アーサー・サリヴァン:喜歌劇「軍艦ピナフォア」序曲(Sullivan:Overture from H.M.S Pinafore)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)
Sullivan:Overture from H.M.S Pinafore
のイギリス海軍や階級制度をユーモアたっぷりに風刺

サリヴァンの喜歌劇「軍艦ピナフォア」はイギリスを代表する喜歌劇で1878年に初演されました。当時のイギリス海軍や階級制度をユーモアたっぷりに風刺した内容が大衆の心を掴んで大成功を収めました。
サリヴァンの序曲はオペラのハイライトをダイジェスト版で楽しむことができるように書かれていて、それはこの序曲にも当てはまります。
この序曲もまた本編の主題を盛り込んだメドレー形式で構成されていて、主な構成要素は以下の通りです。
導入部
勇壮な海を思わせる、金管楽器と弦楽器による堂々とした旋律で始まります。これは劇の舞台である軍艦の威厳を表現しています。
第1主題「海原を航海する」 (We sail the ocean blue)
合唱曲「海原を航海する」の旋律が奏でられます。水兵たちの勇敢で陽気な雰囲気を描いたテーマです。
第2主題「私は船長です」 (I am the Captain of the Pinafore)
登場人物の一人、ピナフォア号の船長が歌う「私はピナフォア号の船長」の旋律が続きます。滑稽な人物像を思わせる、ユーモラスな音楽です。
第3主題「私は小さなキンポウゲ」 (I'm Called Little Buttercup)
行商人バタカップ夫人が歌う、愛らしい「私は小さなキンポウゲ」のメロディーがフルートやクラリネットで可愛らしく奏でられます。
展開部
これらの主題が次々と登場し、変奏や対位法的な扱いを受けながら展開していきます。サリヴァンらしい優雅で軽快なオーケストレーションが光ります。
結び
再び華々しく堂々とした序奏のテーマに戻り、華やかに序曲全体を締めくくります。
勇壮な行進曲風の旋律から、愛らしいワルツ、そしてユーモラスな歌まで、劇中の様々な雰囲気を凝縮した音楽です。
サリヴァンの軽妙で色彩豊かな管弦楽法が遺憾なく発揮されていて、聴衆を引き込む魅力的な響きを生み出しています。
高い分析力と良い意味での「緩さ」が上手くマッチしている
レイボヴィッツの録音活動の少なくない部分を「リーダーズ・ダイジェスト」が占めています。
「リーダーズ・ダイジェスト」は月刊の総合ファミリー雑誌だったのですが、書店売りは行わずに会員制の通信販売というスタイルをとっていました。この販売方法とアメリカ至上主義の編集方針を貫くことでアメリカ最大の発行部数を誇る雑誌へと成長していきました。
そして、その会員制の通信販売というスタイルを生かしてレコード制作にも乗り出します。
しかし、基本的に「リーダーズ・ダイジェスト」は雑誌社ですから録音のノウハウなどは持ち合わせていないので、その制作はRCAに丸投げしていました。
その丸投げのおかげで、同じような販売方法をとった「コンサートホールソサエティ」と較べると格段に録音のクオリティが高いという思わぬ幸運をもたらしました。
ただし、その性格上、クラシック音楽の分野ではコアなファンではない人々を対象としたために、いわゆる「クラシック音楽名曲集」のようなものが主流でした。
実は、この事に長く思い当たらず、小品の録音ばかり押し付けられるレイホヴィッツはレーベルの中では軽くあつかわれすぎていると考えていました。
しかし、実際は彼にベートーベンの交響曲の全曲録音を依頼された事が異例の厚遇であり、本来の仕事はそう言う売れ筋の名曲小品の録音だったのです。
そして、そういう待遇に対してかつては「レイボヴィッツにとって名曲小品の録音ばかりが続くというのはそれほど楽しい仕事ではなかった事でしょう」などと書き、「しかし、食っていくためには必要な仕事だったのでしょう」などと記しておりました。
しかし、最近になってそう言う小品集をじっくりと聞いてみると考えが随分と変わってきました。
よくよく聞いてみると、一連の小品の中にはオーケストラ編曲したものが多く、それらの編曲が実に面白いのです。レコードには編曲者のクレジットはないのですが、間違いなくレイホヴィッツの手になるものでしょう。
さらには、管弦楽の小品もじっくり聞いてみるとあれこれと手が入っているようで、原典通りに演奏しているとは思えません。それもまたレイホヴィッツ自身が手を入れたのではないでしょうか。
つまりは、「楽しい仕事ではなかった」のではなく、逆に結構楽しんで、そして意外なほど真剣に取り組んでいたように思えてきたのです。
確かに、彼にあてがわれたオーケストラは「インターナショナル交響楽団」とか「ロンドン新交響楽団」、「パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団」などと言う「怪しげ」なものばかりです。
しかし、決して下手なオケではありません。
レイホヴィッツは本質的に「指揮者」ではなく「作曲家」でした。
同じような存在としてマルケヴィッチがいますが、彼の場合は「作曲もする指揮者」だったように思います。
両者はともに作品を分析する能力に関しては折り紙つきですが、その分析したものをオーケストラに明確に伝え、統率する能力に関しては大きな差があったと言わざるをえません。
マルケヴィッチの場合は自分が納得できる表現に辿りつくまでは容赦なくオーケストラを絞り上げますが、レイボヴィッツの指揮には良い意味での緩さがありました。
ですから、「インターナショナル交響楽団」とか「ロンドン新交響楽団」のような怪しげなオケも、レイホヴィッツのような指揮者ならば伸び伸びと楽しんで演奏できたことでしょう。そして、その楽しさにレイホヴィッツも乗っかって、「十二音技法の使徒」と呼ばれたほどの人物が、まるでポップスミュージックのようにクラシック音楽を演奏したのです。
ただし、忘れてはいけないのは、どれほど外連味にあふれた演奏であっても、そこにはしっかりと背筋が通っていることです。この二律背反しそうなことを見事に融合していることこそがレイホヴィッツの魅力です。
ですから、そういう楽しい音楽を聞き手に提供することは、決して「食っていくための仕方のない仕事」などではなかったはずです。
もっとも、現代音楽の作曲家にとっては「食っていくためにの必要な仕事」であった事も事実でしょうが…。
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