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Home|セル(George Szell)|ハイドン:交響曲第88番ト長調「V字」

ハイドン:交響曲第88番ト長調「V字」

セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1954年4月9日録音



Haydn:交響曲第88番 「第1楽章」

Haydn:交響曲第88番 「第2楽章」

Haydn:交響曲第88番 「第3楽章」

Haydn:交響曲第88番 「第4楽章」


フィナーレをどうするか?

交響曲と言えばクラシック音楽における王道です。お金を儲けようとすればオペラなんでしょうが、後世に名を残そうと思えば交響曲で評価されないといけません。ところが、この交響曲というのは最初からそんなにも凄いスタンスを持って生まれてきたのではありません。もとはオペラの序曲から発展したものとも言われますが、いろんな紆余曲折を経てハイドンやモーツァルトによって基本的には以下のような構成をもったジャンルとして定着していきます。

* 第1楽章 - ソナタ形式
* 第2楽章 - 緩徐楽章〔変奏曲または複合三部形式〕
* 第3楽章 - メヌエット
* 第4楽章 - ソナタ形式またはロンド形式

いわゆる4楽章構成です。
しかし、ハイドンやモーツァルトの時代には舞曲形式の第3楽章で終わってしまうものが少なくありません。さらに、4楽章構成であってもフィナーレは4分の3とか8分の6の舞曲風の音楽になっていることも多いようです。
もう少し俯瞰してハイドンやモーツァルト以降の作曲家を眺めてみると、みんな最終楽章の扱いに困っているように見えます。それは、交響曲というジャンルに重みが加わるにつれて、その重みを受け止めて納得した形で音楽を終わらせるのがだんだん難しくなって行くように見えるのです。
その意味で、ベートーベンのエロイカはそう言う難しさを初めて意識した作品だったのではないか気づかされます。前の3楽章の重みを受け止めるためにはあの巨大な変奏曲形式しかなかっただろう納得させられます。そして、5番では楽器を増量して圧倒的な響きで締めくくりますし、9番ではついに合唱まで動員してしまったのは、解決をつけることの難しさを自ら吐露してしまったようなものです。
そう言えば、チャイコの5番はそのフィナーレを効果に次ぐ効果だとブラームスから酷評されましたし、マーラーの5番もそのフィナーレが妻のアルマから酷評されたことは有名な話です。さらに、あのブルックナーでさえ、例えば7番のフィナーレの弱さは誰しもが残念に思うでしょうし、8番のあのファンファーレで始まるフィナーレの開始は実に無理をして力みかえっているブルックナーの姿が浮かび上がってきます。そして、未完で終わった9番も本当に時間が足りなかっただけなのか?と言う疑問も浮かび上がってきます。いかにブルックナーといえども、前半のあの3楽章を受けて万人を納得させるだけのフィナーレが書けたのだろうとかという疑問も残ります。

つまり、ことほど左様に交響曲をきれいに締めくくるというのは難しいのですが、その難しさゆえに交響曲はクラシック音楽の王道となったのだとも言えます。そして、交響曲は4楽章構成というこの「基本」にハイドンが到達したのはどうやらこの88番あたりらしいのです。
というのも、ハイドンはこの時期に4分の2で軽快なフィナーレをもった作品を集中的に書いているのです。常に新しい実験的な試みを繰り返してきたハイドンにとって一つのテーマに対するこの集中はとても珍しいことです。
ああ、それにしてもこの何という洗練!!そういえば、この作品を指揮しているときがもっとも幸せだと語った指揮者がいました。しかし、この洗練はハイドンだけのものであり、これに続く人は同じやり方で交響曲を締めくくることは出来なくなりました。その事は、モーツァルトも同様であり、例えばジュピターのあの巨大なフーガの後ろにハイドンという陰を見ないわけにはいかないのです。


希有な職人技の合体によって成り立った希有な録音

ハイドンの交響曲というのは演奏する側にとっては結構難しくてオケの性能テストみたいなところがあります。さらに、精密一点張りで演奏してもその中にハイドンのウィットみたいなものがにじみ出てこないと物足りなさが残るという難しさも内包しています。
そう考えると、セルとハイドンというのはちょっと考えると相性が悪そうに思えます。演奏の精緻さに関してはなんの心配もなくても、はたしてハイドンの面白味みたいなものがきちんと表現されているのかが心配になるのです。ところが、実際に聞いてみるとこの組み合わせ、なかなかにいけているのです。
以前、シェルヘンの演奏を紹介したときにこんな事を書いたことがあります。

「確かに、ビーチャムのウィットもワルターのロマンも、さらにはクレンペラーの力業もありません。しかし、ハイドンがこれらの作品に仕掛けた様々な「技」が手に取るように分かります。」
おそらくセルの演奏に関してもこの言葉がピッタリあてはまるように思えます。ただし、その完成度はシェルヘンの比ではありません。
おそらく、セルはハイドンの面白味を表現しようなどとはあまり考えていなかったはずです。しかし、職人ハイドンの楽譜を精緻に再現すれば、自ずからそこに仕掛けられた技が活き活きと再現されと言う仕組みなっているようなのです。その意味では、セルとハイドンという希有な職人技の合体によって成り立った希有な録音だと言えます。

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