ヨハン・シュトラウス?世:喜歌劇「こうもり」
クレメンス・クラウス指揮 ウィーンフィル ウィーン国立歌劇場 S:ギューデン・リップ T:パツァーク他 1950年録音
J.Strauss?:喜歌劇「こうもり」 序曲
J.Strauss?:喜歌劇「こうもり」 第1幕
J.Strauss?:喜歌劇「こうもり」 第2幕
J.Strauss?:喜歌劇「こうもり」 第3幕
バカ騒ぎに隠された深刻なパラドックス
シュトラウスは晩年、相次ぐ身内の死によってすっかり創作意欲を失ってしまいます。そんなときに、オッフェンバックや妻ヘンリエッタのすすめでオペレッタを書き始めます。
自分自身が悲しみから立ち直るためだけではなく、皆も気軽に聴けてしかも底抜けに楽しいオペレッタを立て続けに作曲したのです。
現在ではこの「こうもり」だけが飛び抜けて有名です。
話のあらすじは以下の通りです。
【第1幕】
アイゼンシュタインは役人を侮辱した罪で今夜中に刑務所へ収監されることになっている。
召使いアデーレは舞踏会への招待状を受けるが休みが取れないと悩んでいる。
ロザリンデ(アイゼンシュタインの妻)は昔の恋人アルフレートとだんなが刑務所に入ったら会おうと約束をしている。
それぞれの思いが交錯する中へファルケ博士がやってきてアイゼンシュタインに舞踏会へ行こうと誘う。かわいい子が沢山集まると聞いたアイゼンシュタインは、舞踏会を楽しんでから刑務所に行こうとご機嫌になる。
ロザリンデは刑務所 に行くはずの夫が上機嫌なのを変に思うが、自分も恋人がやってくるのでアデーレに休みをやる。
アデーレは喜び勇んで舞踏会へ、そしてアイゼンシュタインも同じ舞踏会へ。
やがてアイゼンシュタインもアデーレもいなくなったところへロザリンデの恋人アルフレートがやってくるのだが、アイゼンシュタインを逮捕に来た刑務所長フランクに間違えられて連行されてしまう。実はフランクにも舞踏会への招待状が届いており、早く仕事を終わらせたかったためにその様な手違いが起こってしまう。
【第2幕】
オルロフスキー公爵の舞踏会ではファルケ博士がアイゼンシュタインに向かって「コウモリの復讐劇」という茶番劇を画策していた。ファルケはむかし アイゼンシュタインに恥をかかされ、今日はその復讐を狙っていたのだ。
召使いアデーレは女優とほらを吹き、アイゼンシュタインはフランスの貴族ルナール公爵、刑務所長のフランクも同じくフランス貴族とほらを吹く。
そこへ、捕らえられたアルフレートを釈放してもらうため、仮面に素顔を隠し、刑務所長フランクを捜しに会場にやってきたロザリンデもハンガリーの伯爵夫人と称して登場する。
そして、その伯爵夫人の姿にのぼせあがったルナール公爵(アイゼンシュタイン)は自分の妻とも知らずに、おきまりの自慢の懐中時計を取り出し熱烈に彼女をくどく。ロザリンデはあきれつつもいい気分で夫の金時計を巻き上げる。
ファルケは<こうもり博士>の仇名をつけられたいきさつを話し、<こうもりの復讐>は明日わかると結ぶ。その話を聞いたオルロフスキーは「すばらしい、ブラボー!ファルケ君」と喜んで祝杯をとる。
そんなこんなの大騒ぎの中で時計が朝の6時をうつ。
今夜中に刑務所に入らなければならなかったことをアイゼンシュタインは思いだし、大慌てで出ていき、刑務所長フランクも刑務所へ帰る。
【第3幕】
そして刑務所。泥酔状態のフランクにイーダとアデーレ姉妹は女優になりたいから、スポンサーになってくれとたのむ。
そんなフランクのところへ、アイゼンシュタインが出頭してくる。おかしい、先ほど彼は捕まえたはずと言われたアイゼンシュタインはアルフレーどの姿を見て疑念をいだく。そこで、弁護士の服を借りて待ち受けていると、妻のロザリンデが駆け込んできて、アルフレートをなんとか釈放 してくれと、弁護士(アイゼンシュタイン)に頼み込む。
さすがに平静を保てなくなったアイゼンシュタインは弁護士の服を脱ぎ、彼女の浮気を責め立てるが、彼女も先ほどの金時計を取り出して夫の浮気をやりこめる。
そこへファルケ博士がやってきて「これがこうもりの復讐劇」とし、ロザリンデも「すべてはシャンペンのせい」と水に流す。
ついでに、アデーレもオルロフスキー公爵のパトロンで女優となり。すべてがハッピーエンドでめでたし、めでたし。
何とも馬鹿馬鹿しいどんちゃん騒ぎですが、実はこの裏にとんでもないパラドクスが隠されています。
このオペレッタでは全ての登場人物が仮面をかぶり自分を偽って登場します。そんな中で唯一自分を偽っていないのが舞踏会の主であるオルロフスキー公爵であるように見えます。
6時の鐘が鳴り、朝の光の中にバカ騒ぎが溶けていきます。オルロフスキーをのぞけば、その朝の光の中で全ての登場人物は仮面を剥がされて本当の自分に戻っていき、あとには味気ない「現実」だけが残るだけです。
その様に見えます。
しかし、実はその朝の光の中においても仮面を脱ぐことが許されなかった人物がいるのです。それが、唯一仮面をかぶっていないように見えたオルロフスキー公爵その人です。
このオペレッタの原点は、オルロフスキー公爵が同性愛者であるという視点です。チャイコフスキーの例を持ち出すまでもなく、当時において同性愛者であるということが発覚することは身の破滅でした。
二日酔いの頭を抱えて刑務所でお互いの素性が分かってバカ騒ぎはハッピーエンドで終わる中で、一人オルロフスキーだけが物憂げな表情を浮かべているのです。
皆が仮面を脱ぎ捨てて本当の自分に戻っていく中で、彼だけはまたもやアデーレのパトロンとなって仮面をつけ続けるのです。
その様な視点を持ってこのオペレッタを見直すならば、ご陽気なだけのこのオペレッタに内包された深刻なパラドックスに気づかされるはずです。
ウィーン黄金時代の演奏
クレメンス・クラウスはウィーンに生まれ、ウィーンで育った生粋のウィーン子であり、その彼がウィーンフィルと録音したこの演奏はまさに古き良き時代のウィーンを彷彿とさせるものがあります。確かに、クライバーのような鋭い切れ味はありませんから、この作品にその様な現代的な感覚を求める人には物足りないかもしれません。しかし、何とも言えない気だるさと不思議な気品はこの時代ならではの演奏です。
なお、劇中で演奏されているワルツ「春の声」は別の日のテイクが挿入されています。
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