ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調, Op.92(Beethoven:Symphony No.7 in A major, Op.92)
エーリッヒ・クライバー指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1950年5月録音(Erich Kleiber:Royal Concertgebouw Orchestrar Recorded on May, 1950)
Beethoven:Symphony No.7 in A major, Op.92 [1.Poco Sostenuto; Vivace]
Beethoven:Symphony No.7 in A major, Op.92 [2.Allegretto]
Beethoven:Symphony No.7 in A major, Op.92 [3.Presto; Assai Meno Presto; Presto]
Beethoven:Symphony No.7 in A major, Op.92 [4.Allegro Con Brio]
深くて、高い後期の世界への入り口
「不滅の恋人」は「アマデウス」と比べるとそれほど話題にもなりませんでしたし、映画の出来そのものもいささか落ちると言わなければなりません。しかし、いくつか印象的な場面もあります。(特に気に入ったのは、クロイツェル・ソナタの効果的な使い方です。私ははこの曲が余りよく分からなかったのですが、この映画を見てすっかりお気に入りの曲になりました。これだけでも、映画を見た値打ちがあるというものです。)
それにしても、「アマデウス」でえがかれたモーツァルトもひどかったが、「不滅の恋人」でえがかれたベートーベンはそれに輪をかけたひどさでした。
第9で、「人類みな兄弟!!」と歌いあげた人間とは思えないほどに、「自分勝手」で「傲慢」、そしてどうしようもないほどの「エキセントリック」な人間としてえがかれていました。一部では、あまりにもひどすぎると言う声もあったようですが、私は実像はもっとひどかったのではないかと思っています。
偉大な音楽家達というものは、その伝記を調べてみるとはっきり言って「人格破綻者」の集まりです。その人格破綻者の群の中でも、とびきりの破綻者がモーツァルトとベートーベンです。
最晩年のぼろ屑のような格好でお疾呼を垂れ流して地面にうずくまるベートーベンの姿は、そのような人格破綻者のなれの果てをえがいて見事なものでした。
不幸と幸せを足すとちょうど零になるのが人生だと言った人がいました。これを才能にあてはめると、何か偉大なものを生み出す人は、どこかで多くのものを犠牲にする必要があるのかもしれません。
この交響曲の第7番は、傑作の森と言われる実り豊かな中期の時期をくぐりぬけ、深刻なスランプに陥ったベートーベンが、その壁を突き破って、後期の重要な作品を生み出していく入り口にたたずむ作品です。
ここでは、単純きわまるリズム動機をもとに、かくも偉大なシンフォニーを構築するという離れ業を演じています。(この課題に対するもう一つの回答が第8交響曲です。)
特にこの第2楽章はその特徴のあるリズムの推進力によって、一つの楽章が生成発展してさまをまざまざと見せつけてくれます。
この楽章を「舞踏の祝祭」と呼んだのはワーグナーですが、やはり大したものです。
そしてベートーベンはこれ以後、凡人には伺うこともできないような「深くて」「高い」後期の世界へと分け入っていくことになります。
内なるロマンティシズム
エーリヒ・クライバーと言えば直線的でキリリと引き締まった演奏をする人というのが通り相場です。
そして、そういう評価に改めて納得させられるのが、最晩年にDECCAに残した録音です。
このDECCA録音といえば、真っ先に思い浮かぶのがベートーベンの一連の交響曲でしょうか。
ベートーヴェン:交響曲第3番 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1955年
ベートーヴェン:交響曲第3番 コンセルトヘボウ管弦楽団 1950年
ベートーヴェン:交響曲第5番 コンセルトヘボウ管弦楽団 1953年
ベートーヴェン:交響曲第6番 コンセルトヘボウ管弦楽団 1953年
ベートーヴェン:交響曲第6番 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1948年
ベートーヴェン:交響曲第7番 コンセルトヘボウ管弦楽団 1950年
それと、モーツァルトの「フィガロの結婚」やリヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」あたりでしょうか。
R.シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」全曲 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団 録音:1954年
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」全曲 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団1955年
コンセルトヘボウ管弦楽団tとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団というのもポイントが高いです。
エーリヒ・クライバーが指揮者という道を志す決定的な転機となったのは、少年時代にグスタフ・マーラーが指揮する自作の交響曲6番「悲劇的」を聴いた体験であったと伝えられています。
そして、若いころの録音を聞いてみると、なるほど彼の指揮者としての原点はマーラーだったのだと納得がいく録音が数多くあります。
例えば、このあたり・・・。
ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」 op.314
エーリヒ・クライバー指揮 シュターツカペレ・ベルリン 1923年録音
そういうことを思い浮かべながら晩年のDECCA録音を聞いてみると、彼がその生涯において、どれほど遠くまで歩いて行ったのかと感心させられます。
とはいえ、晩年になってもそういう心の内が漏れ出すこともありました。
スメタナ:「我が祖国」から「ヴィシェフラド(高い城)」
エーリヒ・クライバー指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1954年11月録音
こういう主情的な演奏が晩年にも聞けるので、その原点は彼の心の奥深くに生き続けていたのでしょう。
ですから、エーリヒがただのザッハリヒカイトなだけの指揮者ではなかったことはよく見ておく必要があります。
よせられたコメント 2026-10-12:たつほこ カルロス クライバーのレコードを初めて聴いた時は、第一楽章でそれまで聴こえなかった音が聴こえるのに驚き、最終楽章まで一気に聴いた。その後、放送用も含めて何種類も何回も聴いた。
エーリッヒという戦後キャリアに恵まれなかった不運な大指揮者がいたのは知っていたけど、レコードを買う余裕はなかった。カルロスの伝記には、(確かエーリッヒの書き込みのある)楽譜を演奏会前に持って行って、パート譜に弓の上げ下げなどの指示を鉛筆で書き込み、演奏会後にはそれを消して帰ったと書かれていた。今回、確かに聴こえてくる音符は両者ともに似ている。指揮は才能だけでなく、どう演奏すべきかの研究成果にも依存するんだとわかる。テンポは父子で異なっていたんだともわかる。どうしてもこのような聞き方になってしまった。
田園の録音はエーリッヒが良すぎる。カルロスの田園は、天才でも失敗するんだと凡人にホッとさせる録音で残念。
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