ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36
クリップス指揮 ロンドン交響楽団 1961年1月録音
Beethoven:Symphony No 2 in D major, Op. 36 [1st movement]
Beethoven:Symphony No 2 in D major, Op. 36 [2nd movement]
Beethoven:Symphony No 2 in D major, Op. 36 [3rd movement]
Beethoven:Symphony No 2 in D major, Op. 36 [4th movement]
ベートーベンの緩徐楽章は美しい。
これは以外と知られていないことですが、そこにベートーベンの知られざる魅力の一つがあります。
確かにベートーベンが最もベートーベンらしいのは驀進するベートーベンです。
交響曲の5番やピアノソナタの熱情などがその典型でしょうか。
しかし、瞑想的で幻想性あふれる音楽もまたベートーベンを構成する重要な部分です。
思いつくままに数え上げても、ピアノコンチェルト3番の2楽章、交響曲9番の3楽章、ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス、ヴァイオリンソナタのスプリング、そしてピアノソナタ、ハンマークラヴィーアの第3楽章。
そう言う美しい緩徐楽章のなかでもとびきり美しい音楽が聞けるのが、交響曲第2番の第2楽章です。
ベートーベンの交響曲は音楽史上、不滅の作品と言われます。しかし、初期の1番・2番はどうしても影が薄いのが事実です。
それは3番「エロイカ」において音楽史上の奇跡と呼ばれるような一大飛躍をとげたからであり、それ以後の作品と比べれば確かに大きな落差は否めません。しかし、ハイドンからモーツァルトへと引き継がれてきた交響曲の系譜のなかにおいてみると両方とも実に立派な交響曲です。
交響曲の1番は疑いもなくジュピターの延長線上にありますし、この第2番の交響曲はその流れのなかでベートーベン独自の世界があらわれつつあります。
特に2番では第1楽章の冒頭に長い序奏を持つようになり、それが深い感情を表出するようになるのは後年のベートーベンの一つの特徴となっています。また、第3楽章はメヌエットからスケルツォへと変貌を遂げていますが、これもベートーベンの交響曲を特徴づけるものです。
そして何よりも第2楽章の緩徐楽章で聞ける美しいロマン性は一番では聞けなかったものです。
しかし、それでも3番とそれ以降の作品と併置されると影が薄くなってしまうのがこれらの作品の不幸です。第2楽章で聞けるこの美しい音楽が、影の薄さ故に多くの人の耳に触れないとすれば実に残念なことです。
後期の作品に聞ける深い瞑想性と比べれば甘さがあるのは否定できませんが、そう言う甘さも時に心地よく耳に響きます。
もっと聞かれてしかるべき作品だと思います。
ウィーンへの意趣返し
クリップスのベートーベンはこの時代の巨匠たちのような強烈な個性は全くありません。始めから終わりまで、至って自然体で、楽譜をそのまま音にしただけのような演奏に聞こえます。しかし、何も考えずに楽譜を音にしただけではこのような自然体で音楽は実現できません。ここには、音楽をあるがままの自然体で構築しようという強い意志が貫徹しています。
クリップスはウィーン生まれの指揮者であり、ワインガルトナーの弟子と言うことになれば、これはもうドイツ・オーストリア系の正当派指揮者というイメージが浮かび上がります。
しかし、ヨーロッパでの評価はあまり高くありません。
特に、ルーペルト・シェトレの「舞台裏の神々 指揮者と楽員の楽屋話」に紹介されているエピソードなどを見る限りでは、随分とオケ(ウィーンフィル)のメンバーからいじめられたようです。特に、絶対音感がないというコンプレックスを標的にした嫌がらせは、読んでいてあまり気持ちの良いものではありません。
考えてみれば、これは不思議なことです。
何故ならば、ナチスによって迫害された経歴を持ちながら、そのナチスとの関係で苦境に立たされたウィーンの歌劇場に救いの手をさしのべたのがクリップスだったからです。
ところが、困った時に差し伸べてくれた手は有り難く握りしめても、一息つければそんな手にすがった己の過去を「恥」と考えて、今度はそう言う「恥」を覆い隠すために悪し様に扱って追い出してしまったのです。
もちろん、考えようによってはそれが「都市」というものの本性であり、まさにそのような振る舞いこそがウィーンという街なのでしょう。
しかし、最近のネット事情を見てみると、日本の、それもどちらかといえば専門家筋のあたりからクリップス再評価の動きがあるようです。特に、61年の1月に集中的にスタジオ録音されたベートーベンの交響曲全集の評価が意外なほど高いのです。
なおこの録音はデッカやEMIのような老舗レーベルではなくEVERESTという新興レーベルによって企画されました。
EVERESTは1950年代後半に35ミリ磁気テープを用いた録音で驚異的な音の良さを実現したことで知られているのですが、こういう手堅い指揮者を登用することで、演奏の方にも十分な気配りをしていたあたりは偉いものです。
クリップスのベートーベンはこの時代の巨匠たちのような、聞けばすぐに誰の演奏かが分かるような強烈な個性は全くありません。
始めから終わりまで、至って自然体で、楽譜をそのまま音にしただけのような演奏に聞こえます。しかし、これは注意が必要なことなのですが、何も考えずに楽譜を音にしただけの演奏だと、このような自然体で音楽が気持ちよく流れていくことはありません。
音楽をあるがままの自然体で流そうと思えば、そうなるような意志が貫徹していなければいけませんし、そのような意志が希薄になるととたんに音楽は不自然なものになってしまうのです。
そう言う意味では、この演奏をウィーン風の典雅で滋味あふれるベートーベンだと書いている人もいるのですが、私にはどちらかというアメリカ的な、それもセルのような方向性が感じ取れるのです。
ただし、ここにはセル&クリーブランド管のような「凄み」はありませんから、聞く方にしてみればもう少し気楽構えて聞いていられます。
深読みかもしれませんが、なんだかこの録音は、クリップスなりのウィーンへの意趣返しのような気がします。
よせられたコメント 2015-12-29:Sammy 1番に続き、室内楽的な明瞭さと、まろやかに甘く響き合わせた伸びやかなみずみずしい音響づくり、開放的な勢いがあいまって、チャーミングな名演奏と思いました。
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