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グールド(Glen Gould)|ベートーベン:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110
ベートーベン:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110
(P)グールド 1956年録音
Beethoven:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110 「第1楽章」
Beethoven:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110 「第2楽章」
Beethoven:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110 「第3楽章」
嘆きの歌?疲れはて、嘆きつつ

最後の3つのソナタはミサ・ソレムニスと同時並行で作曲されたことはよく知られた事実です。
そしてこれらの作品は今までのソナタとは全く違う世界を世界をしめしています。それを一言で言えば「深い悲嘆」と「浄化」です。
そして悲嘆と言うことなら、この真ん中の「作品110」こそが、もっとも深い悲嘆に包まれた作品となっています。
とりわけ第3楽章の「嘆きの歌」と言われるように、その全体は果てしもないような深い悲しみで包まれています。それ故か、ワーグナーに代表されるように、ロマン派の作曲家たちに大変好まれた作品でした。
ピアノソナタ31番 Op.110 変イ長調
第1楽章
モデラート・カンタービレ・モルト・エスプレッシーヴォ 変イ長調 4分の3拍子 ソナタ形式
第2楽章
アレグロ・モルト ヘ短調 4分の2拍子 三部形式
第3楽章
アダージョ・マ・ノン・トロッポーアレグロ・マ・ノン・トロッポ 変イ長調 4分の3拍子ー8分の4拍子 序奏ーフーガ
アダージョの大きな序奏とフーガ形式からなる「嘆きの歌」
グールドのベートーベンってこんなに素敵だったんだ!!
ゴルドベルグ変奏曲で衝撃的なデビューを果たした翌年に録音されたのが、このベートーベンの偉大なる後期の3つのソナタです。当然のことながら、「伝統」という垢というか苔というか、そう言う類のものがびっしりとまとわりついた音楽なのですが、そう言う中途半端なものを見事なまでに洗い落としてくれて、さらにピシッと仕立て直して私たちの手元に届けてくれたのがこの録音でした。
1956年の6月の半分ほどを費やして録音されたようなのですが、取り組んだ順番は作品番号とは反対の順番で、32番(作品番号111)のソナタから始められています。
おそらく、グールドは並々ならぬ決意でこの録音に臨んだのだろうと思います。
そうでなければ、この32番のソナタの第1楽章の、このとんでもない表現(速い!)はあり得ません。
当然のことながら、最初は「ギャッ!」と叫びます。
もしも叫ばなかった人がいたら、それはこの録音でこの作品を初めて聞いた人だけでしょう。
一体全体、これは何という演奏でしょうか。
最初は確かに唖然とします。しかし、聞き進んでいくうちに、その早さは決して奇をてらったものではなくて、まさにベートーベン的な音楽の奔流が全てのものを流し去っていくような爽快感に貫かれていくことに気づかされます。
ここでは、どんな細かいパッセージも(そう、装飾音符の一つでさえも)、何一つないがしろにされることはなく、この上もない正確さと丁寧さで音化されています。そして、驚くのは、そう言う奔流の中から何とも言えないファンタスティックな詩情が匂い立ってくることです。
グールドの演奏というと、とかく何か哲学的な蘊蓄で説明をしたがる人がいます。
しかし、この演奏を聴いてみて(グールドのよい聞き手とは言えない私は、恥ずかしながら、この機会のおかげで彼のベートーベンのピアノソナタを初めて聴いたのです)、彼の演奏の素晴らしさを説明するのに、そんな難しい蘊蓄は一切いらないことを確信しました。
簡単に言えば、彼の演奏の特徴は2つです。
1.めっちゃ、ピアノが上手い!!
2.何というファンタスティックな詩情あふれる音楽なんだ!!
これだけです。
これを何と乱暴な、と言われれば確かに乱暴です。
彼と同じほど上手いピアニストは何人かはいます。そして、彼と同じほど雰囲気のある音楽を醸し出すピアニストも他にいないわけではありません。
しかし、彼ほど上手くて詩情あふれる音楽を紡ぎ出せる人となると、・・・リヒテルとか・・・、・・・(^^;、・・・くらいしか思い浮かばなかったりします。(-_~-)
しかし、彼の音楽にはリヒテルなんかとは違う、洗い立てのパリッと感みたいなものがいつも素敵です。そのパリッと感は、きっとカナダというヨーロッパから遠く離れた環境が幸いしているのでしょう。
彼は、それほど苦労しなくても、音楽にまとわりついた苔をふるい落とすことができるのです。
この32番に続く、2つのソナタ、作品番号の110と109はそれほどエキセントリックではありませんが、それでも、どこか(そしてよく言われることですが)シェーンベルグの音楽に結びついていく端緒のようなものを感じさせてくれます。しかし、そんな小難しい理屈を振り回さなくても、この幻想的な音楽に身をひたしていれば、そしてそのファンタジーはヨーロッパ的な湿度から解き放たれた心地よい乾燥のもとでパリッとしているのですから、それだけで聞くものは幸せになれるというものです。
私の中のどこかにあった「グールド=エキセントリック」という誤解をあっさりと流し去ってくれた素晴らしい録音です。
この演奏を評価してください。
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1778 Rating: 5.0/10 (230 votes cast)
よせられたコメント
2013-02-24:カンソウ人
- この曲は、私が聴いたベートベンのソナタでは早い段階でした。
後期の3つのソナタは、三つ合わせての少宇宙であって、3つ併せて考えた方が分かり易いように思います。私自身が、10代の日に聴いたのは、低温と高音に分かれていく、中音部には声部が無い場合が多くて、本当にファンタスティックでした。
ショパン等の幻想は、どちらかと言うと病理的な統合失調的な幻視ですが、ベートベンの物は神によって与えられた預言のように思います。
その後、音楽は諸芸術の中心となり、崩壊していくのですが、現実的に作曲と言う行為は廃れ始めていると言っても良いと思います。
表現しなければならない内容が、多様的になるにしたがって、旋律と伴奏では無理なのですね。
無理だっていうのが、嘆きの歌の部分でしょうか。
こういう音楽は、まともに弾いても、かえって違和感があるのです。
だからと言って、このように弾けばおしまいだという様な、マニュアルなんかないのです。
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