ベートーベン:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第1番 ト長調, Op.40
(Vn)マックス・ロスタル:ワルター・ゲール指揮 ヴィンタートゥール交響楽団 1954年録音
Beethoven:Romance for Violin and Orchestra No.1 in G major, Op.40
実に耳に入りやすい作品

ベートーベンにとってこの「ロマンス」と題されたオーケストラとヴァイオリンのための音楽は得意な位置を占めています。それは、彼がこのような協奏的な小品をほとんど書いていないからです。
また、作品50のヘ長調は、ベートーベンには珍しいほどに旋律重視の作品で、その意味でも特異なポジションを占めていると言えます。作品40のト長調の方はメロディよりは和声を軸とした構成感があるのでベートーベンらしい作品とも言えます。
しかし、世間の人は美しいメロディラインの方が好きなのであって、それはベートーベンの作品に対しても同じで、人気の点ではヘ長調の方に軍配が上がります。
おそらく、この冒頭のメロディはクラシック音楽などに全く興味のない人でも、一度や二度はどこかで耳にしたことがあるでしょう。
作品の構成は両方とも典型的なロンド形式(A-B-A-C-A-コーダ)で書かれているので、実に耳に入りやすい作品です。
ひたすら誠実な演奏家
「マックス・ロスタル」という名前は私の視野には全く入っていなかったヴァイオリニストでした。しかし、知る人は知るという存在だったようで、クライスラーやティボー、アドルフ・ブッシュなどと肩を並べる存在だという人も多かったようです。
しかし、それだけのヴァイオリニストが今となってはほとんどの人の記憶から薄れてきているのは何故かと言えば、それは活動の軸足を早々と「演奏活動」から「教育活動」に移したことが原因だったようです。
ですから、演奏家としてのロスタルはあまり語られなくても、名教師としてのロスタルの存在は大きかったようです
。彼自身がアルノルト・ロゼやカール・フレッシュに学んでいるのですが、その系譜をアマデウス弦楽四重奏団のメンバーやベルリン・フィルやウィーンフィルなどの著名なオーケストラのコンマスを務めた演奏家へと受け継がせているようです。もちろん、イヴリー・ギトリスやトマス・ツェートマイアー、ウート・ウーギ等の数多くのソリストも育てています。
ですから、最初に彼のことを紹介したときに「大通りではなくて、そこから一本中に入った路地に店を構える存在」といったのですが、正確には「大通りに面してはいても看板も掲げていない一見さんお断りの名店」といった方がいいのかもしれません。
おそらく、表向きは「音楽のために」といいながらも演奏家というものは本音の部分で言えばお金や名声などを求めている人が大多数です。そして、その事を私は決して否定するつもりはありません。
なんのインセンティブも伴わないようなことに、己の一生を苦行に捧げるような人はいません。
しかし、ロスタルは音楽を手段として社会的な名声を求める立場からは遠く離れ、ひたすら音楽そのものを愛し続けた人になろうとした数少ない一人だったのかもしれません。彼は演奏家としての名声には全くこだわることはなく、録音に関しても自由に振る舞えるマイナーレーベルの方を好んだ人でした。そのために、演奏家としての知名度は低く、そう言う彼を無視する多くの聴衆のあり方に怒りの言葉を向けている人も多かったようです。
また、彼のもう一つの業績として、数多くの同時代の作曲家の作品を取り上げて、多くの若手作曲家がコンサート・プログラムでその地位を獲得するのを助けた事も忘れてはいけないようです。
そう言う活動も含めて、彼は演奏家としての名声よりも多くの若者に音楽の素晴らしさを伝えることの方に多くのインセンティブを感じていたのでしょう。
その結果としてか、彼は音楽に対してどこまでも「誠実」であろうとした人だったのです。
ですから、数は多くはないのですが、残された録音を聞くときにそこから浮かび上がってくる思いは「誠実」という言葉です。それは、「ノーブル」という言葉に着替えてもいいのかもしれません。
そして、そう言うノーブルさはエートーベンのロマンスのような耳あたりのよい音楽でも、バルトークやベルクのような新しい音楽であっても感じられるものです。
そこには演奏効果を狙う華やかさとは全く縁がなく、静かに、そしてゆったりと歌い上げていくのがロスタルのスタイルです。
前回も少しふれたのですが、、戦時加算という「敗戦国日本」へのペナルティ条項の見直しを求めることなく70年に延長しくれたおかげで、新しくパブリック・ドメインに仲間入りをする音源は途絶えてしまいました。
しかし、それまでは毎年新しく仲間入りをするパブリック・ドメインをフォローするだけで精一杯だったのが、その「改悪」のおかげでロスタルのような人物とも出会うことが出来ました。
この世の中には「100%全て悪い」という出来事は存在しないようです。
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