リヒャルト・シュトラウス:町人貴族, Op.60(抜粋)
サー・トーマス・ビーチャム指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1947年2月23日~24日,3月24日&29日,10月15日&11月5日~6日 & 1948年3月20日録音
Richard Strauss:Der Burger als Edelmann, Op.60(excerpts) [1.Overture Act1]
Richard Strauss:Der Burger als Edelmann, Op.60(excerpts) [2.Minuet]
Richard Strauss:Der Burger als Edelmann, Op.60(excerpts) [3.The Fencing Master]
Richard Strauss:Der Burger als Edelmann, Op.60(excerpts) [4.Entrance and Dance of the Tailors]
Richard Strauss:Der Burger als Edelmann, Op.60(excerpts) [5.Minuet of Luliy]
Richard Strauss:Der Burger als Edelmann, Op.60(excerpts) [6.Prelude to Act2]
Richard Strauss:Der Burger als Edelmann, Op.60(excerpts) [7.The Dinner]
不評の末に生まれた作品
歌劇「町人貴族」は「ばらの騎士」の大成功を受けてシュトラウスとホフマンスタール(台本作家)、そして初演の演出を担当したマックス・ラインハルトが組んで企画されたものです。しかし、モリエールの戯曲「町人貴族」をもとに3幕の後に「劇中劇」を加えたオペラは極めて不評で、その原因の大きな部分を「劇中劇」の荒唐無稽さが占めていました。
そこで、その「劇中劇」の台本と音を大幅に修正して「ナクソス島のアリアドネ」として仕立て直されたのですが、やがてその「劇中劇」だけが独立した1幕ものの歌劇として演奏されるのが一般的となり、「町人貴族」の「劇中劇」として演奏されることはなくなりました。
そして、肝心の「町人貴族」の方は「劇中劇」をのぞいた3幕ものとして補筆改訂されました。ただし、それは「歌劇」と言うよりは戯曲「町人貴族」の付随音楽のようなもので全17曲から構成されていました。
しかし、この作品は全17曲が全て演奏される機会は少なく、シュトラウスはその中から第1曲、第4曲~第6曲、第8曲~第12曲の9曲を選び出して「管弦楽組曲」としました。
物語は成り上がりの商人の子であるジョルダンが貴族に成り上がろうとするなかで巻き起こされる騒動が描かれています。
シュトラウスが選んだ9曲は以下の通りです。現在では「町人貴族」と言えばこの組曲版のことだと言うのが一般的です。
原作の戯曲はリュリの音楽を加えて上演され人気を集めたものなので、シュトラウスはリュリの音楽を近代的な装いに仕立て直した音楽も含んでいます。
第1幕への序曲(町人ジュルダン) - Ouverture zum I. Aufzug (Jourdain - der Burger)
メヌエット - Menuett
剣術の先生 - Der Fechtmeister
仕立て屋の登場と踊り - Auftritt und Tanz der Schneider
リュリのメヌエット - Das Menuett des Lully(リュリの音楽の編曲)
6. クーラント - Courante
付随音楽では『晩餐』の後に演奏されていたクーラントが、楽曲構成上の理由からこの位置に挿入されている。)
クレオントの登場 - Auftritt des Cleonte(リュリの音楽の編曲)
第2幕への前奏曲(間奏曲)(伯爵ドラントと公爵夫人ドリメーヌ) - Vorspiel zum II. Aufzug (Intermezzo) (Dorantes und Dorimene - Graf und Marquise)
晩餐(食卓の音楽と料理人の踊り) - Das Diner (Tafelmusik und Tanz des Kuchenjungen)
己が歩きたいと思った道を自由に歩んでいる
ビーチャムのリヒャルト・シュトラウスってこんなにも面白くて楽しい演奏だったんだと感心させられました。
それは、細部に至るまでビーチャムの意志が貫き通されていて、その意志は「イギリス最後の偉大な変人」と言われたビーチャムのユニークさがすみずみまでしみ通っているのです。しかし、その事を実現するのは容易ではなかったようで、例えば「町人貴族」の録音クレジットなどは何かの間違いではないかと思うようなものになっています。
1947年2月23日~24日,3月24日&29日,10月15日&11月5日~6日&1948年3月20日録音
おまけに録音場所はロンドンとパリに分かれているのですから、録音会場の響きにまでこだわったのでしょうか。
もちろん、そんな事が出来たのは採算など度外視できるほどの大金持ちだったからなのですが、ただの金持ちの道楽だけで出来るわけでもありません。やはり、そこには「イギリス最後の偉大な変人」ならでは本領が発揮されています。
ちなみに、ソリストにポール・トルトゥリエをむかえたドン・キホーテの録音クレジットも以下の通りです。
1947年10月4日&7日~8日&1948年3月20日録音
こちらは「町人貴族」ほどの変質的なこだわりはないように見えますが、ソリストのトルトゥリエを拘束するのですから、普通では考えられないしつこさです。
さすがに、50年代の後半に録音された「英雄の生涯」は常識の範疇におさまっているのですが、おそらくすでに体力的にかなりきつくなっていたのかもしれません。ですから、聞いていて圧倒的に面白いのは1947年から1948年にかけて録音された演奏です。
そこにはビーチャムという偉大な変人がシュトラウスの作品の中からかぎ出した皮肉や諧謔、滑稽さや偉大さなどがなんの遠慮もなしにあばきだしています。スコア等というのはただの道標にしかすぎず、ビーチャムを己が歩きたいと思った道を自由に歩んでいます。
「7枚のヴェールの踊り」は言うまでもなく、演奏される機会の少ない「火の災い」より「ラヴ・シーン」や「インテルメッツォ」より「間奏曲変イ長調」なども実に楽しく聞くことができます。
そして、こういう音楽を聞いていると変人だったのはビーチャムだけでなく、フルトヴェングラーやトスカニーニ、クナッパーツブッシュやクレンペラーなども偉大なる変人だったことに気づかされます。
みんな利口になって変人がいなくなった世界というのは、実はつまらない世界なのかもしれません。
最後についでながら、1947年の録音はテープ録音が始まる前のものなのですが、驚くほど音質がよいことも付け加えておきましょう。やはり、こういう面もお金があれば「やれば出来る」と言うことなのでしょうか。
まさに偉大な変人の偉大なるお金の使い方に感謝あるのみです。
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