クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ヴィヴァルデ:オーボエ協奏曲 ハ長調, Rv.447(Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447)

レナート・ファッサーノ指揮:(Ob)レナート・ザンフィーニ ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:(Ob)Renato Zanfini Virtuosi Di Roma Published in 1958)



Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447 [1.Allegro non molto]

Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447 [2.Larghetto]

Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447 [3.Menuet]


協奏曲のスタイルを確立した作曲家

ヴィヴァルディと言えば「四季」しか思い浮かばない人が多いと思いますが、実は多作な作曲家でした。
私の手もとにも全集のボックス盤があるのですが、結構な重量物です。
そして、その大半を占めるのが「協奏曲」のジャンルです。楽譜が残されているものだけでも500曲を超えます。

後世との関係でいえば、ヴィヴァルディの最大の功績はこの「協奏曲」というジャンルをコレッリなどから引き継いで完成させたことが挙げられます。

コレッリの時代に「協奏曲」といえば基本は「合奏協奏曲」でした。
「合奏協奏曲」とは聞き慣れない言葉ですが、独奏楽器群(コンチェルティーノ)とオーケストラの総奏(リピエーノ)に分かれ、2群が交代しながら演奏する楽曲のことです。

ヴィヴァルディも最初はこのスタイルで作品を書き始めるのですが、やがて一人の独奏楽器の奏者にオーケストラの総奏が対峙するスタイルに変化していきます。
そして、3楽章構成を基本として「急ー緩ー急」という「ヴィヴァルディ・タイプ」を確立しました。

この基本スタイルに大きな影響を受けたのがバッハでした。
そして、この偉大なバッハに影響を与えた作曲家、と言う文脈で20世紀に入ってから再発見されたのがヴィヴァルディだったわけです。

オーボエ協奏曲 ハ長調, Rv.447


「オーボエ協奏曲 ハ長調 RV 447」は、彼が遺した約20曲のオーボエ協奏曲の中で最も規模が大きく、技巧的にも際立った作品です。
息の長いフレーズや素早いパッセージが多用され、オーボエの表現力が最大限に引き出されています。


  1. 第1楽章;Allegro non molto (ハ長調、4/4拍子)
    オーケストラの堂々とした合奏と、オーボエの華麗なソロが交互に展開するリトルネッロ形式で書かれています。冒頭、オーケストラがハ長調の明るく、地に足の着いた堂々としたメインテーマを奏でます。
    オーボエが登場すると、16分音符を中心とした非常に細かく素早いパッセージが展開されます。
    ヴィヴァルディ特有の「同じ音型を繰り返しながら音高を上げて(下げて)いく技法(同型反復=シークエンス)」が多用されています。
    オーボエ奏者には一瞬の息継ぎの暇もないほどの、極めて高い息のコントロールと指のコントロール(技巧性)が求められます。

  2. 第2楽章:Larghetto (イ短調、3/4拍子)
    前後の華やかな楽章とは対照的な、深く、哀愁に満ちた緩徐楽章です。イタリアの伝統的な舞曲「シチリアーナ」に由来する、独特な付点リズム(タッタータ、タッタータという揺れるようなリズム)がベースになっています。
    オーケストラが刻む穏やかな伴奏の上で、オーボエがまるでオペラのアリアを歌うかのような、切なくも美しいメロディを綿々と紡ぎます。
    短調(イ短調)特有のどこか物憂げな雰囲気の中で、オーボエという楽器が持つ「哀愁を帯びた音色」の魅力が100%引き出される楽章です。

  3. 第3楽章:Minuetto (ハ長調、3/4拍子)
    一見、優雅な宮廷舞曲「メヌエット」の形式をとっていますが、中身はヴィヴァルディらしい躍動感にあふれたフィナーレです。
    親しみやすいハ長調のメヌエットの主題が提示された後、オーボエがその主題をどんどん細かく、華やかに飾り立てていく変奏曲のような展開を見せます。
    楽章が進むにつれてソロのパッセージはどんどん細分化され、トリル(2つの音を細かく往復する技法)や大きな音程の跳躍がこれでもかと詰め込まれています。
    ただ上品なだけでなく、バロック協奏曲の締めくくりにふさわしい、スリリングなスピード感と圧倒的な名人芸(ヴィルトゥオジティ)を楽しめるエネルギッシュな楽章です。



モダン楽器によるバロック演奏の信念を曲げず


レナート・ファッサーノはヴィヴァルディを中心に、コレッリ、ペルゴレージ、アルビノーニ、ガルッピなど、18世紀イタリアの作曲家を現在によみがえらせた功労者です。
とはいえ、20世紀半ばの「バロック音楽復興」は、ファッサーノ以外にも世界各地の指揮者や合奏団が牽引しました。

今さらという感じですが、主なものをあげていくと以下のようになるでしょうか。

  1. イ・ムジチ合奏団
    指揮者をおかないのが特徴ですが、それを補って余りあるアンサンブル能力があったようです。
    ファッサーノのような劇的・情熱的な起伏よりも、美しく磨き上げられた均一なアンサンブルを重視していました。

  2. カール・リヒター:ミュンヘン・バッハ管弦楽団
    J.S.バッハを中心に、厳格なリズムと深い精神性を追求するのが持ち味でした。
    イタリアの「世俗的・劇的な愉しみ」に対し、リヒターは「厳格なスコラ学・宗教的畏怖」に基づく厳しくも重厚な演奏を目指しました。。

  3. ジャン=フランソワ・パイヤール:パイヤール室内管弦楽団
    フランス・バロックの復興に貢献しました。洗練された美しい音色がアドバンテージでしょうか。
    ファッサーノが「歌(カンタービレ)」を重視したのに対し、パイヤールは「宮廷的な気品とステップ)」を重視していました。

  4. ネヴィル・マリナー:アカデミー室内管弦楽団
    ファッサーノのような「土着的なイタリアの情熱」とは異なり、イギリスらしい冷静で洗練された機能美が特徴です。



それらに対して、ファッサーノの強みは、ヴィヴァルディなどの協奏曲を「器楽によるオペラ(歌劇)」として捉えていた点です。
当時、ドイツのバロック演奏が「緻密な建築物」のようにガッチリと演奏されていたのに対し、ファッサーノはまるでイタリア・オペラのアリアを歌うかのように、弦楽器やオーボエに豊かな感情を込めさせました。
また、彼は優れた音楽学者でもあり、自ら古い楽譜(手稿譜)を発掘・校訂していました。
しかし、演奏自体は学術的で冷たいものにはならず、むしろ「現代の聴衆がいかに興奮するか」という実践的な音楽づくりを行いました。

1970年代以降、「ピリオド演奏が台頭バロック復興の主流になっていく中でも、ファッサーノは1979年に亡くなるまで、モダン楽器によるバロック演奏の信念を曲げませんでした。
そして注目すべきは、古い奏法の知識を十分に理解した上で、「現代の聴衆の耳に最も美しく響き、作品の生命力を伝えるのは、完成されたモダン楽器と、イタリアの伝統的なカンタービレ(歌心)である」と確信していた事です

その様なレナート・ファッサーノが結成し、終生支え続けたのが「ローマ合奏団(I Virtuosi di Roma)」でした。
基本は弦楽合奏とチェンバロ(またはピアノ)の10数名からなる編成ですが、曲目に応じてフルートやオーボエ、ファゴットなどの超一流の管楽器奏者が加わりました。

ローマ合奏団(前身のコレジウム・ムジクス・イタリクムを含む)のメンバーは、単なる合奏要員ではなく、全員がイタリア各地の音楽院教授や、主要オーケストラの首席奏者を務める「名人(ヴィルトゥオーゾ)」の集まりでした。
彼らは合奏をしつつ、曲ごとに代わる代わるソリストを務めました。

主要メンバーは以下の通りです。

  1. ルイージ・フェッロ(Luigi Ferro / ヴァイオリン)
    楽団の精神的支柱であり、メンバーの多くを指導したベテラン。彼の弾くヴィヴァルディの「四季」などのソロは、格調高さと情熱を兼ね備えていました。

  2. グイド・モッツァート(Guido Mozzato / ヴァイオリン)
    フェッロと並ぶ楽団の看板ヴァイオリニスト。極めて美しく官能的な音色で知られ、多くの録音でソロを務めました。

  3. フランコ・グッリ(Franco Gulli / ヴァイオリン)
    後に世界的なソロ・ヴァイオリニストとして大成する名手。若き日にこの楽団に参加し、その洗練された技巧でアンサンブルを支えました。

  4. レナート・ザンフィニ(Renato Zanfini / オーボエ)
    ヴィヴァルディやマルチェッロのオーボエ協奏曲で、驚異的な歌心とテクニックを披露した伝説の名手です。

  5. オルネッラ・プリーティ・サントリクィード(Ornella Puliti Santoliquido / ピアノ・チェンバロ)
    イタリアの高名なピアニスト(サントリクィード三重奏団の主宰者)。通奏低音や鍵盤協奏曲のソリストとして色を添えました。


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