サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調 Op.78「オルガン付き」
クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 Org:アンリエット・ピュイグ=ロジェ 1955年9月19〜21日録音
Saint-Saens:第3番ハ短調 Op.78「オルガン付き」 「第1楽章」
Saint-Saens:第3番ハ短調 Op.78「オルガン付き」 「第2楽章」
虚仮威しか壮麗なスペクタルか?
巨大な編成による壮大な響きこそがこの作品の一番の売りでしょう。3管編成のオケにオルガンと4手のピアノが付属します。そして、フィナーレの部分ではこれらが一斉に鳴り響きます。
交響曲にオルガンを追加したのはサン=サーンスが初めてではありません。しかし、過去の作品はオルガンを通奏低音のように扱うものであって、この作品のように「独奏楽器」として華々しく活躍して場を盛り上げるものではありませんでした。それだけに、このフィナーレでの盛り上がりは今まで耳にしたことがないほどの「驚きとヨロコビ」を聴衆にもたらしたと思われるのですが、初演の時に絶賛の嵐が巻き起こったという記述は残念ながら見あたりません。
これは全くの想像ですが、当時のイギリスの聴衆(ちなみに、この作品はイギリスのフィルハーモニー協会の委嘱で作曲され、初演もイギリスで行われました)は、おそらく「凄いなー!!」と思いつつ、その「凄いなー」という感情を素直に表現するには「ちょっと気恥ずかしいなー」との警戒感を捨てきれずに、表面的にはそこそこの敬意を表して家路をたどったのではないでしょうか。
まあ、全くの妄想の域を出ませんが(^^;。
しかし、その辺の微妙な雰囲気というのは今もってこの作品にはつきまとっているように見えます。
よく言われることですが、この作品は循環形式による交響曲としてはフランクの作品と並び称されるだけの高い完成度を誇っています。第1部の最後でオルガンが初めて登場するときは、意外にもピアノで静かに静かに登場します。決して効果だけを狙った下品な作品ではないのですが、しかし、「クラシック音楽の王道としての交響曲」という「観点」から眺められると、どこか物足りなさと「気恥ずかしさ」みたいなものを感じてしまうのです。ですから、コアなクラシック音楽ファンにとって「サン=サーンスのオルガン付きが好きだ!」と宣言するのは、「チャイコフスキーの交響曲が好きだ」と宣言するよりも何倍も勇気がいるのです。
これもまた、全くの私見ですが、ハイドン、ベートーベン、ブラームスと引き継がれてきた交響曲の系譜が行き詰まりを見せたときに、道は大きく二つに分かれたように見えます。一つは、ひたすら論理を内包した響きとして凝縮していき、他方はあらゆるものを飲み込んだ響きとして膨張していきました。前者はシベリウスの7番や新ウィーン楽派へと流れ着き、後者はマーラーへと流れ着いたように見えます。
その様に眺めてみると、このオルガン付きは膨張していく系譜のランドマークとも言うべき作品と位置づけられるのかもしれません。
おそらく、前者の道を歩んだものにとってこの作品は全くの虚仮威しとしか言いようがないでしょうが、後者の道をたどったものにとっては壮麗なスペクタルと映ずることでしょう。ただ、すでにグロテスクなまでに膨張したマーラーの世界を知ったもににとって、この作品はあまりにも「上品すぎる」のが中途半端な評価にとどまる原因になっているといえば、あまりにも逆説的にすぎるでしょうか?
もしも、この最終楽章に声楽を加えてもっと派手に盛り上げていれば、保守的で手堅いだけの作曲家、なんて言われなかったと思うのですが、そこまでの下品さに身をやつすには彼のフランス的知性が許さなかったと言うことでしょう。
未だに根強い人気を誇る指揮者
クリュイタンスといえば、ベルリンフィルによる初めてのベートーベン交響曲全集の録音を担当したことで有名です。それ以後、星の数ほど全集はリリースされているのですが、未だにこの全集は根強い人気を維持しています。
さらに、忘れがたいのは、手兵のパリ音楽院管弦楽団を引き連れての初来日の演奏です。
この公演はフランス系オケの初来日ということもあって、その「フランスの響き」に日本の聴衆は完全にノックアウトされ「あまりの素晴らしさに、日本のオケに絶望感すら感じさせた」と評されたの有名な話です。この初来日から数年後にクリュイタンスは急逝してしまい、それをきっかけにパリ音楽院管弦楽団はパリ管へと組織替えをされてしまったために、このコンビによる響きは永遠に失われてしまったが故に、この来日時の演奏は本当に貴重なものとなっています。最近になってこの来日時の録音が
ALTUSからリリ−スされてベストセラー(といっても、クラシック音楽の世界での話ですから多寡はしれていますが)になったことからも、その辺の事情がうかがい知ることができます。
決してスター的なポジションになった指揮者ではないのですが、そのかけがえのない「オンリーワン」の魅力のためか根強い人気を維持している指揮者です。
よせられたコメント
2008-08-22:koco
- フランス音楽といえば去年ベルリオーズの幻想交響曲をミュンシュ&パリ管で聴いて以来で,ガチガチとしたイメージのあるドイツ音楽(ベト3の力強さが典型例)とは違い,全曲を通して美しさ,華麗な響きが加わっています。さらにクリュイタンスとパリ音楽院という組み合わせでよりいっそうフランスの響きになっています。
2012-11-26:アンドレ
- サン・サーンスの第3番はとても練られていて演奏効果も抜群な曲だと思います。交響曲と言うとドイツ系中心で残念です。こんな名曲があるではありませんか。内容だって決して負けてなく、むしろ新鮮な上品さや力強さがあったりして大好きです。ふと気分転換したいときなどサン・サーンスやベルリオーズなどを聴きたくなります。
2021-07-12:りんごちゃん
- クリュイタンスの演奏でまず驚くのは、あのまるで合わせる気が感じられないフランスのオーケストラが、何故かビシッとあっているところでしょうか
まるで奇跡です
違う言い方をいたしますと、あのやる気なさげなフランスのオーケストラが、俺達がサン=サーンスを弾かないで誰が弾くんだ!とばかりに、超やる気になってサン=サーンスの使徒になりきっているかのように聞こえるのです
やっぱり奇跡ですかね
次に感じるのはオーケストラ操縦のうまさなのですが、彼の演奏は整った構築物のバランスを常にきっちり維持しながら、一つ一つのパートがことごとくそのメロディーを歌いきっているように見えます
オーケストラは最初から最後までずっと、一つ一つのフレーズを慈しみを持って演奏しているように聞こえませんか
この演奏には、サン=サーンスへの深い共感が感じられるような気がいたします
オーケストラは彼のもとで、サン=サーンスと心を一つにして歌っているかのように聞こえるのです
どこかの凄い人はオーケストラに「この音符を愛してください。」と常々語っていたという話らしいですが、それはこういう意味なのでしょうね
第1楽章(1楽章前半)などはぱっと見には悲劇的とでもいうような調子の音楽のはずなのに、この演奏からは、この場でみんなとサン=サーンスを弾く喜びのようなものが溢れて止まらないようにわたしには聞こえます
クリュイタンスがオーケストラに求めたのは、もしかしたらこれただ一つだけだったのかもしれません
こういったものは多分指揮棒からも、リハーサルからも生まれることはないのでしょう
少なくとも指揮棒やリハーサルの中身などに意識を向けているうちは、そのようなものが姿を現すはずはありませんよね
終楽章(2楽章後半)などはゆっくり目のテンポですが、この一見「輝かしく華やか」以上でも以下でもない映画音楽の極致のような音楽を、ここまで心を込めて共感を持って演奏しているものはないでしょう
一箇所だけあげますと、オルガンのじゃ~んのあとピアノが分散和音で主旋律を重ねるところがありますが、他の演奏ではこれが響きのパーツを超えることがないように思うのですが、この演奏だけは完全にそれを歌いきっていますよね
このテンポ設定は、単にこのピアノパートをはっきり聞かせたいというだけでなく、どの部分も弾き飛ばすことなく大切にしたいという気持ちの現われであるように思えるのです
他の演奏では、作曲者の意図を再現するであるとか、見栄え良く聞かせるためにはどのような演出をすべきであるとか、あるいは自分の持ったイメージを再現するとかいった形で作品に向かっているように思えますが、この演奏だけはその音楽への共感が根底にありまして、それをただ伝えたくてこれを演奏しているかのように思えるのです
こういう演奏を素晴らしいと言わずして、何を素晴らしいといえばよいのでしょう
…などと言ったら褒め過ぎかもしれませんので、2,3割ほど割り引いてお読みいただけばちょうどよいかもしれません
少なくともわたしはこの演奏が大好きです
よろしければパレーのところもご覧くださいませ
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