1番の交響曲と比較をすれば、その違いは一目瞭然です。
しかし、そう言う若さゆえの勢いみたいなものが感じ取れるのはブラームスの中ではこの作品ぐらいだけです。ユング君はそう言う荒削りの勢いみたいなものは結構好きなので、ブラームスの作品の中ではかなり「お気に入り」の部類に入る作品です。

豪快極まるブラームス


伝え聞くところによると、この録音の時のセルとカーゾンの関係は最悪だったそうです。どこで読んだのか記憶は曖昧なのですが、聞いてみれば、「なるほどそうだろうなぁ」と納得の演奏ではあります。
つまりは、以心伝心でお互いの気持ちが通じあったからと言って良い演奏ができるわけではない・・・という見本のようなものです。

その聞いた話では、録音の最初から最後までセルとカーゾンはいがみ合っているとしか思えないような最悪の関係で、オケのメンバーだけでなく、プロデューサーのカルーショーもかなり気をもんだとのことです。しかしながら、出来上がった演奏は最高のできばえというのですから、本当に音楽というものは、そして、とりわけコンチェルトというカテゴリは不思議なものです。

この演奏の最大の聞き所は、言うまでもなくこの両者の「緊張関係」が生み出す第1楽章の「軋み」にあります。
カーゾンというピアニストはパワーに任せてガンガン弾きまくるタイプではないのですが、ここでは結構勝負にいっています。セルの方は当然ながらそれを受けてオケを豪快にドライブしていますから、出来上がった音楽はまさに青春というものが持つ思い詰めたような激情と緊迫感が遺憾なく表現されています。

よく知られているように、この作品は複雑な経緯を経て生み出されています。
最初は3楽章構成のピアノソナタとして構想されたものの、やがては「ピアノ」という単一楽器の枠には収まりきらないことが分かり、それならと言うので「交響曲第1番」として発展させようと言うことになりました。しかしながら、交響曲と言うことになると、これまたよく知られているように彼の頭の上にはベートーベンが重くのしかかっていたので、結局はその重みにも耐えきれず、最後は一瞬の思いつきでピアノ協奏曲として完成したと曰く付きの作品です。

結果として、この協奏曲は「ピアノ助奏つきの交響曲」と呼ばれるようになるのですが、それ以上に、内面的には後の交響曲第1番との近しさを感じます。
吉田秀和氏が第1番の交響曲に「青春の澱」のようなものを感じるといったことは有名ですが、この協奏曲はそれ以上に「気張った感情」が感じ取れます。そして、そう言う「気張った感情」が最高にぶちまけられているのがこの録音です。
この録音の時、カーゾンは50歳過ぎ、セルも60歳過ぎだったのですが、実にもって「若い」もので、すっかり感心させられててしまいます。

しかし、第2楽章になると、これはカーゾンの繊細極まるピアノが本領を発揮しています。
カルーショーはどこかで、「カーゾンの繊細な音の素晴らしさを録音でとらえるのは空を飛ぶ鳥をつかまえるより難しい」と語っていたそうです。これを生で聞けた人は実に幸せだったことでしょう。そして、当然のことながら、カーゾンは第2楽章の流れで繊細さを前面に出して最終楽章も演奏していこうとします。ところが、セルはお構いなしにオケを豪快に鳴らしにいくのですから、まあ「仲良く」なれるわけがありません。

しかし、カーゾンはここではもうあえて勝負にはいかず、お互いがお互いの道を進み始めています。
こうなると、結果としてミスマッチが生じてうまくいかないのが普通なのですが聞いてみると、これはこれで「なるほど、これはピアノ助奏つきの交響曲だったなぁ」と妙に納得させられる雰囲気が楽しかったりします。

誰かがこの録音を評して「枝葉を全て取っ払って太い幹だけでできているような演奏」だと書いていました。さすがにそれは言いすぎだろうとは思ったのですが(^^;、しかし、この作品の持つ豪快な味を言い表すにはなかなか上手い表現だとは思いました。
好き嫌いはあって、こういう類の演奏は絶対に好きになれないという人もいるでしょうが、個人的には今もってこの作品のベストです。

最後に余談ですが、セルにとって数少ないピアニストの友人だったルドルフ・ゼルキンと喧嘩別れをしたのも、きっかけはこの作品の録音(1968年)だったそうです。
ですから、指揮者とピアニストにとってはこの作品は基本的に難しい作品なのでしょう。
ちなみに、カラヤンはこの作品を一度も録音していないそうです。


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