J.S.バッハ:リュート組曲 第3番 ト短調, BWV 995(Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:1949年11月22日録音(Walter Gerwig:Recorded on November 22, 1949)
Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995 [1.Praludium]
Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995 [2.Allemande]
Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995 [3.Courante]
Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995 [4.Sarabande]
Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995 [5.Gavotte I & II]
Bach:Suite For Lute No.3 In G Minor, BWV 995 [6.Gigue]
リュート向けに編曲・再構成

ケーテン時代に作曲された無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV 1011を作曲者自身がライプツィヒ時代にリュート向けに編曲・再構成した作品です。
バッハのリュート作品群の多くが写本で伝わる中、美しい自筆清書譜が残されている極めて貴重な作品です。
原曲の無伴奏チェロ組曲 第5番がハ短調だったのですが、バロック・リュートの一般的な調弦完全4度上のト短調へ移調されています。
また、単旋律弦楽器であるチェロ版では「暗示的」にとどまっていた対位法や低音の動きが、撥弦楽器の特性に合わせて明確な和声・バス声部・装飾音として具現化されています。
- Prelude(プレリュード)
重厚な付点リズムによる荘厳な「グラーヴェ(Largo)」の導入部と、3/8拍子による躍動的な「3声のフーガ(Presto)」からなる大規模なフランス風序曲形式。
- Tres viste(トレ・ヴィスト)
フーガ後半から切れ目なく続く疾走感あふれる展開。
- Allemande(アルマンド)
4/4拍子。原曲チェロ版に比べ、内声と通奏低音風のバスラインが緻密に補強され、重層的なポリフォニーが際立ちます。
- 4Courante(クーラント)
3/2拍子のフランス風クーラント。特徴的なリズム交替(ヘミオラ)が随所に現れます。
- Sarabande(サラバンド)
3/4拍子。第2拍にアクセントを持つ高貴で内省的な楽章。装飾音と和音の響きが深い祈りのような静寂を生み出します。
- Gavotte I & II en Rondeau(ガヴォット I & II・アン・ロンドー)Gavotte I:
快活な2拍子の舞曲。
- Gavotte II en Rondeau
ロンド形式(A-B-A-C-A)を取り、エピソードごとに変化する軽快な楽想が魅力です。
- Gigue(ジーグ)
3/8拍子。フランス風ジーグの軽妙な付点リズムを刻み、切れ味鋭く全曲を締めくくります。
近代リュート演奏のパイオニア
リュートという楽器は19世紀から20世紀初頭にかけて近代音楽の表舞台からほぼ途絶えていました。
ヴァルター・ゲルヴィッヒその様なリュートを歴史的レパートリーの開拓と後進の育成を通じて現代に蘇らせた「近代リュート演奏のパイオニア」です。。
ドイツのフランクフルト・アム・マインに生まれ、当初は建築学などを学んでいました。しかし、ワンダーフォーゲル運動などのドイツ青年運動の影響を受け、ギターやリュートといった弦楽器に深く傾倒していきました。
そして、30代半ばには独学でルネサンス・バロック期の古い記譜法や歴史的演奏法を研究し、独奏者としての演奏活動を開始します。
その後、ケルン音楽大学の教授を務めるなど、高等教育機関でリュート科の基礎を築き、国際的なコンサートツアーや録音活動を行い、欧米全域にリュートの魅力を広めました。
ゲルヴィッヒの業績の中で、注目すべきは歴史的リュートの復元とレパートリーの開拓でした。
ゲルヴィッヒが登場する前はリュートは歴史的資料や博物館の展示品としてしか存在せず、時折演奏される際もギターの調律に合わせた変形楽器が主流でした。
彼はルネサンス期やバロック期の本来の複弦構造や調律を取り戻し、多くのの作曲家たちの膨大な作品を現代のコンサート・レパートリーとして定着させました。
とりわけ、バッハのリュート組曲を蘇らせ、ジョン・ダウランドをはじめとする英ルネサンス期のリュートソングや独奏曲、シルヴィウス・レオポルト・ヴァイスらのバロック・リュート作品の再発見などは注目に値します。
そして、演奏家としてもArchiv Produktion(アルヒーフ)などのレーベルに録音を残し、世界中の音楽愛好家に「本物のリュートの音」を届ける重要な役割を果たしました。
また、ケルン音楽大学を中心に数多くの優れた弟子を育成したことも見逃せません。
彼の手から育った奏者たちは、その後ヨーロッパ各地の音楽院で教鞭を執り、現代の古楽ムーブメントの基盤を造り上げました。
しかし、彼の演奏は後の「過度に学術的な古楽アプローチ」とは一線を画し、深い歌心と直感的なロマンチシズム、洗練された音色の美しさに満ちています。おそらく、その後の原理主義者から見れば物足りないものだったことでしょう。
柔らかく豊かなトーンを奏で、リュート特有の余韻と繊細な強弱表現を最大限に引き出す演奏には、私などは心が安らぎます。
また、複音音楽の各声部を緻密かつ自然に浮き彫りにする、高い技術的・構造的洞察力を持っていました。
ヴィオラ・ダ・ガンバの復興に尽くしたアウグスト・ヴェンツィンガーと並んで、忘れてはいけない存在です。
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