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ジネット・ヌヴー(Ginette Neuveu) |パラディス/ドゥシキン編:シチリア舞曲
パラディス/ドゥシキン編:シチリア舞曲
(Vn)ジネット・ヌヴー (P)ブルーノ・ザイドラー=ヴィンクラー 1938年録音
Paradies:Sicilienne in E flat major
困ったことに、この「シチリアーノ」には「偽作疑惑」があります
「マリア・テレジア・フォン・パラディス」という作曲家の名前を見て何らかの作品をおも出せる人は殆どいないでしょう。
しかし、この「シチリアーノ」を聞けば、「へーぇ、この曲ってこの人の作品だったのか!」と驚くはずです。
そして、さらにこの「マリア・テレジア・フォン・パラディス」が当時としては(今も?)珍しい女性の作曲家であり、さらには幼くして失明するというハンディキャップを負っていたと言うことにも驚かされるのです。
そして、「マリア・テレジア・フォン・パラディス」という仰々しいフルネームから、オーストリアの女帝「マリア・テレジア」と何らかの関係があるのかと思うのですが、それは父親が女帝の「宮廷顧問官」だった事に由来するようです。その父親は帝国の商務長官も務めたようなので、間違いなくお金持ちのお嬢さんだったようです。
しかし、音楽的才能に恵まれていたことは事実のようで、盲目のピアニストとして活躍し、数多くの作曲家に自分が演奏するための作品を依頼しています。
その依頼はハイドンやサリエリ、モーツァルトというビッグネームも含まれていて、モーツァルトがその求めに応じて提供したのはK.456(第18番)のコンチェルトではないかと推測されています。
やがて、彼女は活動の重点を演奏活動から創作活動の方に移すようになります。
その様な彼女の作品の中でもっとも有名なのがこの「シチリアーノ」なのです。
ところが、困ったことに、この「シチリアーノ」には「偽作疑惑」があるのです。
この、「パラディスのシチリアーナ」は20世紀に入ってからアメリカのヴァイオリニストである「サミュエル・ドゥシュキン」が発見したとされています。ところが、音楽の様式がパラディスの時代のものとは随分異なっているために疑問が呈されているわけです。
現在では、ドゥシュキンが「発見」したのではなくて、彼がウェーバーのヴァイオリンソナタ(Op.10 No.1:J.99[2.Romanze. Larghetto])を原曲として編曲したものではないかと考えられています。
ウェーバー:6つのヴァイオリン・ソナタ Op. 10 (Vn)ルジェーロ・リッチ:(P)カルロ・ブゾッティ 1954年2月録音
確かに、言われてみれば全くその通りです。
ただし、ドゥシュキンはその事を認めていないようなので、著作権は発生しないもとと考えられています。
「内なる精神の炎が燃えさかっている」と称されるヌヴォーの特徴は初録音においても明瞭に刻み込まれています
ヌヴーの早熟については
こちら でふれていますので興味ある方はご覧ください。
そんな早熟の天才ヌヴーの初録音を紹介したいと思います。
とは言え、今さら1938年という80年も前の録音などは願い下げだという人がいるかも知れません。
しかし、そこは私を信じて(^^;一度は聞いてみてください。きっと驚かれるはずです。
ヌヴォーはこの1938年(19歳)に以下の小品を録音しています。
クライスラー:バッハの様式によるグラーヴェ ハ短調
スーク:4つの小品 op.17 第3曲「ウン・ポコ・トリステ」
スーク:4つの小品 op.17 第2曲「アパッショナータ」
ショパン/ロディオノフ編:夜想曲第20番嬰ハ短調(遺作)
グルック:『オルフェオとエウリディーチェ』より「メロディー」
パラディス/ドゥシキン編:シチリア舞曲
このうちスークの4つの小品とショパンの夜想曲は戦後の46年にもう一度録音していますが、「内なる精神の炎が燃えさかっている」と称されるヌヴォーの特徴がより明瞭に刻み込まれているのは38年の録音の方です。
そして、数多くの歴史的録音を聞いてきて分かったことは、文化的にも一つの爛熟期をむかえていた30年代の録音は、戦争の混乱の中で録音された40年代の録音よりも概ね良好なものが多いと言うことです。
この38年に録音されたヌヴォーの小品も、かなり良好な状態で録音が残されています。
そして、その良好さのおかげで、極限のピアニシモから音楽が立ち上がってくる凄みが見事なまでに刻み込まれています。
例えば、ヌヴォーの代表的な録音であるショーソンの「詩曲」においても、その極限とも言うべきピアニシモから見事に一本のラインを描き出していく凄みには圧倒されます。
そして、この38年の録音では、それと同じような凄みをもって、この何気ない小品たちが突きつけられるのです。
さらに付け加えておけば、硬質な緊張感を維持しながら艶やかな響きの美しさを失わないのも見事と言うしかありません。
オイストラフが第1回ヴィエニャフスキ・コンクールでヌヴォーに敗れたときに「悪魔のようだった」と妻に書き送ったのは正当な評価だったのです。
そして、それと比べれば46年盤の方には、そこまでの凄みはなく、どちらかと言えば余裕を持って小品を弾きこなしているという風情があります。
ヌヴォーも20代になってシベリウスやブラームスのようなコンチェルトに活動の軸足が移っていって、そこまで真剣に小品と向き合う気にもなれなくなったと言うことかも知れません。
さらに言えば、38年録音ではヴァイオリンはかなりオン気味に収録されていてピアノは影のように付き従うだけでしたが、46年録音ではそれなりのバランスでピアノも収録されています。
そう言えば、戦後のピアノ伴奏は兄のジャンが務めていましたから、そしてシャンもイヴ・ナットに学んだ優れたピアニストでしたから、そちらにも光を当てたいという思いもあったのかも知れません。
なお、あまり語られることはないのですが、アメリカでの演奏旅行に向かう飛行機にはジャンも同乗していました。
ジネットとジャンのヌヴォー兄妹、ピアフの恋人だったマルセル・セルダン、実に多くの悲劇を引き起こした事故でした。
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