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クレンペラー(Otto Klemperer)|ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1957年10月録音
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第1楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第2楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第3楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第4楽章」
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女

北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。
そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。
最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)
改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています
人類の貴重な遺産とも言うべき演奏
本当に「録音」だけで演奏を評価をするのは難しいです。これは、再生のレベルが上がるたびに痛感するのですが、今回もファンレスのシンプル構成のPCに「Voyage MPD」を組み込んだシステムで聞いてみて、また同じようにつぶやいてしまいました。
本当に録音だけで演奏と演奏家を評価するのは難しい。
クレンペラーと言えば、巨大な構築物ととして音楽を仕上げていくことが高く評価される反面、音色に関しては固くて素っ気なく、時にはぎすぎすした感じがすると言われてきました。つまりは、「感覚的なヨロコビ」が乏しいと思われてきました。
しかし、クラシック音楽の世界とは不思議なもので、そう言う「官能的なヨロコビ」が乏しいことが、逆にクレンペラーの演奏に「高い精神性」という刻印を刻み込む根拠ともなってきたのです。
ホントにクラシック音楽は不思議な世界で、聞いてすぐに心引かれるようなメロディや華やかな音色、甘い響きなどはそう言う「高い精神性」を阻害するものとして「厳しく排除」されるのです。とにかく精神性に溢れた演奏というのは、まずは聞いても「面白くもなければ華やかでもない」事が絶対的な条件として求められてきたのです。つまりは、聞いて面白くなければ面白くないほど、そして響きは地味であれば地味であるほど「高い精神性」が担保されるのです。
そして、そう言う地味で面白くもない演奏をじっと聴き続けていくうちに、その中にふとかいま見られた「高い精神性」に心ふるわすというのが優れたクラシック音楽の聞き手とされてきました。
そう言う意味では、一見するとぶっきらぼうで素っ気なく、響きも固くて時にはぎすぎすした感じのするクレンペラーの演奏などは、まさに「高い精神性」に溢れた演奏として高く評価されてきたのです。
まあ、こんな書き方をするとかなり嫌味がきついですし、今時こんなスタンスで音楽を聴いている人は少ないと思いますが、一昔前の「教養」としてクラシック音楽を聴いていたような人々はまさにこんな雰囲気だったのです。そして、そう言う亡霊は、今もクラシック音楽界の中を未だに彷徨っています。
なぜ今さらこんな事を書いたのかというと、ファンレスのシンプル構成のPCに「Voyage MPD」を組み込んだシステムでクレンペラーの演奏を聴くと、何とその響きは固くもなければギスギスもしていないのです。もちろん、華やかな響きではありませんが、十分にしなやかで透明感のある響きであることに気づかされます。
そして、演奏も素っ気ないどころか、至る所で細やかな表情づけが施されていることに気づかされます。もちろん、基本的なスタンスはスタティックなものであり大げさに身振りや手振りを交えるような演奏ではありませんが、決してぶっきらぼうではないことがはっきりと分かります。
つまり、その演奏は十分に「感覚的なヨロコビ」に満ちたものとなっているのです。
それは、今回まとめてアップした4番にも5番に共通して言えることですし、その他のベートーベン演奏にも共通して言えることです。
そして、考えてみれば容易に気づくことですが、耳の肥えた当時のイギリスの聴衆が固くて素っ気ない響きでぶっきらぼうに演奏したベートーベンに「ブラボー」を送るはずはないのです。
確かに、これは「音のサーカス」のような演奏ではありませんが、それと同じくらい「高い精神性」だけで成り立っている演奏でもありません。そして、このクレンペラーという一代の変人が残してくれたステレオ録音によるベートーベン演奏が、疑いもなく人類の貴重な遺産であったことを確信させてくれます。
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