クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調, Op.104(Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104)

(Cello)ピエール・フルニエ:セルジュ・チェリビダッケ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1945年録音(Pierre Fournier:(Con)Sergiu Celibidache the Berlin Philharmonic Orchestra Recorded on 1945)





Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [1.Adagio]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [3.Finale. Allegro moderato]


チェロ協奏曲の最高傑作であることは間違いありません。

この作品は今さら言うまでもなく、ドヴォルザークのアメリカ滞在時の作品であり、それはネイティブ・アメリカンズの音楽や黒人霊歌などに特徴的な5音音階の旋律法などによくあらわれています。しかし、それがただの異国趣味にとどまっていないのは、それらのアメリカ的な要素がドヴォルザークの故郷であるボヘミヤの音楽と見事に融合しているからです。
その事に関しては、芥川也寸志が「史上類をみない混血美人」という言葉を贈っているのですが、まさに言い得て妙です。

そして、もう一つ指摘しておく必要があるのは、そう言うアメリカ的要素やボヘミヤ的要素はあくまでも「要素」であり、それらの民謡の旋律をそのまま使うというようなことは決してしていない事です。
この作品の主題がネイティブ・アメリカンズや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説が早い時期から囁かれていたのですが、その事はドヴォルザーク自身が友人のオスカール・ネダブルに宛てた手紙の中で明確に否定しています。そしてし、そう言う民謡の旋律をそのまま拝借しなくても、この作品にはアメリカ民謡が持つ哀愁とボヘミヤ民謡が持つスラブ的な情熱が息づいているのです。

それから、もう一つ指摘しておかなければいけないのは、それまでは頑なに2管編成を守ってきたドヴォルザークが、この作品においては控えめながらもチューバなどの低音を補強する金管楽器を追加していることです。
その事によって、この協奏曲には今までにない柔らかくて充実したハーモニーを生み出すことに成功しているのです。


  1. 第1楽章[1.Adagio]:
    ヴァイオリン協奏曲ではかなり自由なスタイルをとっていたのですが、ここでは厳格なソナタ形式を採用しています。
    序奏はなく、冒頭からクラリネットがつぶやくように第1主題を奏します。やがて、ホルンが美しい第2主題を呈示し力を強めた音楽が次第にディミヌエンドすると、独奏チェロが朗々と登場してきます。
    その後、このチェロが第1主題をカデンツァ風に展開したり、第2主題を奏したり、さらにはアルペッジョになったりと多彩な姿で音楽を発展させていきます。
    さらに展開部にはいると、今度は2倍に伸ばされた第1主題を全く異なった表情で歌い、それをカデンツァ風に展開していきます。
    再現部では第2主題が再現されるのですが、独奏チェロもそれをすぐに引き継ぎます。やがて第1主題が総奏で力強くあらわれると独奏チェロはそれを発展させた、短いコーダで音楽は閉じられます。

  2. 第2楽章[2.Adagio ma non troppo]:
    メロディーメーカーとしてのドヴォルザークの資質と歌う楽器としてのチェロの特質が見事に結びついた美しい緩徐楽章です。オーボエとファゴットが牧歌的な旋律(第1主題)を歌い出すと、それをクラリネット、そして独奏チェロが引き継いでいきます。
    中間部では一転してティンパニーを伴う激しい楽想になるのですが、独奏チェロはすぐにほの暗い第2主題を歌い出します。この主題はドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして op.82-1 (B.157-1)」によるものです。
    やがて3本のホルンが第1主題を再現すると第3部に入り、独奏チェロがカデンツァ風に主題を変奏して、短いコーダは消えるように静かに終わります。

  3. 第3楽章[3.Finale. Allegro moderato]:
    自由なロンド形式で書かれていて、黒人霊歌の旋律とボヘミヤの民族舞曲のリズムが巧みに用いられています。
    低弦楽器の保持音の上でホルンから始まって様々な楽器によってロンド主題が受け継がれていくのですが、それを独奏チェロが完全な形で力強く奏することで登場します。
    やがて、ややテンポを遅めたまどろむような主題や、モデラートによる民謡風の主題などがロンド形式に従って登場します。
    そして、最後に第1主題が心暖まる回想という風情で思い出されるのですが、そこからティンパニーのトレモロによって急激に速度と音量を増して全曲が閉じられます。




活力と生命観に溢れた演奏


まずはこの録音を聞いて刮目するのはその溢れるような生命力と、それに裏付けられたこの上もない喜びです。そして、その喜びは疑いもなくチェリビダッケの指揮によってもたらされています。録音のクレジットには1945年としか記されていませんが、ベルリンが瓦礫の街と化した戦後の演奏であることは疑いありません。
それにしても、そう言う瓦礫の中でこれほどの生命感溢れる演奏を繰り広げられたとは驚きです。しかし、ここまでオケとしての機能を維持していたということは、裏返してみれば、ナチス統治下のドイツでベルリンフィルがいかに特別扱いされていたかということを裏付ける事実なのかもしれません。

もちろん、荒っぽいことは荒っぽいです。
しかし、それは合奏能力が落ちてしまっていたということではなくて、戦争が終わったことによって得られた自由への喜びがあふれ出たが故の勢いがもたらしたものです。
そう言えば、日本でも敗戦後は食べるものも満足にない苦難の中にあっても、それと引き替えに言いしれない自由と解放感が溢れていたと聞きます。
おそらく、地上戦を経験したドイツでの苦悩は計り知れないものだったのでしょうが、それでもナチスの圧政と戦争の恐怖から解放された喜びは途轍もなく大きかったことでしょう。

そして、非ナチ化によって音楽活動から身を引かなければいけなかったフルトヴェングラーの代役としてベルリンフィルの指揮台にたったチェリビダッケは意欲に溢れていました。そして、それだけの能力を十分に備えていることを彼は次々と証明していきます。
フルトヴェングラーもまた自分の後継者としてチェリビダッケを認めていたといいます。

しかし、多くの人が知るように、フルトヴェングラーが1952年にベルリンフィルの「終身首席指揮者」に就任してチェリビダッケとベルリンフィルとの関係が悪化します。しかし、それでも彼が指揮するベルリンフィルとの演奏会は聞き手からも批評家からも熱狂的に受け入れられていました。そして、そのフルトヴェングラー亡き後に紆余曲折を経てそのポジションが最終的にカラヤンの手中に落ち、その結果としてチェリビダッケの臍はすっかり曲がってしまいました。

もっとも、その臍の曲がった音楽によって彼もまた20世紀を代表するマエストロになっていくのですが、このようなう戦後間もない時期のベルリンフィルとの演奏を聞くと、臍の曲がっていないチェリビダッケの計り知れない魅力にも気づかされます。
そして、ソリストのフルニエも力強く気迫に満ちた演奏で応えていて、その後の、美音を武器として「チェロの貴公子」と呼ばれるようになるとは想像もつきません。

その意味では、これはチェリビダッケにとってもフルニエにとっても戦後間もない時期という特別な環境の中で生み出された特別な演奏だと言っていいでしょう。

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