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Home|シュタルケル(Janos Starker)|バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011

バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011

(Vc)シュタルケル 1957年~1959年録音



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組曲について

「組曲」とは一般的に何種類かの舞曲を並べたもののことで、16世紀から18世紀頃の間に流行した音楽形式です。この形式はバロック時代の終焉とともにすたれていき、わずかにメヌエット楽章などにその痕跡を残すことになります。
 その後の時代にも組曲という名の作品はありますが、それはこの意味での形式ではなく、言ってみれば交響曲ほどの厳密な形式を持つことのない自由な形式の作品というものになっています。
 この二通りの使用法を明確に区別するために、バッハ時代の組曲は「古典組曲」、それ以後の自由な形式を「近代組曲」とよぶそうです。まあ、このような知識は受験の役に立っても(たたないか・・)、音楽を聞く上では何の役にも立たないことではありますが。(^^;

 バッハは、ケーテンの宮廷楽長をつとめていた時代にこの組曲形式の作品を多数残しています。
 この無伴奏のチェロ組曲以外にも、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ、無伴奏フルートのためのパルティータ、そして管弦楽組曲等です。
 それにしても疑問に思うのは、この難曲である無伴奏のチェロ組曲を誰が演奏したのかということです。
 ヴァイオリンの方はおそらくバッハ自身が演奏したのだろうと言われていますが、チェロに関してはそれほどの腕前は持っていなかったことは確かなようです。
 だとすると、ケーテンの宮廷楽団のチェロ奏者がこの曲を演奏したと言うことなのでしょうか。現代においてもかなりの難曲であるこの作品を一体彼はどのような思いで取り組んだのでしょうか。
 
 もっとも、演奏に関わる問題は作品にも幾ばくかの影響は与えているように思います。
 なぜなら、ヴァイオリンの無伴奏組曲と比べると6曲全てが定型的なスタイルを守っています。
 また、ヴァイオリンの組曲はシャコンヌに代表されるように限界を超えるほどのポリフォニックな表現を追求していますが、チェロ組曲では重音や対位法的な表現は必要最小限に限定されています。
 もちろん、チェロとヴァイオリンでは演奏に関する融通性が違いますから単純な比較はできませんが、演奏者に関わる問題も無視できなかったのではないかと思います。

 それにしても、よく知られた話ですが、この素晴らしい作品がカザルスが古道具屋で偶然に楽譜を発見するまで埋もれていたという事実は本当に信じがたい話です。
 それとも、真に優れたものは、どれほど不当な扱いを受けていても、いつかは広く世に認められると言うことの例証なのでしょうか。

 やはり一度はカザルスの演奏でじっくりと聞いてみたい作品です。


カザルス以降の伝統をふまえたきわめて正統派の演奏

バッハの無伴奏チェロ組曲はカザルスの古い録音しかアップしていないことに気づきましました。しかし、調べてみると、カザルスの歴史的な録音以降はめぼしい録音がほとんど無いのです。
私の調べ方が悪いのかもしれませんが、このシュタルケルの録音が登場するまで6曲まとめて録音されたものは発見できませんでした。

この録音は1957年から59年にかけて録音されていますから、シュタルケルが33歳から35歳にかけての録音と言うことになります。シュタルケルはこの後さらに3度の全曲録音をしています。一般的には、63年に録音されたマーキュリー盤か晩年の92年盤が有名なのですが、基本的なスタイルは年を取っても変わっていないと思います。
基本的には、この世代のチェリストはカザルスの呪縛から逃れられないようで、一つずつ念を押すような感じで、音色的にもゴリゴリした感じです。
さすがに、カザルスのような「像のダンス」と言うほどには不格好にはなっていませんが、例えば、ヨーヨー・マのような無伴奏チェロ組曲を思い浮かべるといささかずっこけてしまいます。

実は、このずっこけた人というのが私のことで、生まれて初めて聞いた無伴奏チェロ組曲がマの82年盤だったもので、その次に63年盤のシュタルケルの録音を聞いた時は「何かの間違い」ではないかと思ったのです。
しかし、その後伝説のカザルス盤を聞き、トルトゥリエの演奏なども聴くようになり、異形なのはヨーヨー・マの方だと言うことに気づくようになりました。

おそらく、バッハの演奏史という中に置いてみれば、このシュタルケルの演奏はカザルス以降の伝統をふまえたきわめて正統な演奏だと言えます。カザルスの無伴奏もいいけれど音が悪すぎるという人には、シュタルケルやトルトゥリエの演奏がお勧めです。

しかし、バッハっていつもいつもこんな難しい顔をしていないと駄目なんだろうか?と言う疑問もわいてきます。
そんな時に、怖いおじさんたちの顔色など全く気にすることもなく、実に伸びやかに明るく(当時の評論家は「脳天気」と言い放ちました)バッハを弾ききった82年のヨーヨー・マって凄かったんだという思いが最近強くなってきています。

今回も、久しぶりにこのシュタルケルのバッハを聴いたあとにヨーヨー・マの演奏を聴いたのですが、心惹かれるのはヨーヨー・マの方です。
これも加齢の故でしょうか。

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