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ブルーノ・ワルター(Bruno Walter) |モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551
ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1960年2月25日~29日録音
Mozart:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第1楽章」
Mozart:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第2楽章」
Mozart:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第3楽章」
Mozart:交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 「第4楽章」
これもまた、交響曲史上の奇跡でしょうか。
モーツァルトはお金に困っていました。1778年のモーツァルトは、どうしようもないほどお金に困っていました。
1788年という年はモーツァルトにとっては「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた年ですから、作曲家としての活動がピークにあった時期だと言えます。ところが生活はそれとは裏腹に困窮の極みにありました。
原因はコンスタンツェの病気治療のためとか、彼女の浪費のためとかいろいろ言われていますが、どうもモーツァルト自身のギャンブル狂いが一番大きな原因だったとという説も最近は有力です。
そして、この困窮の中でモーツァルトはフリーメーソンの仲間であり裕福な商人であったブーホベルクに何度も借金の手紙を書いています。
余談ですが、モーツァルトは亡くなる年までにおよそ20回ほども無心の手紙を送っていて、ブーホベルクが工面した金額は総計で1500フローリン程度になります。当時は1000フローリンで一年間を裕福に暮らせましたから結構な金額です。さらに余談になりますが、このお金はモーツァルトの死後に再婚をして裕福になった妻のコンスタンツェが全額返済をしています。コンスタンツェを悪妻といったのではあまりにも可哀想です。
そして、真偽に関しては諸説がありますが、この困窮からの一発大逆転の脱出をねらって予約演奏会を計画し、そのための作品として驚くべき短期間で3つの交響曲を書き上げたと言われています。
それが、いわゆる、後期三大交響曲と呼ばれる39番〜41番の3作品です。
完成された日付を調べると、39番が6月26日、40番が7月25日、そして41番「ジュピター」が8月10日となっています。つまり、わずか2ヶ月の間にモーツァルトは3つの交響曲を書き上げたことになります。
これをもって音楽史上の奇跡と呼ぶ人もいますが、それ以上に信じがたい事は、スタイルも異なれば性格も異なるこの3つの交響曲がそれぞれに驚くほど完成度が高いと言うことです。
39番の明るく明晰で流麗な音楽は他に変わるものはありませんし、40番の「疾走する哀しみ」も唯一無二のものです。そして最も驚くべき事は、この41番「ジュピター」の精緻さと壮大さの結合した構築物の巨大さです。
40番という傑作を完成させたあと、そのわずか2週間後にこのジュピターを完成させたなど、とても人間のなし得る業とは思えません。とりわけ最終楽章の複雑で精緻きわまるような音楽は考え出すととてつもなく時間がかかっても不思議ではありません。
モーツァルトという人はある作品に没頭していると、それとはまったく関係ない楽想が鼻歌のように溢れてきたといわれています。おそらくは、39番や40番に取り組んでいるときに41番の骨組みは鼻歌混じりに(!)完成をしていたのでしょう。
我々凡人には想像もできないようなことではありますが。
ワルターの伝統的な美意識とオケの現在的な感覚との絶妙なる融合
この録音は長く棚にしまい込まれていて、パブリックドメインの仲間入りをしている事にも気づかずに放置されていました。こんな事になってしまった背景には、ワルターの真価は最晩年のコロンビア響との録音ではなくて、それ以前のモノラル時代やヨーロッパ時代の録音にこそあるのだという「思いこみ」があったからです。
しかし、今回、パブリックドメインとなったモーツァルトの録音を聴き直してみて、意外なまでの素晴らしさに「うーん」とうなってしまいました。そして、その「うなってしまった」背景には、私が毛嫌いしてきた「ピリオド演奏」の影響があることを否定できないことに気づかされて、いささか複雑な思いに駆られました。
よく知られていることですが、ワルターのために特別に編成されたコロンビア響は通常のオケと比べれば編成がやや小振りでした。そのために、マーラーなどの録音では響きが物足りなくなって、編集の過程でそれらしくなるように手を加えたりしたことが知られています。
しかし、その編成の小ささが、モーツァルトのシンフォニーでは決してマイナスになっていないどころか、「ピリオド演奏」の洗礼を受けた耳には好ましくさえ思えるようになっていることに気づかされたのです。
これは、同じような時期に録音されたクレンペラーの演奏と比べてみればその違いは歴然とします。おそらくは、ほぼ通常の編成で録音したであろうクレンペラーのモーツァルトは、今の耳からすればあまりにも「鈍重」に過ぎます。それは、何もクレンペラーだけでなくこの時代の巨匠たちの録音に共通するスタイルです。ベーム然り、ヨッフムもまた然り、です。
しかし、ワルター&コロンビア響のモーツァルト演奏は、それら同時代の巨匠たちの録音とは全く雰囲気が異なります。それは、この数年前にヨーロッパに里帰りをして、VPOとポルタメントをかけまくったト短調シンフォニーを演奏した人物と同一だとはとうてい信じがたいほどです。
確かに、小編成ではありながら、低声部をしっかりと響かせた音の作り方はワルター特有のものです。その点については、「ピリオド演奏」とは全く真逆の世界です。しかし、低声部が分厚いにもかかわらず響きの透明性が高く、音の立ち上がりがこの上もなくシャープなのです。
そして、おそらくは、後者の「特質」はワルターの指示と言うよりはオケの「特性」が前面に出た結果なのだと思います。
ワルターは声部のバランスとテンポ設定だけを指示しているだけで、細かいところはオケに任せているような雰囲気がします。その結果、オケの編成の小ささも相まって、ワルターが持っている伝統的な美意識とオケが持っている現代的でシャープな造形意識が絶妙に融合して、実に不思議な世界が出来上がることになったようです。
この録音には、この時代の巨匠たちに共通する巨大で重厚な造形はありませんし、後の時代を席巻するピリオド演奏ほどにはクリアでもなければシャープでもありません。世間では、こういう世界を「中途半端」と切って捨ててしまうのですが、しかし、実際に演奏を耳にすると得も言われぬ魅力があることは否定できないので困ってしまいます。
そこで、しばし沈思黙考して気づかされたのが、テンポ設定の妙です。
こんな言い方をすると実にいい加減なので気が引けるのですが、ワルターの手にかかると、すべの部分が「これ以外にはない」と思えるようなテンポで音楽が進められているように思えるのです。それは、メトロノーム記号でいくつというような単純なものではなく、すべてのフレーズがこのような語り口で話されるべきだと得心がいくようなテンポ設定なのです。そして、このような「芸」を身につけていたのは、モーツァルトに関してはワルター以外には存在しなかったことに気づかされるのです。
このテンポ設定があるが故に、この晩年のモーツァルト録音が「中途半端」なものではなく「希有」なものになり得ているのではないと思う次第です。
やはり、ワルターは長生きして幸せだったようです。
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よせられたコメント 2011-10-08:m ステレオ盤は、私には弦の響きがどうしても耳に心地よく無いので、CDケースからとりだすことが少ない録音でした。
ただいつもながらのユングさんの洞察に賛成します。 テンポ間合いというのでしょうかすばらしいです。 ワルターは1956年にNYPとジュピターを録音していますが、あれがステレオであればと悔やまれます。 ユングさんのHP(の
コメント)でワルターNYPを聞きなおして、58年のシューベルトの未完成の音の厚みの素晴らしさを、その録音を聞き始めて、40年たってはじめてわかったような気になっています 2011-10-10:Joshua 「とっても遅い第4楽章」
14歳でLPを聴いたときの感想です。
それもそのはず、超特急のライナーシカゴのJupiterを聴いてたからです。
ハードカバーの世界音楽全集には、こんな珍演も入ってたのです。
川崎静子のカルメン、山岡重信のト短調、若杉弘のくるみ割り人形なんて具合です。
感想は「第1楽章の第2主題の歌わせ方は他に例がない。 でも録音がよくて細かいところがよく分かる」と続きます。ユングさんの解説が当時あれば、この音にも納得がいったことでしょう。それにしても、当時CBSソニーが出していた、ロココ風絵画のLPジャケットが懐かしいです。
100年、1000年経って、ワルターはどう語られているんでしょうねエ? 2012-11-01:Sammy 35番と共に某評論家がこき下ろしたこの演奏を改めて聞いて、確かにあちこちもたつきこそあれど、それすら微笑ましいほどに大らかな流れとみずみずしいオーケストラの頑張りっぷりで、楽しいモーツァルトと思います。この曲の演奏に期待してみたい気もする陰影や深遠さはあまり感じられなくても、これにはこれの心温まる良さがあるように思いました。 2013-01-25:ワルター・ファン ワルターは一時代前の懐古趣味みたいにとられがちですが、音楽はいさぎよいというか、明快でむしろモダンにすら聴こえます。晩年ではありますが、ワルターの芸術をけっこういい音のステレオ録音で聴けることをうれしく思います。それも彼が比較的長生きしたお陰で多くのレパートリーを。中でも生涯モーツァルトに熱心に取り組んだ彼らしく、これも名演だと思います。人間味あふれてはいるけど嫌味がなく、心から音楽に奉仕したモーツァルト演奏に触れるようで幸せに思います。 2014-06-22:フランツ ワルターの演奏はモーツァルトに限らず確かに「名演奏」なのでしょうが、私は聴いていて正直とても疲れるのです。面白く聴かせようとしている、もしかしたらモーツァルトらしく演奏しようとしているのでしょうが、もっとストレートでいいと思うのです。これはベームやカラヤンのモーツァルトにも言えるのですが、人の手が入り過ぎているように聴こえるのです。でもこういうのを一般にはワルターの「往年の名演奏」と呼ぶのでしょうね。
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