メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ第1番 変ロ長調, Op.45(Mendelssohn:Cello Sonata No.1, Op.45)
(Cell)ルートヴィヒ・ヘルシャー:(P)ハンス・アルトマン 1959年発行(Ludwig Hoelscher:(P)Hans Altmann Published in 1959)
Mendelssohn:Cello Sonata No.1, Op.45 [1.Allegro vivace]
Mendelssohn:Cello Sonata No.1, Op.45 [2.Andante]
Mendelssohn:Cello Sonata No.1, Op.45 [3.Allegro assai]
ちょっぴり切ない抒情性
このソナタは、メンデルスゾーンの4歳下の弟であり、銀行家、そして優れたアマチュア・チェロ奏者でもあったパウル・メンデルスゾーンのために書かれました。
メンデルスゾーン自身が卓越したピアニストであったため、チェロの朗々とした旋律を支えるピアノ・パートには、非常に華やかで高度なテクニックが要求されるのが特徴です。
第1楽章:Allegro vivace
伝統的なソナタ形式。メンデルスゾーンにしては珍しく、冒頭から半音階を多用したやや陰りのある、
内に情熱を秘めた響きで始まります。その後はチェロとピアノが激しく、かつ流麗に掛け合いながらダイナミックに展開します。
第2楽章:Andante
緩徐楽章の位置づけですが、メンデルスゾーン特有の「妖精の音楽」を思わせる、軽やかでスケルツォ的な性格が強いのが魅力です。
ピッツィカートの使い方が印象的で、中間部のト長調では温かみのあるメロディが流れます。
第3楽章:Allegro assai
変則的なソナタ形式(ロンド形式に近い)のフィナーレ。最初はそっと静かに始まりますが、展開部に向けて感情が大きく高潮していきます。
最後は激しく終わるのではなく、再び静けさを取り戻しながら余韻を残して優美に締めくくられます。
後年に書かれた華やかで色彩豊かな「第2番 ニ長調」に比べると、この第1番はどこか内省的で、ドイツ・ロマン派らしいちょっぴり切ない抒情性が深く刻まれています。
戦争は常に、多くの人に大きな傷を刻み付ける
ヘルシャーは、ライプツィヒの巨匠ユリウス・クレンゲルやベルリンのフーゴ・ベッカーといった、ドイツ古典派・ロマン派チェロ奏法の重鎮たちに師事しました。そういう意味では、ドイツの伝統的な演奏スタイルの継承者と言えます。
確かに、過度な感傷や自己主張を排した、重厚で品格ある音色と骨太な造形美はまさに「これぞ、ドイツ!!」と言えるでしょう。
そして、もう一つ見落とせないのが同時代の現代作品の初演・普及にも非常に積極的だったという事です。
もしも、ナチスの台頭とそれに続く戦争がなければ、19世紀から続くロマン派チェロの魅力を受け継ぎつつ、20世紀現代音楽の可能性を切り拓いた20世紀ドイツを代表するチェロの巨匠として位置づけられたことでしょう。
しかし、ヘルシャーについて語るとき、どうしてもナチスとの関りにふれないわけにはいきません。それはヘルシャーだけでなく同じ時代をドイツで過ごした多くの芸術家が向き合わざるを得ないことでした。
ですから、彼もまたエリー・ナイとの関係を無視することは出来ません。
彼は20代半ばでヴァイオリンのヴィルヘルム・シュトロス、ピアノのエリー・ナイと共に「エリー・ナイ三重奏団」を結成します。
エリー・ナイは筋金入りの反ユダヤ主義者で、心の底からナチスを支持して「総統のピアニスト」と呼ばれた人物でした。
ヘルシャーはエリー・ナイのような狂信的な反ユダヤ主義者ではありませんでした。しかし、その結びつきを利用して音楽家としてのポジションを得ようとしたと言われても仕方がありませんでした。
彼はナチスに入党し、戦時中はナチスを熱狂的に支持した文化人たちと積極的に交流するようになりました。
その結果としてヘルシャーは、ゲッベルスが作成した「天賦の才を持つ者(神の恩寵リスト / Gottbegnadeten-Liste)」に選出されていました。
これは「第三帝国にとって絶対に失ってはならない最高峰の芸術家」を保護するリストであり、これにより兵役を免除され、宣伝省が主催する前線兵士への慰問演奏会やプロパガンダ活動に動員されたのです。
ですから、戦後は占領軍および地元の非ナチ化委員会によって過去が照会・追及されたのはやむを得ないことでした。
審査の結果、ヘルシャーは過重な処罰を伴う「ナチ党幹部・責任者」や「積極的協力者」ではなく、比較的軽度の分類(追随者、または無罪・無罪に準ずる扱い)とされました。
これにより、教育・演奏活動の一時制限は解除されるのですが、戦後の活動において大きな足枷となったことは否定できません。
確かに、極度の録音嫌いだったことも事実なのでしょうが、その足枷が彼の録音歴に影を落とした事は否めません。ドイツのチェロの演奏伝統を伝える演奏家と称されるわりには、あまりにも残された録音は少ないのです。ですから、日本国内でも彼の録音がレコード店の店頭に並ぶことは非常に少なかったようです。
私たちが「ルートヴィヒ・ヘルシャー」と聞いて。それって誰?となったのも致し方ないのです。
戦争は常に、多くの人に大きな傷を刻み付けるのなのです。
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