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Home|ウラディーミル・アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy)|チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調, Op.23

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調, Op.23

(P)ヴラディーミル・アシュケナージ:ロリン・マゼール指揮 ロンドン交響楽団 1963年3月録音



Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 in Flat Minor, Op.23 [1.Allegro Non Troppo E Molto Maestoso - Allegro Con Spirito]

Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 in Flat Minor, Op.23 [2.Andantino Simplice - Prestissimo]

Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 in Flat Minor, Op.23 [3.Allegro Con Fuoco]


ピアノ協奏曲の代名詞

おそらく、クラシック音楽などには全く興味のない人でもこの冒頭のメロディは知っているでしょう。普通の人が「ピアノ協奏曲」と聞いてイメージするのは、おそらくはこのチャイコフスキーかグリーグ、そしてベートーベンの皇帝あたりでしょうか。

それほどの有名曲でありながら、その生い立ちはよく知られているように不幸なものでした。

1874年、チャイコフスキーが自信を持って書き上げたこの作品をモスクワ音楽院初代校長であり、偉大なピアニストでもあったニコライ・ルービンシュタインに捧げようとしました。
ところがルービンシュタインは、「まったく無価値で、訂正不可能なほど拙劣な作品」と評価されてしまいます。深く尊敬していた先輩からの言葉だっただけに、この出来事はチャイコフスキーの心を深く傷つけました。

ヴァイオリン協奏曲と言い、このピアノ協奏曲と言い、実に不幸な作品です。

しかし、彼はこの作品をドイツの名指揮者ハンス・フォン・ビューローに捧げることを決心します。ビューローもこの曲を高く評価し、1875年10月にボストンで初演を行い大成功をおさめます。
この大成功の模様は電報ですぐさまチャイコフキーに伝えられ、それをきっかけとしてロシアでも急速に普及していきました。

第1楽章冒頭の長大な序奏部分が有名ですが、ロシア的叙情に溢れた第2楽章、激しい力感に溢れたロンド形式の第3楽章と聴き所満載の作品です。


誠実なピアニスト

アシュケナージを取り上げるのはこれが初めてです。
取り上げるのは以下の2曲です。

  1. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調, Op.18:キリル・コンドラシン指揮 モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団 1963年9月録音

  2. チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23:ロリン・マゼール指揮 ロンドン交響楽団 1963年3月録音


ロシア出身のピアニストとしては定番中の定番の2曲です。
そして、私がクラシック音楽などと言うものを聞き始めた頃には、まさに世界を代表するピアニストとしてバリバリの現役として活躍していましたから、彼の音源もすでにパブリック・ドメインになっているものが表れてきていることに時の流れを感じざるを得ません。

アシュケナージと言えば必ず語られるのは1955年のショパンコンクールでの出来事です。彼はその時2位になったのですが、それに異議を唱えてミケランジェリが審査員を降板するという騒ぎにまで発展しました。その時に1位となったアダム・ハラシェヴィチが審査委員長の弟子であったことがその騒動に拍車をかけました。
しかし、アシュケナージは3次予選の時に第2協奏曲で90小節以降を間違って繰り返すというミスをしでかしているので、それが「コンクール」と言うものの本質をあらわしているとも言えます。
さらに言えば、優勝したハラシェヴィチはその後ミケランジェリにも師事していて、ミケランジェリもまたそれを素直に受け入れています。つまりは、ミケランジェリもまたハラシェヴィチの才能は認めていたと言うことです。

しかし、ミケランジェリにとっては些細な(些細でもないか^^;)ミスなどを蹴散らすほどの才能をアシュケナージの中に見いだしたのであって、その眼力が正しかったことはその後のアシュケナージ自身によって証明されたわけです。
そして、そう言うアシュケナージの魅力を的確に表現したのがショーンバーグでした。彼はアシュケナージのことを「ギレリスの誠実とリヒテルの想像力をもっている」と評したのです。

確かに、この1963年に録音された2つの協奏曲を聞けば、アシュケナージがいかに誠実なピアニストであったかはひしひしと伝わってきます。彼はソリストというものが持ちがちな「目立ちたがる」という悪癖は全く持っていないことがよく分かります。
間違っても作品を力ずくでねじ伏せて「どうだ、凄いだろう!」とドヤ顔をするようなピアニストとは最も遠い位置にいます。

しかし、この二つの協奏曲は独襖ピアノに対してオーケストラが覆い被さってくるような場面が多くあって、それに対してピアニストはそのオーケストラの響きを突き破って響かせる「義務」があります。
ところが、ラフマニノフのサポートをしたコンドラシンは徹頭徹尾アシュケナージのサポートに努めています。
おそらく、アシュケナージがこの作品の中に感じとったファンタジーを邪魔することがないように、その繊細なピアノ響きを損なうことのないように慎重にオーケストラをコントロールしています。それは悪く言えば、オケは引き気味、さらに言えばピアノも弾き気味で、この作品にある種の豪快さを求める人にはいささか物足りなさを感じさせるかもしれません。

それに対して、チャイコフスキーの方は若手のマゼールですから、そこまでの徹底的サポートには徹していません。しかし、マゼールというのは利口な男ですから、無理やりピアノに覆い被さるような鳴らし方はせず、作品が求める範囲で必要最低限の鳴らし方をしています。そして、それに合わせてアユケナージもまた必要な場面ではこれまた必要最低限の力強さは発揮するのですが、それでも自分だけ目立とうという意志は感じられません。

そう言う意味ではピアニストとして作品に向き合う態度は極めて誠実だと言えます。
しかし、その後のアシュケナージの録音を聞いてみると、この誠実さは研ぎ澄まされていくものの、ショーンバーグが最初に語ったような想像力が大きく羽ばたくことはなかったように思われます。
もちろん、真摯に作品と向き合い、その姿を誠実に描き出すと言うことは実に立派なものです。しかし、そう言う誠実さだけでは贅沢な聞き手は不満を感じてしまうのです。

おそらく、そう言う辺りに彼が指揮者に転向してしまった理由の一端があるのかもしれません。
なお、一部盤質に問題があってノイズがのる部分もあるのですが、全体的にはそれなりに良好な音質と言えます。若きアシュケナージの姿を刻み込んだ録音として、十分に興味をそそられる演奏だと言えます。

この演奏を評価してください。

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