クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バルトーク:ルーマニア民俗舞曲 Sz.56(Bartok:Romanian Folk Dances, Sz.56)

(P)ジェルジ・シャーンドル:1951年1951年9月12日録音(Gyorgy Sandor: Recorded on September 12, 1951)



Bartok:Romanian Folk Dances, Sz.56 [1. Jocul cu bata / Bot tanc]

Bartok:Romanian Folk Dances, Sz.56 [2. Braul]

Bartok:Romanian Folk Dances, Sz.56 [3. Pe loc / Topogo]

Bartok:Romanian Folk Dances, Sz.56 [4. Buciumeana / Bucsumi tanc]

Bartok:Romanian Folk Dances, Sz.56 [5. Poarga romaneasca / Roman polka]

Bartok:Romanian Folk Dances, Sz.56 [6. Maruntel / Aprozo]


音楽の絵葉書

「ルーマニア民俗舞」は、バルトークが実際に採集した民謡のメロディをほぼそのまま活かした、非常に親しみやすい作品です。

  1. 第1曲:棒踊り (Bot tanc / Jocul cu bata)
    トランシルヴァニア地方のムレシュで、2人の若者が棒を持って踊る様子から着想を得ました。
    力強く、堂々とした足取りの旋律です。中音域で奏でられる主題は、リディア旋法(4度音が半音上がった音階)を含み、独特の明るさと開放感があります。
    ピアノ版ではスタッカートを効かせた左手の伴奏が、地面を踏みしめるステップのような役割を果たします。

  2. 第2曲:飾り帯の踊り (Braul)「ブラウル」とは、伝統的な衣装の腰帯(飾り帯)を指します。第1曲よりも速いテンポで、非常に軽やかです。音域が少し上がり、優雅でありながらも活発に動き回るような旋律が特徴です。ほとんどが単旋律の動きに近い透明感のある響きで、短いながらも非常に洗練された印象を与えます。

  3. 第3曲:踏み踊り (Topogo / Pe loc)その場(Pe loc)で小さくステップを踏みながら踊る舞曲です。アンダンテ。非常に個性的で、狭い音程範囲(増2度を含む音階)を蛇行するように動く、どこかオリエンタルで神秘的な旋律です。ヴァイオリン版では、この曲をフラジオレットという高音の裏声のような技法で演奏することが多く、その浮遊感のある響きが聴きどころです。

  4. 第4曲:角笛の踊り (Bucsumi tanc / Buciumeana)カセーユ地方の舞曲で、「ブチュム」と呼ばれるアルプホルンのような長い角笛を吹く羊飼いの音楽が元になっています。ゆったりとした憂いのあるメロディです。バルトークらしい、美しくもどこか寂寥感のある和声が付けられています。全曲の中で最も叙情的で、民俗音楽が持つ「静かな情熱」を感じさせる楽曲です。

  5. 第5曲:ルーマニア風ポルカ (Roman polka / Poarga Romaneasca)急速なテンポで踊られる、活気あふれるポルカです。4分の2拍子ですが、ヘミオラ(2拍子の中に3拍子的要素が混ざる)のようなリズムの遊びがあり、聴き手をドキッとさせる躍動感があります。非常に短い曲ですが、アクセントが強調された打楽器的なピアノの響きが楽しめます。

  6. 第6曲:速い踊り (Aprozo / Maruntel)実際には2つの異なる速い舞曲が連続して演奏されます(第6曲と第7曲を合わせた構成)。モルト・アレグロ。非常に細かく速いステップを刻みます。曲が進むにつれて熱狂を増し、最後は華やかな盛り上がりを見せて一気に終止します。バルトークのピアノ語法における「力強さ」が凝縮されたフィナーレです。



もともとはピアノ独奏曲として書かれましたが、後にバルトーク自身によって管弦楽編も作られました。また、セーケイ編曲によるヴァイオリン版もあります。
管弦楽版:は楽器の色彩(クラリネットの民族的な音色など)が加わり、より情景が鮮やかに浮かび上がります。ヴァイオリン版は、ヴァイオリニストの技巧や「節回し」によって、民俗楽器フィドルのような生々しい表情が加わります。

各曲は短いですが、一つひとつがルーマニアの特定の村の風景を切り取った「音楽の絵葉書」のようでもあります。

バルトークの精神的な継承者


シャーンドルはブダペストのリスト音楽院でバルトークにピアノを、ゾルターン・コダーイに作曲を学びました。考えてみれば、これは凄いことです。
さらに、バルトークから直接指導を受けた数少ない門下生の一人だと言うことで、彼ほどバルトークの演奏スタイルや音楽思想を身につけたものはいませんでした。

バルトークのピアノ音楽と言えば暴力的で打楽器的なものと誤解されがちです。
しかし、シャンドールはその様な当時の風潮に異を唱え、バルトークが重視していた「歌」と「柔軟性」を示してみせませした。

シャーンドルの演奏を聞いていて、まず感心させられるのは透明度の高い響きです。

彼は自身の演奏哲学を「On Piano Playing(ピアノ演奏の技術)」という著書にまとめるほど、科学的かつ合理的なアプローチを重視していました。
シャーンドルの演奏は、指の力だけで弾くのではなく、腕や肩の重さを効率よく鍵盤に伝えるスタイルでした。
非常に速いパッセージや激しい打楽器的フレーズでも、体全体がリラックスしており、無駄な動きがありませんでした。そのため、長時間の演奏でも音が濁る事はなく常にクリアな輪郭を保ちました。

その事が声部の完璧なバランスとして結実していて、バルトークの音楽の構造を明瞭に聞き取らせてくれます。

また、ハンガリー語を母国語としていたのですから、バルトークの音楽の根っこにあるハンガリー語特有のアクセントやリズムの把握の仕方も完璧だったようです。
バルトークならではの鋭いリズムの中にも、民謡のようなしなやかな旋律線を描き出す手腕はシャンドールならではのものでした。まさに、シャンドールこそがバルトークの「最も忠実な代弁者」だったのです。

そして、二人の親密な関係はバルトークがナチスの台頭を逃れてアメリカへ亡命した後も続きました。
バルトークの葬儀にはわずか10名ほどしか参列者がいなかったのですが、その10名の中にシャーンドルの姿もありました。彼は、師であるバルトークが最も苦しい時期に寄り添いました。
そして、バルトークの「精神的な継承者」として演奏活動を続け、ピアノ作品の全曲録音を二度にわたって行いました。

シャンドールを聞かずしてバルトークは語るなかれ・・・と言っても、言い過ぎではないかと思います。

よせられたコメント

2026-05-08:豊島行男


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