ディエゴ・オルティス:レセルカーダとその基となった歌曲およびマドリガル集(Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ (Vdg)アウグスト・ヴェンツィンガ (harpsichord)エドゥアルト・ミュラー 1953年10月8日~9日録音(Walter Gerwig:(Vdg)August Wenzinger (harpsichord)Eduard Muller Recorded on October 8-9, 1953)
Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals [1.Tres Recercadas Sobre Canto Llano]
Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals [2.Madrigal A 4 "O Felici Occhi Mie" (Jacques Arcadelt) Con 2 Recercadas]
Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals [3.Recercada Quarta Por Violon Solo]
Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals [4.Cancion Francesca "Doulce Memoire" (Pierre Sandrin) Con 2 Recercadas]
Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals [5.Tres Recercadas Sobre Tenores Italianos]
世界初の変奏曲・即興演奏の教則本
ディエゴ・オルティスは、ルネサンス期のスペイン・トレド出身の作曲家、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、音楽理論家です。
1510年頃にトレドで生まれたとされています。若年期の詳細は不明ですが、スペイン国内で音楽家として高い声望を得ていました。
1550年代半ばまでに、当時スペインハプスブルク家の統治下にあったナポリ王国へ渡りました。
第3代アルバ公(フェルナンド・アルバレス・デ・トレド)の庇護を受け、ナポリ総督宮廷の楽長(maestro de capilla)に就任しました。
そして、1570年頃までナポリ宮廷で活動し、同地の音楽理論や室内楽の発展に大きく貢献しました。
1570年以降の足取りや没年は正確には分かっていないようです。
ディエゴ・オルティスの最も重要な業績は世界初の変奏曲・即興演奏の教則本「変奏手引書」を出版したことです。
ヴィオラ・ダ・ガンバのための即興装飾(グローサ)や変奏手法を系統的に解説した世界初の体系的教本です。
また、即興演奏(ディミニュション/グローサ)技法の体系化も行いました。
旋律の音符をより短い音符へと細分化して装飾する「グローサ(glosa)」の手法を数多くの実例とともに網羅し、当時の即興演奏の慣習を今日に伝える貴重な実践資料となりました。
さらに、オルティスが考案した「レセルカーダ」(イタリア語のリチェルカーレに相当する即興的器楽曲)は、以下の3つのスタイルに分類され、バロック期のグラウンド・ベース(通奏低音上の変奏曲)の先駆けとなりました。
ソロ・レセルカーダ
無伴奏(ヴィオラ・ダ・ガンバ単独):厳格な模倣対位法や指慣らし的要素を含む、ポリフォニックな自由形式。
定音上のレセルカーダ
通奏低音(鍵盤楽器等)+ガンバ:パッサメッツォやフォリアなど、当時の定番コード進行(グランド・ベース)上での変奏。
声楽編曲のレセルカーダ
4声の多声楽曲+ガンバ:アルカデルト等のマドリガーレに対し、ガンバが1パートを担当しつつ華やかな装飾を加える。
近代リュート演奏のパイオニア
リュートという楽器は19世紀から20世紀初頭にかけて近代音楽の表舞台からほぼ途絶えていました。
ヴァルター・ゲルヴィッヒその様なリュートを歴史的レパートリーの開拓と後進の育成を通じて現代に蘇らせた「近代リュート演奏のパイオニア」です。。
ドイツのフランクフルト・アム・マインに生まれ、当初は建築学などを学んでいました。しかし、ワンダーフォーゲル運動などのドイツ青年運動の影響を受け、ギターやリュートといった弦楽器に深く傾倒していきました。
そして、30代半ばには独学でルネサンス・バロック期の古い記譜法や歴史的演奏法を研究し、独奏者としての演奏活動を開始します。
その後、ケルン音楽大学の教授を務めるなど、高等教育機関でリュート科の基礎を築き、国際的なコンサートツアーや録音活動を行い、欧米全域にリュートの魅力を広めました。
ゲルヴィッヒの業績の中で、注目すべきは歴史的リュートの復元とレパートリーの開拓でした。
ゲルヴィッヒが登場する前はリュートは歴史的資料や博物館の展示品としてしか存在せず、時折演奏される際もギターの調律に合わせた変形楽器が主流でした。
彼はルネサンス期やバロック期の本来の複弦構造や調律を取り戻し、多くのの作曲家たちの膨大な作品を現代のコンサート・レパートリーとして定着させました。
とりわけ、バッハのリュート組曲を蘇らせ、ジョン・ダウランドをはじめとする英ルネサンス期のリュートソングや独奏曲、シルヴィウス・レオポルト・ヴァイスらのバロック・リュート作品の再発見などは注目に値します。
そして、演奏家としてもArchiv Produktion(アルヒーフ)などのレーベルに録音を残し、世界中の音楽愛好家に「本物のリュートの音」を届ける重要な役割を果たしました。
また、ケルン音楽大学を中心に数多くの優れた弟子を育成したことも見逃せません。
彼の手から育った奏者たちは、その後ヨーロッパ各地の音楽院で教鞭を執り、現代の古楽ムーブメントの基盤を造り上げました。
しかし、彼の演奏は後の「過度に学術的な古楽アプローチ」とは一線を画し、深い歌心と直感的なロマンチシズム、洗練された音色の美しさに満ちています。おそらく、その後の原理主義者から見れば物足りないものだったことでしょう。
柔らかく豊かなトーンを奏で、リュート特有の余韻と繊細な強弱表現を最大限に引き出す演奏には、私などは心が安らぎます。
また、複音音楽の各声部を緻密かつ自然に浮き彫りにする、高い技術的・構造的洞察力を持っていました。
ヴィオラ・ダ・ガンバの復興に尽くしたアウグスト・ヴェンツィンガーと並んで、忘れてはいけない存在です。
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