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ターリッヒ(Vaclav Talich) |ドヴォルザーク:弦楽のためのセレナーデ ホ長調 Op. 22
ドヴォルザーク:弦楽のためのセレナーデ ホ長調 Op. 22
ヴァーツラフ・ターリヒ指揮:プラハ・ソロイスト管弦楽団 1951年4月20日
Dvorak:Serenade for Strings, Op.22 [1.Moderato]
Dvorak:Serenade for Strings, Op.22 [2.Menuetto. Allegro con moto]
Dvorak:Serenade for Strings, Op.22 [3.Scherzo. Vivace]
Dvorak:Serenade for Strings, Op.22 [4.Larghetto]
Dvorak:Serenade for Strings, Op.22 [5.Finale. Allegro vivace]
幸福感に満ちた音楽
その時、ドヴォルザークは有頂天になっていました。貧乏だけれど才能の認められた若い音楽家に国家が与える奨学金に合格したという通知が舞い込んだのです。
何しろ、その奨学金というのは1年間に400グルテンでした。
当時のドヴォルザークは、教会のオルガン奏者や個人レッスン等など・・・という仕事をしてかき集めることができた金額は1年間に160グルテン程度だったと伝えられています。
ですから、それは今まで見たこともなかったような大金だったのです。
そして、その喜びがどれほどのものだったかは、その年の仕事ぶりからもうかがえます。
日銭を稼ぐためのつまらぬ仕事から一切解放されて作曲に打ち込むことができるようになったのですから、それまで心の中にため込みながらも形にすることができなかったものが一気にあふれ出したようでした。
弦楽五重奏にピアノを含んだ三重奏や四重奏等の室内楽作品、そして交響曲(第5番)に大規模なオペラ(5幕からなる「ヴァンダ」)、そしてここで紹介している弦楽のためのセレナードがその年に書かれているのです。
もしかしたら、その時は、彼の一生においてもっとも幸福だった時期かもしれません。その幸福感はとりわけこのセレナードに溢れていて、まさに「青春の歌」とも言うべき音楽に仕上がっています。この音楽形式としてはチャイコフスキーの弦楽のためのセレナードが有名なのですが、それと比べても全く遜色ない作品に仕上がっています。
そして、その3年後に今度は楽器編成を変えてもう一曲セレナードを書いています。
それが管楽器のためのセレナードです。
弦楽器の方はまさに窓辺で恋人におくるロマンティックな音楽だとすれば、管楽器の作品はまさにボヘミアの草原で繰り広げられる宴を思わせます。特に、弦楽器の方ではチェコの民族的な雰囲気が希薄だったこと埋め合わせるかのように、管楽器の方ではそう言うチェコの魂があふれ出しています。また、管楽器の音色を絶妙に組み合わせて紡ぎ出される世界はモーツァルトの同様の作品を思い出させる程の素晴らし朝です。
驚くほどスッキリとした佇まい
最近、ターリッヒの古い録音をポチポチと聞き始めているのですが、どうも最初に抱いていた単純なイメージだけではとらえきれない存在であることに気づいてきました。そして、そのある種の複雑さにはどうやら3つの要素が絡まっているからではないかと思うようになってきました。
まず一つめの要素は彼が音楽家としてのキャリアがベルリン・フィルのヴァイオリニストとしてスタートし、後にコンサート・マスターに就任し、さらにはそこでアルトゥール・ニキシュのの指揮に魅了されて指揮者を目指したと言うことです。つまりは、このドイツ正統派の音楽というのがターリッヒという人の骨格となっていると言うことです。
しかし、1918年にチェコ・フィルを指揮した「スークの夕べ」で大成功し、その翌年にチェコ・フィルの首席指揮者に就任したことが、彼の中のもう一つの本能である民族性を目覚めさせます。
おそらく、このドイツ正統派の骨格の上にチェコの民族性を纏うというのが彼の特徴となり、結果としてどの作品を演奏してもその作品が持っている形式やスタイルを損なうことなく、さらに、ドヴォルザークやスメタナ、スークのような母国の作曲家の作品に対してはそこへチェコの土の薫りを纏わせるのです。
しかし、さらに彼の録音をさらに聞いていると、そこに時代の流れとも言うべき即物主義への目配りも生まれていったようにも思えます。
そして、ターリッヒが分からないのは、そう言う幾つかの要素が常に混じり合うのではなくて、時にある側面が突出した演奏が表れることです。
例えば、1954年に録音したドヴォルザークの「新世界より」では民族への誇りに満ちた熱い演奏を繰り広げて、その民族性という一点に集中して音楽を作りあげていました。
ところが、この51年の同じドヴォルザークの「弦楽のためのセレナーデ」では、驚くほどスッキリとした佇まいで全体を構成しています。それは、想像にしか過ぎませんが、ニキッシュが持っていた明解な音楽作りに加えて、時の流れとなりつつあった即物主義的な潮流への目配りがあったのかもしれません。
これはこれで、54年の「新世界より」とは真逆の方向に針が振れた演奏です。
どちらにしても、なかなか一筋縄ではいかないおじさんだったようです。
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