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カルロ・マリア・ジュリーニ(Carlo Maria Giulini) |ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲
ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団1959年6月4日&8日-10日録音
Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.2
3部分からなる舞踏交響曲
「ダフニスとクロエ」は、ロシア・バレエ団を率いるセルゲイ・ディアギレフの依頼を受けて作曲したバレエ音楽だったのですが、出来上がった音楽にディアギレフはかなり不満があったようなのです。
それは、ディアギレフは「バレエ音楽」を依頼したににもかかわらず、出来上がった作品は「立派な管弦楽曲」だったからです。
確かに、ラヴェル自身もこの出来上がったバレエ音楽のことを3部分からなる舞踏交響曲と呼んでいたようです。
「私が目指したものは、古代趣味よりも私の夢想の中にあるギリシャに忠実であるような、音楽の巨大な壁画を作曲することだった。
その壁画は、18世紀末のフランス画家達が夢想し描いたものに、いわはおのずと似通っている。
作品はきわめて厳格な調の設計に基づき、少数の、展開が作品全体の交響的な均質性確かなものにする動機によって、交響音楽として組み上げられている。」
つまりは、コンサートのプログラムとして聞くには相応しくても、バレエ音楽を注文したつもりのディアギレフにとっては満足のいくものではなかったのです。
実際、現在は「第1組曲」と言われる部分だけが完成して、ピエルネ指揮のコロンヌ管弦楽団で初演されたというのそのあたりの事情を反映しています。そして、その「第1組曲」初演の翌年に全曲が漸くにして完成したのですが、「バレエ」の上演としてはかなり不満足な結果に終わってしまいます。
なお、ラヴェル自身が3つの部分と呼んだのは以下の通りです。
第1部 パンの神とニンフの祭壇の前
序奏~宗教的な踊り
全員の踊り
ダフニスの踊り~ドルコンのグロテスクな踊り
優美な踊り~ヴェールの踊り~海賊の来襲
夜想曲~3人のニンフの神秘的な踊り
間奏曲
第2部 海賊ブリュアクシスの陣営
戦いの踊り
やさしい踊り
森の神の登場
第3部 第1部と同じ祭壇の前
夜明け
無言劇
全員の踊り
先に完成した「第1組曲」は、第1部の「夜想曲」と「間奏曲」、そして第2部の「戦いの踊り」までが演奏され、組曲と言ってもそれらが一気に演奏されます。
そして、全曲が完成した翌年に「第2組曲」が完成するのですが、それもまた第3部がノーカットで演奏されるもので、違いがあるとすれば第2部から第3部へ移行する10小節がカットされているだけです。
ですから「第1組曲」も「第2組曲」も、組曲とはなっているのですが本体のバレエ音楽から抜粋したり、再構成したりというような事は一切していないのです。
つまりは、それだけ本体のバレエ音楽が交響的な音楽になっていると言うことの裏返しでもあるのです。
なお、「ダフニスとクロエ」のあらすじは以下のようなものです。
第1部 パンの神とニンフの祭壇の前
序奏に続いて祭壇に供える「宗教的な踊り」が捧げられます。
ダフニスとクロエが登場すると、娘達はダフニスを、若者達はクロエを囲んで踊り、やがて「全員の踊り」となります。
やがて、クロエに言い寄る牛飼いのドルコンをダフニスが遮ると、ダフニスとドルコンは踊りで勝負をすることになります。
まずは、ドルコンの「グロテスクな踊り」、続いてダフニスの「優美な踊り」が踊られ、勝ったダフニスはクロエからキスされて恍惚となります。
やがてクロエは一同と連れだって退場するのですが、一人に残った夢見心地のダフニスに年増女のリュセイオンが「ヴェールの踊り」で誘惑をします。
すると、突如「海賊の主題」が鳴り響いて海賊が襲来します。
クロエを気遣うダフニスト入れ違いにクロエが登場し、祭壇に額ずく彼女を海賊は連れ去ってしまいます。
再びその場に戻ってきたダフニスはクロエの靴を発見して絶望のあまりに卒倒してしまいます。
やがて「夜想曲」が流れ、3人のニンフが「神秘的な踊り」を踊っていると倒れているダフニスを発見して助け起こします。
3人のニンフがダフニスに神に祈らせるのですが、パンの神が姿を現すとダフニスはその場にひれ伏し、合唱を伴った「間奏曲」が流れてきます。
ちなみに、こんな所に「合唱」を使うのは「バレエ」には不要な無駄遣いだとしてディアギレフは全く気に入らなかったようです。
第2部 海賊ブリュアクシスの陣営
間奏曲から切れ目なしに粗野であっても活気に溢れた海賊達の「戦いの踊り」が演奏されます。
そして、海賊の首領の前に連れて来られたクロエは「やさしい踊り」で許しを乞います。そして、脱出の機会をうかがうのですが失敗してしまいます。
ところが、まさにあわやというところで、突然山羊の脚をした森の神が登場すると雰囲気は一変し、さらには大地が裂けてパンの神の巨大な幻影が現れると海賊たちは先を争うようにして逃げ去ってしまうのです。
第3部 第1部と同じ祭壇の前
「夜明け」の歌によって夜はまさに明けようとし、小鳥は歌い出します。そして、この音楽の後にダフニスとクロエの感動的な再会を果たします。
老いた羊飼いは、パンの神はかつて愛したシリンクスの思い出ゆえにクロエを助けた事を教えます。
そこで、ダフニスとクロエは「無言劇」を演じます。
パンの神が吹く蘆笛にシラーンクスの心は高まり、やがて彼女の方から神の胸に飛び込むというストーリーを演じてみせたのです。
そして、ダフニストクロエは祭壇の前で愛を誓うと、全員がパンの神とニンフを讃えて「全員の踊り」を沸き立つような熱狂の中で踊るのです。
ジュリーニはラヴェルの指示に従って精緻な織物を織り上げて見せた
フィルハーモニア管の時代のジュリーニは一筋縄ではいかないところがあります。
概ねはがっしりとした造形で見通しの良い音楽を形づくっているのですが、驚くほど遅いテンポでネッチリと歌い上げる(ブラームスの1番)ときもあります。
かと思えば、それとは真逆の、デモーニッシュ的なものの欠片もないほどにひたすら気持ちよく横へと流れていく(チャイコフスキーの6番)時もあります。
万華鏡というものは見るたびにその姿を変えているようでも、その底には変わらない何かが張り付いている、と書いていた人がいました。
確か、何かのミステリー小説だったと記憶しているのですが、「人もまた同じであり、彼の場合のそれは『卑屈』さだった」みたいに続くのではないかと記憶しています。
ところが、このジュリーニという万華鏡について言えば、どうにもその底にあるはずの「変わらない」ものが見えてこないのです。そして、それが見えてこないがゆえにそこに分裂症的なものを感じとってしまうのですが、かといってそこにドイツ語圏のイタリア人という出自を持ってきてもなかなか自分を納得させるのは難しいのです。
しかしながら、それがラヴェルのような音楽になるとそう言う分裂症的なところは影をひそめます。
「スイスの時計職人」と呼ばれることもあるラヴェルの精緻な音楽を、その名にふさわしいように精緻に織り上げていくことい全ての力が傾注されています。そこにあるのは、ラヴェルが目指したものをひたすら現実の音として織りあげようとする献身です。
ラヴェルの音楽は19世紀的なロマン主義的な音楽とは一線を画しています。
そこにあるのは、音符という糸を使って、どれほど精緻な織物を織り上げることが出来るのかということへの挑戦です。そして、ジュリーニはラヴェルの指示に従って精緻な織物を織り上げて見せたのでした。
言うまでもないことですが、そこに「精神性」などと言うものを感じとろうとするのは全くの間違いであって、見るべきはそこで織り上げられた織物の色合いであり、絵柄であり、そしてその手触りであったりするのです。
ですから、その見事なまでの手仕事に大きな功績を果たしているのがフィルハーモニア管であることは言うまでもありませんし、その録音会場で鳴り響いていたであろう音を録音という形で刻み込んだEMIの録音スタッフもいい仕事をしています。
ただし、いささか残念なのは56年、62年、66年と録音年代が下っていくにつれて、せっかくの精緻な織り目が録音によって滲み始めることです。
56年録音の「マ・メール・ロワ」は、EMIにしてみればステレオ録音の最初期のものなのですが、鮮やか織り目を見事に刻み込んでいます。
それと比べれば、66年の録音は良く言えばふっくらとした響きという褒め言葉を呈することも可能かも知れないのですが、それはジュリーニが求めるものではなかったでしょう。
ステレオ録音の波に乗り遅れたEMIが、その遅れを取り返そうと必死で頑張っていた50年代の後半から60年代の初頭まではいい仕事をしていたのですが、それ以後は世間でよく言われるEMIのクオリティになってしまったことが、この一連のラヴェル録音からも感じとることが出来ます。
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