メンデルスゾーン:交響曲第3番 イ短調 作品56 「スコットランド」(Mendelssohn:Symphony No.3 in A minor, "The Scotch" Op.56)
ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1953月11月2日録音(Dimitris Mitropoulos:New York Philharmonic Recorded on November 2, 1953)
Mendelssohn:Symphony No.3 in A minor, "The Scotch" Op.56 [1.Introduction. Andante con moto - Allegro un poco agitato - Assai animato - Andante come I]
Mendelssohn:Symphony No.3 in A minor, "The Scotch" Op.56 [2.Scherzo. Vivace non troppo]
Mendelssohn:Symphony No.3 in A minor, "The Scotch" Op.56 [3.Adagio cantabile]
Mendelssohn:Symphony No.3 in A minor, "The Scotch" Op.56 [4.Finale guerriero. Allegro vivacissimo ? Allegro maestoso assai]
標題をつけるが好きだったみたいです(^^)

3番には「スコットランド」、4番には「イタリア」と副題がついています。
あまりポピュラーではありませんが、5番には「宗教改革」、2番にも「賛歌」と言う副題がついています。
そして、絶対音楽の象徴みたいに言われるシンフォニーですが、何故か副題がついている方が人気がでます。
もちろん、シンフォニーでなくても、副題がついている方がうんと人気がでます。もっとも、その副題も作曲者自身がつけたものもあれば、あとの時代で別人が勝手につけたものもあります。
中には、人気曲なのに名無しでは可哀想だと思ったのか、全く訳の分からない副題がついているものもあります。
あまりひどいものは次第に使われなくなって消えていくようですが、それなりに的を射ているものは結構通用しています。
そう言えば、すてきなメロディーを耳にしたときに、「この曲なんて言うの?」なんて聞かれることがよくあります。(よくあるわけないよな(^^;、時々あるほどでもないけれど、でも、たまーにこういう状況があることはあります。)
そんなときに知ったかぶりをして、「あーっ、これはね『ロッシーニの弦楽のためのソナタ』第1番から第2楽章ですよ、いい曲でしょう!」等と答えようものなら、せっかくの和んだ空気が一瞬にして硬直していくのが分かります。
ああ、つまらぬ事を言うんじゃなかったと思っても、後の祭りです。
でも、そんなときでも、その作品にしゃれた副題がついていると状況は一変します。
「あーっ、これはねショパンの革命ですよ。祖国を失った悲しみと怒りをピアノにたたきつけたんですね、ふふふっ!」と言えば、実にかっこいいのです。
ところが、全く同じ事を言っているのに、「あーっ、これはねショパンのエチュードから第12番ハ短調、作品番号10の12です、祖国を失った悲しみと怒りをピアノにたたきつけたんですね、ふふふっ!」と答えれば、これは馬鹿でなのです。
クラシック愛好家がこのような現実をいかに理不尽であると怒っても、それは受け入れざるを得ない現実です。
流行歌の世界でも、「ウタダの待望の新作「作品番号12の3変ホ長調!」なんていった日には売れるものも売れなくなります。
もっともっと素敵な標題をみんなでつけましょう(^^)
そして、クラシック音楽にいささかいかがわしい副題がついていても目くじらをたてるのはやめましょう。
なかには、そう言うことは音楽の絶対性を損なうといって「僕は許せない!」と言うピューリタン的禁欲主義者のかたもおられるでしょうが、そう言う方は「クラシック音楽修道院」にでも入って世俗との交流を絶たれればすむ話です。
いや、私たちは逆にどんどんすてきな副題をつけるべきかもしれません。
だって、今流れているこの音楽にしても、メンデルスゾーンの「交響曲第3番イ短調作品番号56」、と言うよりは、メンデルスゾーンの「スコットランド」と言う方がずっと素敵だと思いませんか。
それにしても、メンデルスゾーンは偉い、1番をのぞけば全て副題をつけています。有名なヴァイオリンコンチェルトも今では「メンコン」で通じますから大したもです。(うーん、でもこれが通じるのは一部の人間だけか、それに付け方があまりにも安直だ、チャイコン、ブラコンあたりまでは許せても、ベトコンとなると誤解が生じる。)
ピアノ曲集「無言歌」のネーミングなんかも立派なものです。
「夢」「別れ」「エレジー」あたりは月並みですが、「眠れぬ夜に」「安らぎもなく」、「失われた幸福」と「失われた幻影」に「眠れぬままに」「朝の歌」と来れば、立派なものだと思いませんか。
己への強い確信
いつも思うのですが、この時代の演奏家は一癖も二癖もあるような人が多いです。このミトロプーロスという指揮者もなかなか一筋縄ではいかない音楽家です。
ykさんがフランソワのベートーベン演奏へのコメントとして寄せていただいた文章の中に次のようにな一節がありました。
「演奏家は作曲家に忠実である前に、何より自分に忠実であってほしい」と言うことであり、仮に優れた技術に裏打ちされた演奏でも「自分を偽った(或いは忠実であるべき「自己」の欠如した)」演奏は無意味で有り、そう言った演奏はある意味で作曲家への冒涜でさえある・・・と考えます。一時期、演奏家はソノ存在を感じさせない純粋透明な「伝達者」であることが理想だ・・・と言ったことを公言する人もいましたが、こう言った主張は少なくとも無条件では私には受け入れられません(・・・それが理想であれば、ピアノはYAMAHAの自動演奏で事足りる??・・・^_^;;)。
まさにその通りと膝をうったものでした。「それが理想であれば、ピアノはYAMAHAの自動演奏で事足りる」の部分はあまりにも正鵠を得ていて感心させられました。
確かに抜群のテクニックを誇る主張のないピアノ演奏などを聞かされるとき、お前は「YAMAHAの自動演奏」かといいたくなりすよね。
話は全く変わりますが、AIの進歩は勝ち負けがはっきりするゲームにおいては人間の領域をはるかに凌駕してしまいました。しかし、だからといって人間同士による将棋やチェス、囲碁などの対局に意味がなくなったのかと言えば全くそう言うことはありませんでした。
考えてみれば、そう言うゲームでAIと人間を対戦させるのは、人間と車がマラソンレースや100メートル走をするようなものです。
もちろん、人間が車にかなうはずはありません。しかし、それでも人間同士が競い合うマラソンレースや100メートル走に意味がなくならないのと同じです。
おそらく、作曲家の楽譜に従って正確に演奏することだけが理想とするならば「YAMAHAの自動演奏」にかなうものはなくなっていくでしょう。
やがて、ピアノだけでなく様々な楽器の自動演奏がAIの進歩によって可能になっていき、ついにはオーケストラの自動演奏なんてものも可能な時代が来るかもしれません。
しかし、そう言う時代になっても人間によるオーケストラ演奏が意味を失うことはないでしょう。
楽譜というものは絶対的なもののように見えて、その実は極めて曖昧な存在で、作曲家が伝えたいものを完璧に伝えきれるような存在ではありません。
さらに言えば、創作物は創作者の手もとを離れれば、それは万人の共有物となります。そこに「解釈」というものが入り込む必然性があります。
それ故に、演奏家は楽譜を前にしたときにそこに己の解釈に基づいた何らかの確信の様なものをつかみ取る必要があります。それは、AIがもっとも不得手とする領域です。
しかし、その確信がいかに確固たるものであっても、そこに自動演奏に較べればはるかに不完全な人間による演奏や合奏で音楽は作りあげざるを得ないという現実は避けられません。
しかし、そう言う完璧さからはほど遠いところで成り立つ人間が作り出した音楽というものが魅力を失うことはないでしょう。
こうしてミトロプーロスが残した録音を次々と聞いていくと、彼が作り出した音楽がいかに強い己への強い確信に貫かれているか、さらに、それらを音に変えてくれる個々ののオーケストラプレーヤーの不完全性に対してもいかに寛容であったかと言うことに気づかされます。
前段の部分においては多くの偉大な指揮者に共通することですが、後段の部分についてはかなり希有なことであり、その希有さ故に彼ならではなの音楽が成り立っています。
このメンデルスゾーンの「スコットランド」などは、聞いている途中で、「あれ、今聞いてるのはイタリアの方じゃねぇ」という錯覚におちいるほどの疾走感で彩られています。
また、初期の作品である「宗教改革」はどこか響きの薄さを感じてしまう事が常なのですが、ものの見事なまで暖かく厚みのある響きでミトロプーロス流の化粧が施されています。
そして、ミトロプーロスが持つオーケストラへの寛容性が音楽をすることの喜びのようなものをあふれ出させています。
決して名盤とよばれるようなことはないのでしょうが、こういう熱さと喜びに満ちた音楽というものもまた聞くものにとっては大いに魅力的です。
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