チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
(P)ヴィトルト・マウツジンスキ:ニコライ・マルコ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1956年7月6日~7日録音
Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 B Flat Minor. Op. 23 [1.Allegro Non Troppo E Molto Maestoso / Allegro Con Spirito]
Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 B Flat Minor. Op. 23 [2.Andantino Simplice-Prestissimo]
Tchaikovsky:Concerto For Piano And Orchestra No.1 B Flat Minor. Op. 23 [3.Allegro Con Fuoco]
ピアノ協奏曲の代名詞

おそらく、クラシック音楽などには全く興味のない人でもこの冒頭のメロディは知っているでしょう。普通の人が「ピアノ協奏曲」と聞いてイメージするのは、おそらくはこのチャイコフスキーかグリーグ、そしてベートーベンの皇帝あたりでしょうか。
それほどの有名曲でありながら、その生い立ちはよく知られているように不幸なものでした。
1874年、チャイコフスキーが自信を持って書き上げたこの作品をモスクワ音楽院初代校長であり、偉大なピアニストでもあったニコライ・ルービンシュタインに捧げようとしました。
ところがルービンシュタインは、「まったく無価値で、訂正不可能なほど拙劣な作品」と評価されてしまいます。深く尊敬していた先輩からの言葉だっただけに、この出来事はチャイコフスキーの心を深く傷つけました。
ヴァイオリン協奏曲と言い、このピアノ協奏曲と言い、実に不幸な作品です。
しかし、彼はこの作品をドイツの名指揮者ハンス・フォン・ビューローに捧げることを決心します。ビューローもこの曲を高く評価し、1875年10月にボストンで初演を行い大成功をおさめます。
この大成功の模様は電報ですぐさまチャイコフキーに伝えられ、それをきっかけとしてロシアでも急速に普及していきました。
第1楽章冒頭の長大な序奏部分が有名ですが、ロシア的叙情に溢れた第2楽章、激しい力感に溢れたロンド形式の第3楽章と聴き所満載の作品です。
名人芸をひけらかすようなスタイルを意図的に避けている
マウツジンスキとチャイコフスキーの協奏曲というのは珍しい組み合わせだなと思って興味津々で聞いてみました。残念ながらモノラル録音なのですが、録音そのもののクオリティは悪くはありません。
しかし、最初のピアノの音が出た瞬間に思わず「重い!!」と思ってしまいました。そこには、彼のショパン演奏で聞くことのできるきらびやかな響きは影も形もありません。
これはいったいどうしたことかと思いました。録音に問題があったのか、それともこの時のマウツジンスキの調子が悪かったのか、等と思案を巡らせてしまいました。しかしながら、最初にふれたように録音的にはそれほど問題があるとも燃えません。
そうなると、これはマウツジンスキによる「意図的な響き」と言うことになります。
そして、聞き進んでいくうちに、次第にその狙いのようなものが見えてきました。
普通は、チャイコフスキーのピアノ・コンチェルトと言うことならば華やかに盛りあげてピアニストとしての腕前を誇示するのが普通です。ホロヴィッツがアメリカデビューの時にこの作品を演奏して、最後の楽章で一気にテンポを上げてオーケストラを置き去りにするような「名人芸」を披露して大成功をおさめたのは有名な話です。
しかしながら、ここでのマウツジンスキにはそう言う「色気」は欠片もありません。そして、その重くて、どちらかと言えば暗めの音色を貫くことによって、華やかさではなくて重くて分厚い雲が覆い被さるロシアの大地のようなものが浮かび上がってくるのです。確かに、こういうチャイコフスキーは随分と変わった解釈と言わざるを得ませんが、それはそれで何ともいえない「味わい」に満ちた演奏であることも事実です。
いわゆる「ファースト・チョイス」にはならないけれど、この作品をいろいろな演奏で飽きるほど聞いてきた人にはお勧めの演奏と言える・・・と言う類の演奏です。(^^;
そう言えば、この少し後にショパンのピアノ協奏曲第2番も録音をしているのですが、これもまた全体としては抑え気味の演奏です。
まず、何よりも伴奏のオーケストラがショパンの協奏曲に「相応しい^^;」素っ気なさで始まるのが一つの要因です。しかし、第2楽章のメランコリックな音楽などはもう少し情感を込めて演奏してほしいなと思うのですが、なんだかわざと素っ気なく演奏しているように聞こえます。もっとも、そう思ってしまう背景に、この演奏を聞く直前にハスキル&マルケヴィッチによる同曲の録音を聞いたからかもしれません。
また、ピアノの音色に関してはチャイコフスキーの時のような「異形」さはないので、それがマウツジンスキの解釈なのかもしれません。
そう言えば、ほぼ同時代のライブ録音でシモン・ゴールドベルグのメンデルスゾーンのコンチェルトを聞いたことがあるのですが、そこでも彼は名人芸をひけらかすようなスタイルを意図的に避けていることは明らかでした。そう言う意味では、この時代のヨーロッパの「大人」のソリストというのは、そう言う側面が強かったのかもしれません。
ただし、さすがのマウツジンスキも最終楽章のフィナーレになだれ込むとさすがに抑えが効かなくなったのか、華やかな響きで鮮やかに弾ききってしまっています。もしも、この部分も最期まで抑えて地味に重く弾ききっていれば、それはそれで「面白い醒めた演奏」になったのかもしれません
よせられたコメント
2020-10-14:yk
- 懐かしい録音です。小学生のころ初めて買ってもらったチャイコフスキーのLP(25cm盤)がコレで、解説では未だ”マルクジンスキー”の表記でした。”演奏家を選ぶ”などと云う(悪)知恵もなかった時代、一日中聞いた演奏でもありました(・・・と言う意味では(不幸にも?)私の「ファースト・チョイス」でした^_^;)。
改めて久しぶりに聞いてみると、まざまざと当時を思い出します・・・・と云うことは、この演奏には何らかの形で・・・・露・波、東側の母国と微妙な関係を保ちながら西側で活動した指揮者、ピアニストが冷戦下のフランスでチャイコフスキーを録音する・・・・といった、この時代が色濃く反映されているのかもしれません(勿論演奏が政治的というわけではありませんが・・・)。
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