民謡:グリーンスリーヴズ(Greensleeves)/ロンドンデリーの歌(Londondery Air)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded on 1961)
Trad:Greensleeves
Trad:Londondery Air
意外な意味

「グリーンスリーブス」といえば、今さら何の必要もないほどに有名な民謡です。ただし、それ故にこの民謡については何も調べることもなく、タイトルの「グリーン」と音楽の雰囲気から、勝手に翠の草原を吹き渡る風のようなものだと決めつけていました。
しかし、「グリーンスリーブス」とは「Greensleeves」ですから、きちんと訳せば翠の草原などは何の関係もない「緑の袖」と言うことになります。
そして、さらに驚くのは、昔のイングランドでは「緑の袖」とは性的にふしだらな女性を意味することがあったそうなのです。もちろん、このあたりは諸説あるらしいのですが、「緑」には野外での性交渉によって服についた色をあらわすことがあったことは事実のようです。
そのあたりは、同じスコットランド民謡の「Comin"Thro"The Rye」などと共通するところがあるのかもしれません。当初の歌詞は「ああ愛する人よ、残酷な人 あなたはつれなく私を捨てた 私は心からあなたを慕い そばにいるだけで幸せでした」みたいに始まるそうですから、似たようなものだったのかもしれません。
ただし、その後、歌詞はともかくメロディが美しいので、「御使いうたいて(What Child Is This)」と言う歌詞が与えられてめでたく清く美しい賛美歌へと変身しました。そして、やがては歌詞なしで様々な楽器で演奏されたり、ヴォーン=ウィリアムズが「グリーン・スリーヴスによる幻想曲」に編曲してさらに有名になったことは今さらふれるまでもないところです。
「ロンドンデリーの歌」(Londonderry Air)も今さら何も説明するまでもないほどに有名な民謡です。まさに、アイルランドの魂ともいうべき歌で、北アイルランドでは事実上の国歌としての扱いを受けているほどです。そう言えば、私の学生時代の英会話の講師がアイルランド出身の方で、事あるごとに「私はイギリス人が嫌いです」といっていました。
それほどに、イギリスとアイルランドの関係は微妙なもののようです。
ちなみに、この曲の一般的なタイトルである「ロンドンデリー」はロンドンとは全く関係のないアイルランドの県の名前だそうです。私はすっかりロンドンの街の光景を歌ったものだと思いこんでいたので、これもまたグリーンスリーブスと同じくらいに驚きでした。ただし、アイルランドの人は「ロンドン」という名前が頭に来るのが我慢できず「デリーの歌」という人の方が多いそうです。
この曲は最初は歌詞なしの曲として受け継がれてきたらしいのですが、やがて様々な歌詞がつけられるようになり(100を超えるそうです)、その中でも特に有名になったのは「ダニーボーイ」でしょう。
わが子よ いとしの汝(なれ)を
父君の形見とし
こころして愛(いつく)しみつ
きょうまで育て上げぬ
古き家を巣立ちして
今はた汝は何処(いずこ)
よわき母の影さえも
雄々しき汝には見えず
ただし、クラシックの世界では管弦楽編曲されて演奏されることが多いですね。
高い分析力と良い意味での「緩さ」が上手くマッチしている
レイボヴィッツの録音活動の少なくない部分を「リーダーズ・ダイジェスト」が占めています。
「リーダーズ・ダイジェスト」は月刊の総合ファミリー雑誌だったのですが、書店売りは行わずに会員制の通信販売というスタイルをとっていました。この販売方法とアメリカ至上主義の編集方針を貫くことでアメリカ最大の発行部数を誇る雑誌へと成長していきました。
そして、その会員制の通信販売というスタイルを生かしてレコード制作にも乗り出します。しかし、基本的に「リーダーズ・ダイジェスト」は雑誌社ですから録音のノウハウなどは持ち合わせていないので、その制作はRCAに丸投げしていました。
しかし、その丸投げのおかげで、同じような販売方法をとったコンサートホールソサエティ」と較べると格段に録音のクオリティが高いという思わぬ幸運をもたらしました。
ただし、その性格上、ラシック音楽の分野ではコアなクファンではない人々を対象としたために、いわゆる「クラシック音楽名曲集」のようなものが主流でした。
実は、この事に長く思い当たらず、小品の録音ばかり押し付けられるレイホヴィッツはレーベルの中では軽くあつかわれすぎていると考えていました。しかし、実際は彼にベートーベンの交響曲の全曲録音を依頼したことの方こそが異例の厚遇であり、本来の仕事はそう言う売れ筋の商品の名曲の録音だったのです。
しかし、レイボヴィッツにとって名曲小品の録音ばかりが続くというのはそれほど楽しい仕事ではなかった事でしょう。しかし、食っていくためには必要な仕事だったのでしょう。
あてがわれたオーケストラも「インターナショナル交響楽団」とか「ロンドン音楽祭管弦楽団」「パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団」などと言う「怪しげ」なものばかりです。
レイボヴィッツは「十二音技法の使徒」と呼ばれるほどに新ウィーン楽派の音楽の普及につとめ、あわせてその技法に関しても多くの著書(「現代音楽への道」「十二音技法とは何か」「シェーンベルクとその楽派」など)を残し、自らもその理論の上に立った作品を多く残しています。
つまりは、レイボヴィッツが「指揮活動もする作曲家」であったのです。そうなると、どうしても食っていく仕事は必要だったのでしょう。
ですから、本質的に「指揮者」ではなかったレイホヴィッツの指揮には良い意味での緩さがありました。おそらくは、本意としては、作曲家としての本能として自らの楽曲分析に従ってオケを追い込みたかったのかもしれませんが、自分には、例えばマルケヴィッチのような指揮のスキルがないことも十分に承知していたのでしょう。
そんなこんなで、こういう一連の小品の録音はレイボヴィッツという「作曲家兼指揮者」のもう一つの側面を明らかにしてくれているのかもしれません。
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