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シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54

P:ディヌ・リパッティ アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 1950年録音2月22日録音



Schumann:ピアノ協奏曲 イ短調 「第1楽章」

Schumann:ピアノ協奏曲 イ短調 「第2楽章」

Schumann:ピアノ協奏曲 イ短調 「第3楽章」


私はヴィルトゥオーソのための協奏曲は書けない。

 クララに書き送った手紙の中にこのような一節があるそうです。そして「何か別のものを変えなければならない・・・」と続くそうです。そういう試行錯誤の中で書かれたのが「ピアノと管弦楽のための幻想曲」でした。

 そして、その幻想曲をもとに、さらに新しく二つの楽章が追加されて完成されたのがこの「ピアノ協奏曲 イ短調」です。

 協奏曲というのは一貫してソリストの名人芸を披露するためのものでした。
 そういう浅薄なあり方にモーツァルトやベートーベンも抵抗をしてすばらしい作品を残してくれましたが、そういう大きな流れは変わることはありませんでした。(というか、21世紀の今だって基本的にはあまり変わっていないようにも思えます。)

 そういうわけで、この作品は意図的ともいえるほどに「名人芸」を回避しているように見えます。いわゆる巨匠の名人芸を発揮できるような場面はほとんどなく、カデンツァの部分もシューマンがしっかりと「作曲」してしまっています。
 しかし、どこかで聞いたことがあるのですが、演奏家にとってはこういう作品の方が難しいそうです。
 単なるテクニックではないプラスアルファが求められるからであり(そのプラスアルファとは言うまでもなく、この作品の全編に漂う「幻想性」です。)、それはどれほど指先が回転しても解決できない性質のものだからです。

 また、ショパンのように、協奏曲といっても基本的にはピアノが主導の音楽とは異なって、ここではピアノとオケが緊密に結びついて独特の響きを作り出しています。この新しい響きがそういう幻想性を醸し出す下支えになっていますから、オケとのからみも難しい課題となってきます。
 どちらにしても、テクニック優先で「俺が俺が!」と弾きまくったのではぶち壊しになってしまうことは確かです。


深い情緒をたたえながらも凛とした強さをもった音楽

正直に申し上げると、この録音をデータベースだけでなくこちらの方にもアップすべきかどうかかなり悩みました。
悩んだ理由は、言うまでもなく録音の悪さにあります。しかし、そういうマイナス面を差し引いても、是非一度は聞いてほしいという魅力を持った演奏であることも事実です。

シューマンの音楽と言うのは論理的にきちんと組み上げていけば、それなりの演奏になるという音楽ではありません。もちろん、そういうきちんとした造形は必要ですが、それに加えて、楽譜の中からシューマンが潜ませた情念みたいなものを探り当てて引っ張り出してこれるような資質が必要です。
そして、そういう資質は訓練によって鍛えられるものではなくて、まるで楽譜とピアノを媒介として次第にシューマンとピアニストが同調していく中で紡ぎだされていくような性質のもののように思えます。
こんないい方をするとまるでオカルトですが、しかし、シューマンにはそういうオカルト的な側面が非常に強いように思います。

このライブ録音は、リパッティにとっては最後の協奏曲となった演奏です。体調は最悪で、前日まで40度をこえる高熱にうなされていました。当然、医師は演奏会のキャンセルを求めたのですが、リパッティは解熱剤を注射してコンサートに臨みました。
私は、音楽の演奏に、音楽以外のエクスキューズを持ち込んで云々するのは基本的には間違っていると思います。ですから、この演奏もそのようなエクスキューズは無視して、音楽のみで評価すべきだと言うのが正論だと思います。しかし、この演奏から聞こえる深い情緒をたたえながらも凛とした強さをもった音楽は、びっしりと詰まった演奏日程を次々とこなしているバリバリの現役ピアニストの指からは絶対に生み出せない性質ものであることも事実です。それは、大戦下のフルトヴェングラー&ベルリンフィルの演奏があの極限状態の中でしかなし得なかった「奇跡」のような存在であったのと似ているのかもしれません。

確かに音は悪いです。しかし、その貧弱な音に耳を傾ける努力を厭わないのであるならば、必ずその音の向こうからリパッティその人の、そしてシューマンその人の声を聞くことができるのではないでしょうか。

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2010-06-13:ウェス


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