モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調, K.448(Mozart:Sonata for 2 Pianos in D major, K.448/375a)
(P)モニク・アース ハインツ・シュレーター:1957年録音(Monique Haas:(P)Heinz Schroter Recorded on 1957)
Mozart:Sonata for 2 Pianos in D major, K.448/375a [1.Allegro con spirito]
Mozart:Sonata for 2 Pianos in D major, K.448/375a [2.Andante]
Mozart:Sonata for 2 Pianos in D major, K.448/375a [3.Allegro molto]
「のだめカンタービレ」で有名になりました
2台のピアノのためのソナタ ニ長調, K.448
この曲は、モーツァルトが自身の優秀な弟子であったジョセファ・バルバラ・アウエルンハンマーと一緒に演奏するために書かれました。
第1楽章:Allegro con spirito
冒頭、2台のピアノが完全に息を合わせて力強いユニゾンで始まります。これは当時の交響曲(オーケストラ)の始まり方を思わせる
非常に華やかな行進曲風の「第1主題」です。その後、雰囲気が一転して優美な「第2主題」が第2ピアノから始まります。すぐに第1ピアノがそれを追いかけるように重なり、美しいカノンが形成されます。
モーツァルトの作品としては珍しく、これまでに登場した主題の要素をベースにしながらも、少し不安げな半音階の動き(ドレミの間の音を細かく刻む動き)を見せます。
2台のピアノが激しく、そして急速にフレーズをぶつけ合うスリリングな聴きどころです。
再び冒頭の華やかなテーマに戻りますが、ここでも1番ピアノと2番ピアノの役割が巧みに入れ替わります。
お互いを引き立て合いながら、きらびやかなアルペッジョで一気に駆け抜けて締めくくられます。
第2楽章:Andante
第1楽章の興奮を鎮めるように、第1ピアノがゆったりとした、歌うような美しい第1主題を奏でます。
第2ピアノはそれを穏やかな伴奏で支えますが、すぐに役割が交代し、お互いのメロディに美しい装飾音を付け加えながら、対話を深めていきます。
短調の陰りが一瞬広がり、モーツァルト特有の「天上の美しさの裏にある、そこはかとない哀愁」が顔をのぞかせます。
2台のピアノがため息をつくように交互に旋律を歌い交わします。
再び光が差し込むようにト長調へと戻り、お互いの信頼関係を確かめ合うかのように、より一層細やかで美しい装飾を伴って、静かに、優しく楽章を閉じます。
第3楽章:Molto allegro
トルコ風の軽快で、少しおどけたような楽しいロンド主題が何度も形を変えて帰ってきます。
このテンポの速い主題が、楽章全体の推進力を生み出しています。ロンド主題の合間に、いくつもの新しいメロディが飛び出します。
片方のピアノが細かく速いパッセージ(音階)を弾きまくっている間、もう片方がそれを楽しげに煽るようなリズムを刻むなど、視覚的にも聴覚的にも「2人のピアニストの超絶技巧の応酬」が楽しめます。
最後は2台のピアノのエネルギーが最高潮に達します。
寸分の狂いもない高速のスケール(音階)や和音の連続によって、まるで打ち上げ花火がパッと弾けるかのように、圧倒的な爽快感とともに全曲を華々しく弾ききります。
「ジュー・ベル」によるモーツァルト
フランスというのは実に素敵な女性を生み出すものです。
ピアニストで言えば、「マダム・ロン(マルグリット・ロン 1)」や「6人組の女神」とあがめられた「マルセル・メイエル」がいました。ヴァイオリニストならばなんと言っても「ジネット・ヌヴー」でしょうが、「ミッシェル・オークレール」も忘れるわけにはいきません。
渋いところではオルガン奏者の「マリー=クレール・アラン 」も数え上げたいです。
そして、ここでもう一人取り上げたいのが「モニク・アース」です。
モニク・アースの演奏を聞いていてすぐに気づかされるのはその粒立ちのよいピアノの響きです。それは、いわゆるマダム・ロン以来の「ジュー・ベル」の伝統を引き継いだものでした。そして、彼女の残した一連のモーツァルトの録音にはその美質が最もよくあらわれています。
モニク・アースもそうですが、このフランスの女性たちは、野心をたぎらせてトップに躍り出て目立とうとするのは無粋と感じるようで、それはそのまま演奏にも反映しています。
この一連のモーツァルトのコンチェルトも演奏効果を狙うようなことには興味はないようで、どこまでも知的な部分を背景にしながら美しさを表出しようとします。結果として、音楽を聞き込んできた「玄人筋」には至って評判が高いと言う事になります。
しかし、モニク・アースはやがてそう言う「マダム・ロン」のやり方から少しずつ離れていき、ハイ・フィンガーで粒立ち良くピアノを響かせるやり方だけでなく、より多彩な音色を駆使する方向に変わっていきます。
それは、彼女のレパートリーの中心がフランス近代のドビュッシーやラヴェルなどに重心が移る中で起こった変化だったのかもしれません。
しかし、それでも彼女はそれらの作品をただた茫洋とした響きの中で漂わせるのではなく、それまでの知的に明確に響かせるやり方との間で見事な調和を成し遂げていきます。
ただし、モーツァルトでは昔ながらのハイ・フィンガー的な演奏が目立つのですが、後年になるにつれて音色の変化にも留意するようになっていく様子が窺えて、そのあたりを聞き比べてみるのも面白いのかもしれません。
私の手元には以下の4つの録音があります。
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調, K.466:シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1960年録音
モーツァルト:ピアノ協奏曲第14番変ホ長調 , K.449:フェルディナント・ライトナー指揮 ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 1957年録音
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番ハ長調, K.467:ハンス・ロスバウト指揮 南西ドイツ放送交響楽団 1956年録音
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調 , K.488:ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北ドイツ放送交響楽団 1956年録音
結果として、ミュンシュ、ライトナー、ロスバウト、イッセルシュテットと言う4人指揮者の聞き比べにもなるのですが、やはりミンシュという小父さんは実に困ったおじさんだと思わずにはおれません。こんなにもオケをガンガン鳴らされたのでは、アースもいささか困ったであろうと同情を禁じ得ません。
それと比べれば、ライトナーなんて、実に紳士的です。
そう言えば、あのケンプがライトナーとのコンビでベートーベンのコンチェルトを全曲録音していますが、その選択は当然だったのだなと、おかしなところで納得した次第です。
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