サン=サーンス:ハバネラ 作品83
Vn.ハイフェッツ ウィリアム・スタインバーグ指揮 RCAビクター交響楽団 1951年6月10,16,19日録音
Saint-Saens:ハバネラ Op.83
「音のサーカス」にはもってこいの作品
ハバネラと言えば真っ先に思い浮かぶのはカルメンの中でうたわれる「恋は野の鳥」でしょう。ということで、このハバネラというのはスペイン発祥の民族音楽かと思えば大違いで、源流はフランスのコントルダンスなるものにあるようです。それが、遠くハイチに渡り、それがキューバを経て船乗りによってスペインに持ち込まれるという複雑な経路をたどって「スペイン舞曲」であるかのようなポジションを獲得したようです。
最も、そのような蘊蓄などは音楽を聴く上ではどうでもいいことであって、大事なことはあの一拍目が飛び上がるような特徴な的なリズムを持った音楽だと言うことです。
ところが、これも有名な話ですが、サン・サーンスのメトロノーム記号は異常に早くて、冒頭の部分などは指定通りに演奏するととてもハバネラに聞こえないそうです。その他、至る所で彼の指定は演奏するものにとっても聞くものにとっても、あまり嬉しくないようなテンポが指定されているとか・・・。(私は実際にスコアを見たことがないのでネット上の情報の受け売りですが・・・)
よって、世間では一定の劇場的約束事である程度の妥当なテンポは決まっているものの、最終的には演奏者の腕次第という側面の強い作品になるようです。
その上に、ヴァイオリンの技巧の見本市みたいな面もありますから、まさに「音のサーカス」にはもってこいの作品です。おまけに、その合間に何ともメランコリックなメロディが挟まるのですから、まさにショーピースとしては最適の作品と言えます。(ただし、腕に覚えのあるヴァイオリニストに限る)
音のサーカス
音楽、とりわけクラシック音楽などと言う世界では「精神性」というものが何よりも大切にされます。指だけが良くまわるような若手の演奏などは、精神性に乏しい底の浅い演奏などと批判されることが良くあります。
ではその精神性なるものの本質は何か、その実態はどういうものなのかと問うてみて、あまり確たる回答のかえってきた試しがありません。せいぜいが、その演奏を通して生きることの苦悩やヨロコビなどが深く表現されているというような曖昧な回答がかえってくるだけで、ではその演奏のどの部分にそのような苦悩やヨロコビが表現されているのかとつっこみを入れると、それは演奏全体を通してオーラのように立ち現れてくるのであって、そのように分析的に表現できるものではないと叱られたりします。
しかし、誤解のないように言い添えておきますが、確かに人生の最も重要な部分に直接触れてくるような演奏は存在します。そして、そのような演奏は聞くものに大いなる希望やヨロコビを与え続けてきてくれました。それは確かです。
ただ、年寄りのよたよたの演奏までもが「精神性」という「護符」でごまかされるのはこの国ではよくあることなので要注意です。
ところが、50年代のアメリカでは、そのような精神性などとは全く関係ない、まさに「音のサーカス」とも言うべき演奏がもてはやされました。その代表格がこのハイフェッツであり、もう片方の横綱がホロヴィッツであることは言うまでもありません。
この二人のような偉大な才能が登場したからそのような演奏様式が受け入れられたのか、それともそのような演奏様式を50年代のアメリカが求めたからこそ、ハイフェッツやホロヴィッツのような才能が登場したのか、どちらが卵でどちらが鶏かは分かりません。
しかし、「精神性」などというものを一切捨象しても、クラシック音楽は一流の芸術となることをこの二人は鮮やかに証明してみせました。
たとえば、当時のアメリカを代表する評論家であったショーンバーグがホロヴィッツのことを「ネコほどの知性もない」と批判してみたところで、そのネコほどの知性もない男の指から紡ぎ出される音に聴衆は熱狂し、今も多くの聞き手を魅了するのです。
さすがに、ハイフェッツの知性はそれほど酷くはなかったようですが、それでも彼の演奏から深い精神性を感じ取りそれに涙するという「変わり者」はあまりいないでしょう。
しかし、ホロヴィッツと同様に、その指先から繰り出される魔法のような「音のサーカス」の魅力に抗しきれる人はほとんどいないはずです。
とりわけ、彼の絶頂期であった50年代初頭にまとめて録音された技巧的な小品は、そのような「音のサーカス」の凄さを堪能させてくれます。
そして、頃はクラシック音楽などをあまり聴かない人たちにこのような演奏を聞いてもらえば、堅苦しくて面白みのないという思いこみも多少は払拭されることでしょう。
そう言う意味で、これもまた不滅の名録音に断言したい演奏です。
<今回まとめてアップした録音>
・サラサーテ:ツィゴイネルワイゼンOp.20
・サン=サーンス:ハバネラOp.83
・サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調Op.28
ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)
ウィリアム・スタインバーグ(指揮)、RCAビクター交響楽団
・ショーソン:詩曲Op.25
ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)
アイズラー・ソロモン(指揮)、RCAビクター交響楽団
(1952年12月2日 ハリウッド、ユナイテッド・アーティスツ・スタジオ)
なお、録音に関してはこの時代のものとしては「極上」です。音楽を楽しむ上で何の支障も問題もありません。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-11-03]
リリ・ブーランジェ:ピエ・イエズ(Boulanger:Pie Jesu)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 エリーザベト・ブラッスール合唱団 1958年日録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Elisabeth Brasseur (T)Michel Senechal Recorded on 1958)
[2026-11-01]
モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調, K.448(Mozart:Sonata for 2 Pianos in D major, K.448/375a)
(P)モニク・アース ハインツ・シュレーター:1957年録音(Monique Haas:(P)Heinz Schroter Recorded on 1957)
[2026-10-30]
ヘンデル:ハープ協奏曲変ロ長調 Op.4-6(Handel:Harp Concerto in B-flat major, Op.4, No.6)
(Harp)リリー・ラスキーヌ:ジャン=フランソワ・パイヤール指揮 パイヤール室内管弦楽団 1964年1月22日録音(Lily Laskine:(Con)Jean-Francois Paillard Orchestre de chambre Jean-Francois Paillard Recorded on Januery 22, 1964)
[2026-10-27]
ディエゴ・オルティス:レセルカーダとその基となった歌曲およびマドリガル集(Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ (Vdg)アウグスト・ヴェンツィンガ (harpsichord)エドゥアルト・ミュラー 1953年10月8日~9日録音(Walter Gerwig:(Vdg)August Wenzinger (harpsichord)Eduard Muller Recorded on October 8-9, 1953)
[2026-10-25]
ヴォーン・ウィリアムス:トマス・タリスの主題による幻想曲(Vaughan Williams:Fantasia on a Theme_by Thomas Tallis)
マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1959年録音(Sir Malcolm Sargent:The Philharmonia Orchestra Recorded on 1959)
[2026-10-23]
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30(Rachmaninov:Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30)
(P)モーラ・リンパニー:アンソニー・コリンズ指揮、ロンドン新交響楽団(Moura Lympany:(Con)Anthony Collins New Symphony Orchestra of London Recorded on 1952)
[2026-10-21]
リリ・ブーランジェ:古い仏教の祈り(Boulanger:Vieille Priere Bouddhique)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 エリーザベト・ブラッスール合唱団 (T)レイモンド・アマデ 1958年録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Elisabeth Brasseur (T)Alain Fauqueur Recorded on 1958)
[2026-10-19]
エマヌエル・ポンセ:イ短調組曲(Poncw:Suite In A minor)
(Gt)アンドレス・セゴビア:1930年録音(Andres Segovia:Recorded on 1930)
[2026-10-17]
ベートーベン:ヴィンターの歌劇「妨げられた奉納式」より四重唱「子供よ、静かにお休み」の主題による7つの変奏曲 WoO 75(Beethoven:7 Variations on the Quartet Kind, willst du ruhig schlafen from Winter's Das unterbrochene Opferfest, WoO 75)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)
[2026-10-15]
メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調, Op.25(Mendelssohn:Piano Concerto No.1 in G minor, Op.25)
(P)モーラ・リンパニー:ラファエル・クーベリック指揮、フィルハーモニア管弦楽団 1952年録音(Moura Lympany:(Con)Rafael Kubelik The Philharmonia Orchestra Recorded on 1952)