クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ボロディン:交響曲第2番 ロ短調

ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月7日録音





Borodin:Symphony No.2 in B minor [1.Allegro moderato]

Borodin:Symphony No.2 in B minor [2.Scherzo. Molto vivo]

Borodin:Symphony No.2 in B minor [3.Andante]

Borodin:Symphony No.2 in B minor [4.Finale. Allegro]


ロシア国民楽派最高の交響曲

ボロディンと言えば「ロシア五人組」の一人として有名ですが、基本的には音楽を本職としない「日曜作曲家」でした。
聞くところによれば、彼はグルジア皇室の皇太子の子どもとして生まれながら、嫡出ではないと言うことで実子としては登録されなかったそうです。しかし、そういう法的な手続きはどうであれ、皇太子の子どもなのですから音楽も含めて非常にすぐれた教育を受けることが出来ました。よって、ペテルスブルクの医学大学の助教授、教授と進み、最後は有機化学の研究家として多大な業績を残した化学者というのが彼の「本職」となりました。

そんな立ち位置のためか、ボロディンの作品は「未完成」のままに放置されているものが少なくありません。たとえば、彼の代表作とされる「イーゴリ公」も、リムスキー・コルサコフの励ましにもかかわらず完成されることなく、最後は彼の突然の死によって未完成のままで終わりました。そして、それではあまりにも惜しいと思った友人のリムスキー・コルサコフが残されたスケッチなどをかき集めて今日のような「作品」に仕立て上げました。

確かに、彼は「本職」の化学者、教育者としての仕事が忙しくて作曲に時間がとれなかったという面も否定できませんが、基本的には「皇太子の子ども」というやんごとなき生まれのために、その辺の感覚が一般人とはかなりかけ離れていた事も大きく作用したようです。
とにかく、いい人であり、おおらかな人だったようです。

そのあたりのことは、友人のリムスキー・コルサコフが自伝の中であれこれ紹介しているそうです。

たとえば、スケッチを総譜(スコア)になかなか書き移さないので、リムスキー・コルサコフが焦りまくって「あのオペラの例の曲はもう総譜に移したでしょうね?」と聞くと、彼は「うん、もちろん」と答えたそうです。
よかった、間に合ったとと思ってリムスキー・コルサコフが駆けつけると、彼は「総譜はちゃんとピアノ上からから机の上に移しましたよ」と大真面目に答えたそうです。
これでは、怒る気にもなれないでしょうね。

そんな中で、この交響曲の第2番は完成まで8年の年月を要したとは言え、無事に完成にこぎつけたましたから、数少ない大作の中では貴重な存在だと言えます。ロシア国民楽派最高の交響曲とされ、ボロディン自身もこれが完成したときには「勇士」と言う名を与えたほどの自信作でした。

確かに、重厚なユニゾンで開始される第1楽章は「勇士」の名にふさわしい勇壮な音楽となっています。
しかし、この音楽で一番魅力的なのは、誰が何と言ってもアンダンテの第3楽章でしょう。こういう哀愁を含んだ音楽は彼の得意とするところで、冒頭のホルンの歌を聴いただけで心をギュッと掴まれてしまいます。
そして、彼に続くカリンニコフなどの源流がこんなところにあったのだと気づかせてくれます。まあ、そんなことを書いている人はどこにもいませんが、カリンニコフのあのロマンティックで美しい音楽はチャイコフスキーではなく、このボロディンにこそ近しさがあるように思います。
近年になってカリンニコフが再評価されたのですから、このボロディンの交響曲ももう少し演奏されてもいいのではないかと思います。

オケの力をフルに発揮させる聞かせ上手


ミトロプーロスの録音をほとんど取り上げていないことに気づきました。何とはなく聞かず嫌いみたいなところがあったようです。
ギリシャ正教の司祭の家系で育った環境や、信じがたいほどの記憶力に恵まれていた数多くのエピソードは彼にある種の神秘性を与えました。さらに、ピアニストがお手上げになって逃げ出したプロコフィエフの3番を、急遽ピアノと指揮を同時に引き受けて演奏したとか(今で言うところの弾き振り)、様々な超人的なエピソードに包まれた人物なのですが、それが結果として私から遠ざけていたようです。
なんだか、人間離れしたイメージを勝手につくり出してしまったようです。

また、市場に出回っているのがアメリカ時代の古い録音が多かったことも遠ざかる要因だったかもしれません。
しかし、いつまでも食わず嫌いではいけないだろうと言うことで、彼の録音をポツポツと聞き始めました。

聞いてみて、あらためて驚いたのは神秘的なイメージどころか驚くほどの「エンターテイメント性」に溢れていたことです。最初に聞いたときに、こんな簡単なことに何故気づかなかったのでしょうか。
彼の演奏を一言で言えば、驚くほどに聞かせ上手なのです。そして、それがショーソンやボロディン等という今でもかなりマイナーな部類に入る交響曲でも、歌わせるべきところは美しく歌わせ、盛りあげるべきところでは圧倒的な響きで聞き手を慶ばせます。
これが、メンデルスゾーンやシューマン等のそれなりにメジャーな作品になると比較対象が増えるので、ミトロプーロスの聞かせ上手な側面がはっきりと見えてきます。

聞くところによると、彼はオケに対して常に寛容であり、叱ると言うことをしなかったようです。
確かに、ミトロプーロスは聞かせ上手と言っても作品の構造はしっかりと把握していて、その大きな枠からはみ出すことは絶対にありません。彼のエンターテイメント性は確たる論拠に裏付けられています。
ですから、ミトロプーロスが求めるものはもっと上にあるかと思うのですが、それでもその大きな枠の中からはみ出さない限りは、時にははみ出してしまっていても「それでも仕方がないか」と受け入れている感じなのです。とにかく、オケに無理強いはしない指揮者だったようです。

そして、そう言う寛容な姿勢がオケのやる気と自発性がフルに発揮されて、結果として驚くほどのエンターテイメント性の高い音楽が出来上がっているようなのです。

アメリカを離れた晩年はヨーロッパに活動の場を移すのですが、そんなミトロプーロスがもっとも相性が良かったというのはウィーン・フィルでした。
こういう昔の録音を聞くと、さもありなんと納得した次第です。

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