Home |
ワルター・ギーゼキング(Walter Gieseking) |ベートーベン:ピアノソナタ第27番
ベートーベン:ピアノソナタ第27番
ギーゼキング 1949年11月21日録音
人生におけるもっとも困難な時期の作品
社会的な名声の高まりと、それとは裏腹な創作力の衰え。さらに私生活における様々な困難や最後に望みを託した結婚への試みの失敗、それに伴う深い絶望感。
まさにベートーベンの人生におけるもっとも困難な時期に生み出されたのがこのピアノソナタです。
確かにワルトシュタインや熱情に代表されるような中期様式のソナタとは全く異なった作品となっていますが、後期様式の深みにも到達していません。
ある意味では中途半端な存在ですが、そこにこそこの時期のベートーベンのスランプの一端がうかがえます。
また弟子のシンドラーの質問に対して、「第1楽章は理性と感情の争い、第2楽章は恋人の会話」と語ったと伝えられていますが、これもどこまで真意であったかは疑問です。おそらくはあまりのしつこさに適当に答えたというのが真相でしょう。
第1楽章(速く、そして終始感情と表情を持って)
ホ短調 4分の3拍子 ソナタ形式
第2楽章(速すぎないように、そして、十分に歌うように演奏すること)
ホ長調 4分の2拍子 ロンド
実に叙情的で歌心にあふれた音楽。後期様式への入り口が開きかけていることがうかがえる楽章です。
「かろみ」の世界
49年から50年にかけてベートーベンのピアノソナタをまとめて録音しながら、4・5・7番と20・22番の5曲だけは録音されずに残されてしまいました。この少し後にモーツァルトのピアノソナタは全曲録音して全集として完成させているわけですから、このベートーベンに関しても「全集」として完成させることへの意欲はなかったとは思えません。20番と22番に関しては演奏する気になれなかったというのなら理解できないことはないのですが、4・5・7番に関してはベートーベンの初期を代表する重要な作品ですから、この欠落の仕方は実に不思議です。
全くの想像ですが、おそらくは芸術上の問題ではなくてビジネス上の問題として打ち切られた可能性が高いように思われます。(あくまでも、私の想像ですが・・・)
その結果として、モーツァルトのピアノソナタ全集は20世紀におけるモーツァルト演奏の一つのスタンダードとして今もって現役盤としてカタログを飾り続けていますが、ベートーベンのこれら一連の録音は長く忘却の彼方に追いやられていました。おかげで、マスターテープの保存状態もあまりよろしくなかったようで、音質的にもいまいち冴えません。ギーゼキングにわずかに遅れて(50〜54年)、バックハウスがベートーベンのピアノソナタを全曲録音しているのですが、それと比べてみれば音質の違いは歴然としています。
バックハウスの録音は全集として完成し、さらに音質的にもモノラルの極上とは言えないまでも十分に音楽として楽しめるクオリティをもっていたのに対して、ギーゼキングの方は中途半端な形で放置されたままに、音質的にもパッとしません。結果として、スタンダードとしての地位を獲得したのがバックハウスであったことは仕方のないことです。
しかし、今ひとつさえない録音であるにも関わらず、ギーゼキング特有のクリアな音色は感じ取ることができます。一度魅了されれば麻薬のように人を虜にするあの魅力の香りはスポイルされていません。
さらに、バックハウスなどとは全く違う作品の作り方は実に魅力的です。
実はこういう言い方はあまりにも曖昧で注意しなければいけないのですが、いわゆるバックハウスなどに代表される「ドイツ精神主義」的な演奏とは全く異なったポジションからアプローチされた演奏です。その結果として、彼の演奏からは「重さ」ではなくて「軽さ」を感じます。イヤ。「軽さ」などと表現すれば「チープ」もしくは「プア」と混同されかねませんから、和語の「かろみ」と言い換えた方がいいかもしれません。
彼の演奏でベートーベンを聞くと、ベートーベンという偶像にまとわりついていた一切のしがらみから切り離されて、ふわりと空中に浮遊するような自由な感覚を楽しむことができます。それでいながら、作品のエッジは常に明瞭で一切の曖昧さとは無縁ですし、内部の見通しも極上の透明感を保持しています。
ギーゼキングは「ノイエ ザハリヒカイト(新即物主義)」の旗手といわれてきました。本人はこの「ノイエ ザハリヒカイト」といういわれ方はあまりお好きではなかったようですが、この一連のベートーベン演奏を聴くと「ノイエ ザハリヒカイト」の本当に正しい姿が提示されているように思えてなりません。
それは、ただ楽譜に忠実にばりばり弾きまくることではなくて、「楽譜に忠実に、そして作曲者の御心にそうように(^^;、己の想像力を最大限に活用して作品をもう一度クリアに再構築」することであったはずです。昨今の楽譜に忠実なだけの演奏がつまらないのは、作品を再構築する演奏者の「想像力」が欠落しているからです。
その様にとらえれば、バックハウスとギーゼキングの違いは両者のベートーベンに対する「想像力」の違いだということになります。そして、その様な様々な想像力を許容するところに作品の偉大さがあるのだということにも気づかされます。
ベートーベンのスタンダードとしてのバックハウスもいいのですが、時にはギーゼキングの「かろみ」の世界に遊んでみるものいいのではないでしょうか。
<追記>
8番「悲愴」・14番「月光」という有名どころがとりわけ音質が冴えないようです。ちょっと残念です。
この演奏を評価してください。
よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
511 Rating: 5.0 /10 (247 votes cast)
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-10-13]
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72(Dvorak:Slavonic Dances Op.72)
クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1952年&1954年録音(Kurt Sanderling:Leningrad Philharmonic Orchestra Recorded on, 1952 & 1954)
[2026-10-11]
ヴィオッティ:ヴァイオリン二重奏曲 ト長調(Viotti:Duet for Violin Solo in G minor)
(Vn)ジョコンダ・デ・ヴィート:(Vn)イェフディ・メニューイン 1955年12月4日&6日録音(Gioconda de Vito:(Vn)Yehudi Menuhin Recorded on Decembr 4&6, 1955)
[2026-10-09]
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 「喜び」 Op. 8, No. 6, RV 180(Vivald:Violin Concerto in C Major, Op. 8, No. 6, RV 180, "Il piacere")
(Vn)フェリックス・アーヨ:イ・ムジチ合奏団 1961年9月20日~28日録音(Felix Ayo:Musici, I Recorded on September 20-28, 1961)
[2026-10-07]
J.S.バッハ:カンタータ第51番「全地よ、神を向かえて歓呼せよ」,BWV 51(J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ペーター・ゲルホルン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1950年10月6日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(cpn)Peter Gellhorn Philharmonia Orchestra Recorded on October 6, 1950)
[2026-10-05]
J.S.バッハ:管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069(J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069)
クルト・レーデル指揮:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)
[2026-10-02]
ルイス・デ・ミラン:「エル・マエストロ」からのファンタジア、舞曲、そしてロマンセ(Luys Milan:Fantasias, Dances And Romances From El Maestro)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:(T)ベルンハルト・ミヒャエリス 1956年11月30日~12月1日録音(Walter Gerwig:(T)Bernhard Michaelis Recorded on Novembar 30~December 1, 1956)
[2026-09-30]
ヴィヴァルデ:オーボエ協奏曲 ハ長調, Rv.447(Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447)
レナート・ファッサーノ指揮:(Ob)レナート・ザンフィーニ ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:(Ob)Renato Zanfini Virtuosi Di Roma Published in 1958)
[2026-09-28]
マヌエル・ポンセ:南の協奏曲(Manuel Ponce:Concierto del Sur)
(Gt)アンドレス・セゴビア:エンリケ・ホルダ指揮 シンフォニー・オブ・ジ・エア 1958年録音(Andres Segovia:(con)Enrique Jorda the Symphony of the Air Recorded in 1958)
[2026-09-26]
モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」{エクスルターテ・ユビラーテ), K.165(Mozart:Exsultate, Jubilate, K.165/K.158A)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ワルター・ジュスキント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1947年5月26日,28日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(con)Walter Susskind Philharmonia Orchestra Recorded on May 26,28, 1947)
[2026-09-24]
マラン・マレー:組曲第4番 ニ長調(Marin Marais:Suite No. 4 In D Major)
アウグスト・ヴェンツィンガー:(Vdg)ハンネロレ・ミュラー (harpsichord)フリッツ・ノイマイヤー 1956年4月4日~5日録音(August Wenzinger:(Vdg)Hannelore Mulle (harpsichord)Fritz Neumeyer Recorded on April 4-5, 1956)