クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

J.S.バッハ:教会カンタータ 第41番 「イエスよ、いま讃美を受けたまえ」 BWV41

ギュンター・ラミン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 トーマス教会少年合唱団 (Org)Hannes Kastner (Cello)Helmut Weimann (S)Soloists from Thomanerchor Leipzig (A)Soloists from Thomanerchor Leipzig (T)Gert Lutze (Bass)Johannes Oette 1950年録音





J.S.Bach:Jesu, nun sei gepreiset, BWV 41 [1.Chorus: Jesu, nun sei gepreiset]

J.S.Bach:Jesu, nun sei gepreiset, BWV 41 [2.Aria (soprano): Las uns, o hochster Gott, das Jahr vollbringen]

J.S.Bach:Jesu, nun sei gepreiset, BWV 41 [3.Recitativo (alto): Ach! deine Hand, dein Segen mus allein]

J.S.Bach:Jesu, nun sei gepreiset, BWV 41 [4.Aria (tenor): Woferne du den edlen Frieden]

J.S.Bach:Jesu, nun sei gepreiset, BWV 41 [5.Recitativo (bass): Doch weil der Feind bei Tag und Nacht]

J.S.Bach:Jesu, nun sei gepreiset, BWV 41 [6.Chorale: Dein ist allein die Ehre]


教会カンタータの簡単な成立事情

バッハはその生前に300をこえる教会カンタータを作曲したと言われています。その根拠となるのが彼が亡くなったときに雑誌に掲載された追悼記の記述です。
この追悼記は次男のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハが記したとされており信憑性は高いものです。そこには、バッハが残した宗教作品として「すべての主日および祝日のための教会曲5年巻」を遺したと記されているのです。

この、「主日および祝日」というのは日本人にはわかりにくい表現なのですが、わかりやすく言いかえれば、「主日」とは「日曜日」のことであり、「祝日」というのはキリスト教関係の記念日みたいなものだと思えばいいようです。
ただし、教会カンタータはそれら「主日および祝日」のすべての日に演奏されたのではなく、クリスマスを挟んだ前後の主日や四旬節の6週間前後のの日曜日にはカンタータは演奏されない風習でしたし、逆にマリア関連の祝日や宗教改革記念日に降誕および復活の祝日などではその前後を挟んで3日間演奏されました。
ですから、1年間に用意しなければいけないカンタータの数はおよそ60程度と言うことになります。そして、このカンタータの作品群を5年分遺したと記されていますから、最初の300という数字が導き出されるわけです。

現在では残念なことにこのうちの1/3は散逸して失われてしまっていますから、遺された作品数は200あまりということになります。しかし、それにしてもこれは大変な数です。
歴史上、どの作曲家よりも勤勉だったといわれるバッハですが、その勤勉ぶりが特に際だっているのがこのジャンルの作品です。
ライプティッヒのトーマス・カントールの職に就いた1723年から29年にかけて彼はこれらの仕事を精力的にこなしたのです。

とりわけ、最初の1723~24年のシーズンにはすべての主日と祝日のために新作のカンタータを用意したことが知られていますし、続く1724~25年のシ?ズンにおいてもほぼすべて新作のカンタータを作曲したことが知られています。
それに続く3年目以降のシーズンについては一つ一つの上演を正確に跡づけることは難しいようですが、それでも古い作品の使い回しはすくなかったようです。
そして、バッハはこのような生活を1729年までの5シーズンにわたって続けたのです。

さすがに、1730年以降はすでにできあがった作品を使い回すことが主流となり、新作のカンタータは激減するのですが、それでもポツリポツリと作品を残しています。
私の手元には、このバッハが遺した教会カンタータの全曲録音のボックスが一つあります。
購入してからすでに一年以上の年月がたつのですが、恥ずかしながら聞き終えたのは1/4にも及びません。それらを一通り聞き通すだけでも大変な作品群の大部分をわずか5年の間に書き上げたバッハの凄さにはただただ頭が下がるだけです。

次に、これもまた日本人にはなじみが薄くて理解が難しいことなのですが、一連の教会カンタータを理解していく上で、これらの作品がどのような環境のもとで演奏されたのかを知っておく必要があります。

当然、これらの作品は演奏会のプログラムとして演奏されたのではなくて、「主日および祝日」の礼拝の場で演奏されました。そして、その礼拝では、「使徒書簡」と「福音書」の中の章句が牧師によって読まれるのですが、バッハが提供するカンタータはその書簡や福音書の章句の内容に密接に結びついたものとして作曲されたのです。
ですから、バッハのカンタータはどの日にでも使い回しがきくものではなくて、ある特定の主日または祝日の内容に密接に結びついたものとして提供されているのです。
ですから、その作品が演奏されたときにどのような使徒書簡が読まれ、福音書の中のどの章句が引用されたのはとても重要なことなのです。

ただし、バッハの作品はそのような実用音楽としての枠を打ち破った普遍性を持っていますから、そのような詳細を知らなくてもそれらの作品を享受することには何の不都合もありません。
そのようなディテールを知らなければバッハは理解できないというのは根本的に誤っているでしょう。

とりわけ、バッハに関しては「バッハ学」とも言うべき一つの学問的ジャンルができあがるぐらいに詳細な研究がなされています。それ故にか、あまりにも「知」に偏りすぎて、演奏を「誤っているか、誤っていないか」というレベルで判断する動きがありますが、正直言って私はうんざりです。
しかし、そのような作品成立を巡る事情について知ることに何の意味もないというのもいかがなものかと思います。
やはり、作品というものはできる限りいろいろな側面から光を当ててその全容をしっかりと把握することは作品を理解し楽しんでいく上でも深みを与えるものです。
要は、「知」と「情」のバランスが大切だと言うことです。

BWV 41:イエスよ、いま讃美を受けたまえ→1725年1月1日、新年の礼拝で初演


リヒターの師、ギュンター・ラミン


お恥ずかしい話ですが、ギュンター・ラミンについては全く知りませんでした。ですから、彼の棒による教会カンタータを聞き通してみて思ったことは、「まるで、リヒターのような音楽を作る人だな」と言うことでした。全く持って、お恥ずかしい限りです。
そうです、ラミンの音楽がリヒターに似ているのではなくて、リヒターがラミンに似ているのです。

ラミンは第2次大戦後のドイツ分裂という困難な状況の中で伝統的なバッハ演奏の伝統を守り続けた人なのです。しかし、この演奏を聴いて分かるように、「伝統とは怠惰の別名」といわれるようなルーティンワークに陥るのではなくて、一切の虚飾を廃した厳格なバッハ像を築き上げたのがラミンなのです。そして、このラミンのもとでチェンバロ奏者として腕を磨き薫陶を受けたのがリヒターなのです。
私たちは、リヒターが1957年に録音したマタイをきくとき、今までのロマンティックに歪曲されたバッハ像の中から突然にあのような演奏があらわれたように見えました。それは、東西分裂下の不幸な状況の下1956年に彼が急死したことによってラミンの業績が正しく伝わらなかったからだと、この一連の録音をきくとき痛切に思い知らされます。
リヒターによる歴史的なバッハ演奏の業績はこのような前段階があったからであり、改めて歴史は一人のヒーローによって作られるものではないことを教えられます。

よせられたコメント

2009-02-17:溝犬


2010-03-26:後藤 晋


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