クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|ハスキル(Clara_Haskil)|ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)

(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [1.Allegro moderato]

Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [2.Andante con moto]

Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [3.Rondo. Vivace]


新しい世界への開拓

1805年に第3番の協奏曲を完成させたベートーベンは、このパセティックな作品とは全く異なる明るくて幸福感に満ちた新しい第4番の協奏曲を書き始めます。そして、翌年の7月に一応の完成を見たものの多少の手なしが必要だったようで、最終的にはその年の暮れ頃に完成しただろうと言われています。

この作品はピアノソナタの作曲家と交響曲の作曲家が融合した作品だと言われ、特にこの時期のベートーベンのを特徴づける新しい世界への開拓精神があふれた作品だと言われてきました。
それは、第1楽章の冒頭においてピアノが第1主題を奏して音楽が始まるとか、第2楽章がフェルマータで終了してそのまま第3楽章に切れ目なく流れていくとか、そう言う形式的な面だけではなりません。もちろんそれも重要な要因ですが、それよりも重要なことは作品全体に漂う即興性と幻想的な性格にこそベートーベンの新しいチャレンジがあります。

その意味で、この作品に呼応するのが交響曲の第4番でしょう。
壮大で構築的な「エロイカ」を書いたベートーベンが次にチャレンジした第4番はガラリとその性格を変えて、何よりもファンタジックなものを交響曲という形式に持ち込もうとしました。それと同じ方向性がこの協奏曲の中にも流れています。
パセティックでアパショナータなベートーベンは姿を潜め、ロマンティックでファンタジックなベートーベンが姿をあらわしているのです。

とりわけ、第2楽章で聞くことの出来る「歌」の素晴らしさは、その様なベートーベンの新生面をはっきりと示しています。
「復讐の女神たちをやわらげるオルフェウス」とリストは語りましたし、ショパンのプレリュードにまでこの楽章の影響が及んでいることを指摘する人もいます。
そして、これを持ってベートーベンのピアノ協奏曲の最高傑作とする人もいます。ユング君も個人的には第5番の協奏曲よりもこちらの方を高く評価しています。(そんなことはどうでもいい!と言われそうですが・・・)


ベートーベンも結構演奏していたんだ

ベートーベンのコンチェルトのスタジオ録音は第3番だけと思っていたのですが、よくよく調べてみると1947年にカルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団をバックにした第4番のスタジオ録音が存在していることに気づきました。
未だスキルに正当な評価を与えられる前の時期にこのようなスタジオ録音が、それもベートーベンの4番のコンチェルトの録音が存在したとは驚きです。


ハスキルといえばモーツァルト、モーツァルトといえばハスキルというくらいイメージがしみ込んでいるためか、彼女のベートーベン演奏にはほとんど目が向いていませんでした。
しかし、調べてみると結構録音を残していて、コンサートなどでも取り上げる機会は少なくなかったようで、己の思い込みにいささかあきれてしまいました。

とはいえ、すぐに気づいたのは、それなりに録音もしているものの、その取り上げ方が著しく偏っていることです。
ソナタでいえば17番「テンペスト」と18番「狩り」のみ、コンチェルトでいえばほぼ第3番のみで、他の作品は一切ナッシングのようなのです。
コンチェルトに関しては第4番のライブ録音は存在するようなのでレパートリー率は無理やり40パーセントということにするのは可能なのかもしれません。しかし、ソナタに関しては「テンペスト」と「狩り」のみというのはいくら何でも偏りすぎています。レパートリー率でいえば(電卓で計算してみれば)わずか6.25%です。
それでもごく稀にしかベートーベンのソナタを演奏しなかったというならば分からないのではないのですが、この2曲に関してはいくつものスタジオ録音が存在していて、コンサートでもよく取り上げているのですから、この「テンペスト」と「狩り」への偏愛ぶりにかんしては「はて?」と言いたくなってしまいます。

さらに、彼女が亡くなる直前に行われた1960年の録音には以下のようなエピソードが残されています。

ハスキルは1951年からレマン湖のほとりにあるヴヴェイという町に居を構えていました。このヴヴェイの街にはマッカーシー旋風による赤狩りによってアメリカを追放になったチャップリンも居を構えていました。
二人はすぐに親しい仲となり、ハスキルはよくチャップリン宅を訪れて、ピアノ演奏を聴かせていたそうです。そんなハスキルやチャップリンを街の人はとても大切な存在として受け入れていたのです。
ですから、1960年の「テンペスト」と「狩り」の録音はハスキルの自宅で行われたのですが、録音の際はハスキルの自宅周辺は交通が遮断されて、車の雑音が録音の妨げにならないようにヴヴェイの町当局が全面協力したそうなのです。

聞くところによると、吉田秀和氏は「シューマンはよいが、ベートーヴェンは力強さに欠ける」と書いていたそうですが、この二つの録音に関してはそんな弱さは感じません。チャップリンが語ったように「彼女のタッチは絶妙で、表現は素晴らしく、テクニックは並外れていた」という言葉がそのまま当てはまります。
また、そのことはマルケヴィッチとラムルー管と録音した第3番の協奏曲でも同様です。間違っても、マルケヴィッチはハスキルに弱さがあってそれをカバーしようとして助けを出すようなことはしていません。もちろん、火花を散らしてやりあうことまではしていないのですが、お互いの音楽性を尊重して二人して素晴らしいベートーベンを作り上げようとしています。

考えてみれば、ハスキルは病弱ではあったのですが、その突然の死は病によるものではなくて不幸な転倒による事故でした。結果的には最晩年となったこの時期にショパンやファリャのコンチェルトを録音するなど、新しい世界に踏み込もうという意欲に満ちていました。
あの不幸な事故さえなければ、私たちはもっと素晴らしいハスキルのベートーベンを聞けたのかもしれません。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



5647 Rating: 5.0/10 (113 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2024-11-08:joshua





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-12-07]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」 ヘ短調 Op.57(Beethoven: Piano Sonata No.23 In F Minor, Op.57 "Appassionata")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1955年11月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on November, 1955)

[2025-12-06]

ラヴェル:夜のガスパール(Ravel:Gaspard de la nuit)
(P)ジーナ・バッカウアー:(語り)サー・ジョン・ギールグッド 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Read)Sir John Gielgud Recorded on June, 1964)

[2025-12-04]

フォーレ:夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74(Faure:Nocturne No.7 in C-sharp minor, Op.74)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-12-02]

ハイドン:弦楽四重奏曲第32番 ハ長調, Op.20, No.2, Hob.3:32(Haydn:String Quartet No.32 in C major, Op.20, No.2, Hob.3:32)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2025-11-30]

チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58(Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年11月13日~16日&21日録音(Constantin Silvestri:French National Radio Orchestra Recorded on November 13-16&21, 1959)

[2025-11-28]

ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major ,Op.93)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年5月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on May, 1961)

[2025-11-26]

ショパン: ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21(Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21)
(P)ジーナ・バッカウアー:アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Con)Antal Dorati London Symphony Orchestra Recorded on June, 1964)

[2025-11-24]

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調, Op.127(Beethoven:String Quartet No.12 in E Flat major Op.127)
ハリウッド弦楽四重奏団:1957年3月23日,31日&4月6日&20日録音(The Hollywood String Quartet:Recorded on March 23, 31 & April 6, 20, 1957)

[2025-11-21]

ハイドン:弦楽四重奏曲第31番 変ホ長調, Op.20, No1, Hob.3:31(Haydn]String Quartet No.31 in E flat major, Op.20, No1, Hob.3:31)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1938年6月5日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on June l5, 1938)

[2025-11-19]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」 ハ長調 Op.53(eethoven:Piano Sonata No.21 in C major, Op.53 "Waldstein")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1956年3月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on March, 1956)