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ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調(原典版)

ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団 1953年録音



Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [1.Feierlich, misterioso]

Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [2.Scherzo. Bewegt, lebhaft; Trio. Schnell]

Bruckner:Symphony No.9 in D minor, WAB 109 [3.Adagio. Langsam, feierlich]


ブルックナーの絶筆となった作品です

しかし、「白鳥の歌」などという感傷的な表現を寄せ付けないような堂々たる作品となっています。ご存じのようにこの作品は第4楽章が完成されなかったので「未完成」の範疇にはいります。
もし最終楽章が完成されていたならば前作の第8番をしのぐ大作となったことは間違いがありません。

実は未完で終わった最終楽章は膨大な量のスケッチが残されています。専門家によると、それらを再構成すればコーダの直前までは十分に復元ができるそうです。
こういう補筆は多くの未完の作品で試みられていますが、どうもこのブルックナーの9番だけはうまくいかないようです。今日まで何種類かのチャレンジがあったのですが、前半の3楽章を支えきるにはどれもこれもあまりにもお粗末だったようで、今日では演奏される機会もほとんどないようです。

それは補筆にあたった人間が「無能」だったのではなく、逆にブルックナーの偉大さ特殊性を浮き彫りにする結果となったようです。

ブルックナー自身は最終楽章が未完に終わったときは「テ・デウム」を代用するように言い残したと言われています。その言葉に従って、前半の3楽章に続いて「テ・デウム」を演奏することはたまにあるようですが、これも聞いてみれば分かるように、性格的に調性的にもうまくつながるとは言えません。

かといって、一部で言われるように「この作品は第3楽章までで十分に完成している」と言う意見にも同意しかねます。
ブルックナー自身は明らかにこの作品を4楽章構成の交響曲として構想し創作をしたわけですから、3楽章までで完成しているというのは明らかに無理があります。

天国的と言われる第3楽章の集結部分を受けてどのようなフィナーレが本当は鳴り響いたのでしょうか?永遠にそれは聞くことのできない音楽だけに、無念は募ります。


マーラーやブルックナーのスペシャリスト

ホーレンシュタインのブルックナーを聞いていて記憶に蘇ってきたのはクラウス・テンシュテットのブルックナーでした。残念ながら私が聞いた公演のメインはマーラー(1984年4月13日 大阪・フェスティバルホール)とブラームス(1984年4月14日 大阪・フェスティバルホール)で、ブルックナー(1984年4月11日 東京簡易保険ホール)の実演は聞く事が出来ていません。
ですから、その印象は録音によるものなのですが、当時の日本のブルックナー信者の間に広まっていた「神秘」的なブルックナーではなく、清々しいまでに後期ロマン派の交響曲として割り切った演奏でした。そして、そのうねるような音楽は、その解釈の根っこにマーラーに対するのと同じ視点があるように思ったものでした。

おそらく、こういうブルックナーは「何も考えない」指揮者の手になる演奏では絶対に実現しません。
必要なのは精緻な楽曲分析と、それを現実の音として実現するためのオケに対する絶対的なコントロール能力です。

そう言えば、テンシュテットはイギリスではフルトヴェングラーの再来と期待された指揮者でしたし、ホーレンシュタインはフルトヴェングラーの助手でした。そしてこの二人のブルックナーを聞いていてもう一人思い出すのは疑いもなくフルトヴェングラーのブルックナーです。
そして、フルトヴェングラーのブルックナーはとある評論家の強い影響力によって「外道」のブルックナーと見なされ続け、それはテンシュテットのブルックナー演奏においても同様でした。

ホーレンシュタインと言えば今では一部の好事家くらいしか注目しない存在なのですが、50年代においてはマーラーやブルックナーのスペシャリストと見なされていました。
予算が余ったBBCがその予算を消化するために急遽実施したマーラーの8番を、一度も全体であわせる機会もないまま本番の公演に臨み見事な演奏を成し遂げたのは今も伝説として語り継がれています。
ですから、彼の本領が一番発揮されるのはブルックナーではなくてマーラーだと思うのですが、50年代の初めにVoxで録音したブルックナーの8番と9番の演奏は実見事なものです。
ただし、一昔前の「ブルックナー信者」にしてみれば到底許し難いような演奏だったでしょうから、ほとんど無視され続けてきたのではないでしょうか。

この私にしてもブルックナーの録音はかなり聞いてきていますが、ホーレンシュタインの演奏にふれたのはこれが初めてでした。
私がブルックナーの素晴らしさを教えてもらったのは大フィルと朝比奈であり、その演奏を影響力のある評論家が褒めちぎっていたので、その呪縛から逃れるには時間がかかりました。

とは言え、クラシック音楽などと言う世界にのめり込むにはそう言う「呪縛」も時には推進力にもなるので、その全てを否定するつもりはありません。しかし、その「呪縛」の先に広がる広大な世界に気づいたときに、初めてこの世界の豊かさの大いなる事を知ることになるのです。

ホーレンシュタインの音楽はいつも自然な流れによって支配されています。そして、低声部をやや厚めにならすことで実に柔らな暖色系の響きをつくり出して聞くものの心を穏やかにしてくれます。おそらく、これこそがホーレンシュタインが持つ最大の魅力でしょう。
しかし、ここぞという場面では踏み込むことがあったり、踏み込まなかったりすることもあるのですが、このブルックナーではいい方の芽が出ています。
第9番の第1楽章の終結部などはその一番いい例で、ホーレンシュタインが踏み込んだときの魅力が溢れています。

そして、第8番の第3楽章では自然な音楽に流れの中で美しい響きと美しい旋律がこの上もなく感動的な世界を作りあげているのは、まさにホーレンシュタインの真骨頂と言えるでしょう。

この演奏を評価してください。

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2024-01-16:大串富史





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