クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

モーツァルト:交響曲第40番 ト短調, K.550

アンドレ・ヴァンデルノート指揮 パリ音楽院管弦楽団 1957年録音





Mozart:交響曲第40番 ト短調 K.550 「第1楽章」

Mozart:交響曲第40番 ト短調 K.550 「第2楽章」

Mozart:交響曲第40番 ト短調 K.550 「第3楽章」

Mozart:交響曲第40番 ト短調 K.550 「第4楽章」


「哀切なるモーツァルトの音楽」の中でも、もっとも哀切なものだといえます。

おそらく、日頃クラシック音楽なんかを聞かない人でも、冒頭のメロディはどこかで聞いたことがあるはずです。

 モーツァルトの交響曲は番号付きの物は41番までありますが、ベートーベン以降のようにガッチリとした形式があったわけではないので、広く解釈すれば数はもっと多くなります。逆に言えば、強固な形式観がなかっただけに、この時代の作曲家は実に多くの交響曲を残しています。

 ブラームスがベートーベンの影に怯えて(?)、第1番を作り出すのに20年以上かかったのは有名な話ですが、モーツァルトやハイドンは実に気楽にたくさんの作品を生みだしています。(ちなみにハイドンの場合は番号付きの作品だけでなんと104番まであります)
 そんなわけで、モーツァルトの交響曲は、いかに彼が天才だったとはいえ、ほんの子供時代の作品もふくまれていますから、すべてが傑作とは言いかねます。
 たとえば、交響曲1番(E?Flat Major K.16)なんかは、わずか8歳の時の作品です。
 とはいえ、父親のレオポルドは、「8歳というのに、40歳の男に要求される物をみな知っている」と言わせた天才を感じ取ることができます。そして、この作品で聞くことのできる哀切な響きは、すでにモーツァルトの音楽の「哀しさ」を刻み込んでいます。こんな「哀しさ」がすでに8歳の子供にも宿っていたのかと驚かされます。

 ちなみに若書きの作品として有名なものに、ロッシーニの「弦楽のためのソナタ」があります。ロッシーニ12歳の作品です。
 しかし、この4歳の差は大きく、両者を比べるとロッシーニの作品は完全に大人の作品です。幼さを全く感じさせません。
 そして、この作品に聞こえる哀切な響きには「甘いあこがれ」が感じ取れ、決してモーツァルトの模倣にはなっていないのはさすがです。(閑話休題)

 それから、モーツァルトの交響曲の中で短調の曲はたったの2曲だけで、ともにGマイナーというのもよく指摘されてきたことです。
一曲は今お聞きの40番、そしてもう一曲は映画「アマデウス」で有名になった25番です。通常、40番を「大ト短調」、25番を「小ト短調」と言います。
 ともに「哀切なるモーツァルトの音楽」の中でも、もっとも哀切なものだといえます。

30歳の若者にしか作れなかった音楽


ヴァンデルノートという名前を聞いてある種の「懐かしさ」を覚える人は、よほど年季の入ったクラシック音楽愛好家でしょう。なぜなら、65年には来日して、読売日響を指揮する颯爽とした姿を未だに懐かしく覚えている方もいるようですから。
もちろん私などは足元にも及ばず、ただ「知識」として知っているだけの存在です。

ベルギー人であるヴァンデルノートは、ベルギー国立管弦楽団、ベルギー王立劇場(モネ劇場)の指揮者を歴任し、さらには同郷のクリュイタンスの推薦もあってパリ音楽院管弦楽団の指揮台にもたびたび登場しました。そして、63年にはシカゴ交響楽団を指揮してアメリカデビューも果たし、彼のことをクリュイタンスの後継者と見なす人も多かったようです。

しかし、そのようなキャリアを捨て去るように、彼は67年にブラバンド管弦楽団というあまり有名とは言い難いオケの首席指揮者に就任し、その後はベルギー国内での活動に専念するようになって、世界的には姿が消え去ったような存在となってしまいました。
あれっ?、これって誰かと似ていると思い当たった方がいれば、それもまたかなりのクラシック音楽通です。そう、これってペーター・マークとそっくりです。

くわしくは、こちら。・・・エライ古い文章ですが・・・。
ただ、少し違うのは、マークはそのようなドロップ・アウトによって、田舎の小さなオケを相手に言うに言われぬ素晴らし音楽の世界を作り上げてくれましたが、ヴァンデルノートの方は、その晩年に残した音楽を聞くと、かなり苦しいものになってしまっていることです。(ベルギー・フランス語放送管弦楽団を指揮したライブ録音・・・人によっては「なかったことにしたい」ような演奏らしいです)
そう言えば、彼とのコンビでモーツァルトのコンチェルトを録音したハイドシェクは、「演奏よりその後のビールにしか興味のない人物」と評していたそうです。
彼のドロップ・アウトの本当の理由は未だに「謎」らしいので、もしかしたら、マークのような深遠な理由が背景にあるのではなくて、意外と「飲んべえ」が原因だったのかもしれません。

ただし、彼が若手の指揮者としてキャリアを上っていこうとしている時代の録音には素晴らしいものがたくさんあります。
特に、今回取り上げたモーツァルトの交響曲は素晴らしい演奏です。この時、ヴァンデルノートは30歳になったばかりです。

クラシック音楽の世界というのは「シルバーシート優先」という麗しい「伝統」があって、とりわけ指揮者というのは年を重ねるほど芸に深みが出てくると信じられています。ですから、一般的には、こういう駆け出しの指揮者の音楽などというものはそれほど注目されないものです。
確かに、こういう評価の仕方は概ね正しいことが多いのですが、その反面、そう言う「若者」にしか為しえない音楽の形というものも存在することは事実です。
そう言えば、人はその一生において同じものを三回見ると言った人がいました。若いときには「発見」の喜びで見つめ、脂ののりきった壮年期にはそれを「確かめる」ように見つめ、そうして老年を迎えて「見納め」の思いで眺めるというのです。
そして、この録音はそのような若者でしか為しえないようなほとばしるような生命観に満ちあふれた音楽になっています。
演奏の基本的なスタンスは、この時代を席巻していたザッハリヒカイトな音楽作りでしょう。一見すると、彼は指揮台で何もしていないように聞こえます。しかし、聞こえてくる音楽はこの上なくしなやかで生命観にあふれていて、そこにはザッハリヒカイトという言葉から連想される素っ気なさや硬直した雰囲気などは微塵も存在しません。

とりわけ素晴らしいのは、そのような演奏のベクトルと作品の性格がベストマッチした35番「ハフナー」と36番「リンツ」です。次いで、38番「プラハ」も悪くないですし、41番の「ジュピター」も勢いがあって悪くないです。
ただし、モーツァルトの白鳥の歌と言われることもある39番は、勢いだけでは処しがたく、40番のト短調シンフォニーでは、そのデモーニッシュなテイストを持てあましているのがはっきりと感じ取れます。
ですから、全てが全て二重丸とは言いませんが、それでもこの「ハフナー」と「リンツ」の録音を残しただけでも、ヴァンデルノートの名前を記憶にとどめておく価値はあると思います。

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