ビゼー:交響曲 ハ長調
シャルル・ミュンシュ指揮 フランス国立管弦楽団 1966年11月10,11日録音
Bizet:Symphony in C Major [1.Allegro vivo]
Bizet:Symphony in C Major [2.Adagio]
Bizet:Symphony in C Major [3.Menuetto (Scherzo)]
Bizet:Symphony in C Major [4.Allegro Vivace (Finale)
これこそ、青春の歌です。
音楽家の悪妻といえば、モーツァルトの妻、コンスタンツェが有名ですが、極めつけはビゼーでしょう。
彼女は夫の才能を全く信用せずに馬鹿にし続けていました。さらに、ビゼーがその不幸な人生を若くして終えると、彼女はさっさと別の男と再婚をして、前夫の作品はほったらかしにして散逸するのに任せました。
おかげで、彼の作品はそのかなりの部分が失われてしまいました。このビゼー17才の手になる若書きのすばらしい作品も、20世紀になって再発見されたものです。
モーツァルトの妻であったコンスタンツェは少なくとも夫の作品を大切に保管しました。
おかげで私たちは彼の作品のほとんどすべてを失なわずにすみました。
ビゼーの妻の悪妻ぶりは際だっています。
それにしても、この作品が17才の若者の作品とはにわかに信じがたいものがありますが、反面、17才の若者にしか書けないだろう、さわやかさと厳かさもあります。
若者と厳かさというのはなんだか矛盾するみたいですが、それはあまりにも人間というものを知らなさすぎます。
若者、特に少女というものは、その限られたある一瞬の間だけですが、この上もない神秘性と厳粛さを漂わせます。疑問に思う方は映画「レオン」を見られたし。(もっとも最近はそんな一瞬を持つこともなく、くたびれた大人の女になってしまう人も多いようですが)
そして、男は少女ほどではないにしても、事情は同じです。
そういう若さが持つ一瞬の厳かさを、この音楽ははっきりと感じ取らせてくれます。
ビゼーといえば「カルメン」であることは事実ですが、彼は決してカルメンだけの作曲家ではないのです。
ゆったりと、そして熱く
ミンシュの録音と言えば「RCA」と強く結びついていますから、「コンサートホール(Concert Hall Society)」にも録音をしていたことに驚きました。もっとも、今頃何を言っているんだと言われそうなのですが、考えてみれば1962年にボストン交響楽団の常任指揮者を退いていますから、それと前後して「RCA」との契約も切れたのかもしれません。近年発売された「Charles Munch - The Complete RCA Album Collection」というボックス盤では1963年3月14日にボストン交響楽団ではなくて、フィラデルフィア管弦楽団と録音したのが「RCA」での最後になっているようです。
その後、フランスが国威をかけて設立したパリ管弦楽団を率いることになり、ベルリオーズやブラームスで圧倒的な音楽を聞かせたのですが、それらは「His Master's Voice(EMI)」が録音をしていました。
ですから、その間に何も録音活動をしていないはずがないのであって、その期間を埋めたのが「コンサートホール」での録音だったようなのです。
ただし、その録音は片手間どころではなくて、注目に値する録音となっています。
ミンシュと言えば、どうしても最晩年のパリ管弦楽団との録音が思い浮かぶのですが、それは彼の録音の中でも特異と言ってもいいほどの熱い演奏になっています。それと比べれば、彼が長きにわたって相棒を組んできた「RCA」でのボストン交響楽団での録音はばはるかに常識的な範疇におさまっています。
ですから、その変化に多くの人が驚くのですが、その両者を結ぶミッシング・リンクのような存在なのが「コンサートホール」での録音だったのです。
ビゼーの交響曲は若書きの作品です。
しかし、ここでのミュンシュはそう言うことは忘れてしまったかの様に、ゆったりとしたテンポで大きな音楽として仕上げています。ビゼーの交響曲ってこんなにも立派な音楽だったのかなと思うほどです。
さらに言えば、その音楽には溢れるほどのロマンティシズムが注ぎ込まれています。
そして、そのスタイルは同じレコードにカップリングされている「子どもの遊び」や「祖国」においても同様です。とくに、「子どもの遊び」の熱さは最晩年のパリ管での音楽に結びついていくようなおもむきがあります。
こうして聞いてみると、やはりアメリカは「ザッハリヒカイト」な音楽が支配的だったんだなと思わざるを得ません。おそらく、その潮流はミュンシュの本性とどこか相容れないものがあったはずです。
しかしながら、ボストン時代のミンシュは同時代のアメリカの指揮者と較べればはるかに主情的な音楽を聞かせてくれたのですが、それでも最後の枠は踏み外さないようにしていたのでしょう。
ボストン響を退いてフランスのオケが活動の中心になると、そう言う枠を気にすることもなく、己の思うがままに音楽を楽しむようになったのでしょう。
この「コンサートホール」レーベルでの録音を聞くとそのような妄想がわきあがってきます。
よせられたコメント 2022-05-02:コタロー 以前紹介したかと思いますが、私が小学校高学年のころ、父がコンサートホール・ソサエティに入会していました。
この演奏もその絡みで入手したレコードでした。そしてビゼーの新たなる魅力に目覚めでしまったのです。そういえば、以前このサイトで紹介されていた「序曲・祖国」もこの一枚に収録されていましたね。(あと一曲は、「子供の遊び」でした)。
また、ジャケット写真にある老いたるミュンシュが印象的でした。
音楽の「印象」としては、幾分乾いた音作りですが、快活な音楽は大変好ましいと思いました。アップありがとうございました。とても懐かしい演奏でした。 2022-05-02:信一 上質なレコードからの再生音、いいですね。いつも楽しませてもらっています。
これはとても懐かしいレコードです。中学生の時、RCAは高くて買えなくてコンサートホールのレコードでミュンシュを知りました。
このビゼーは演奏もいいのですが、ジャケットがいいですねぇ、ミュンシュの人柄が見て取れる。このほかにも、ロッテルダムフィルとのフランクが熱かった!期待して待ってます。 2022-05-08:toshi 私はコンサートホール・ソサエティの録音が苦手で^^;
でも、ミュンシュの細かいことは気にしない音楽の作り方は好きですね。
オケマンだったミュンシュは細かい指示をオケに出すのは、好まなかったのでオケの自主性にまかせた部分が多かったようです。
フランス国立管との相性は良かったみたいで、ブラームスの交響曲第2番のライブの、あの熱い演奏は何度聴いても素晴らしいです。
【最近の更新(10件)】
[2025-12-13]
R.コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」 作品35(Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 ボーンマス交響楽団 (Vn)ジェラルド・ジャーヴィス 1966年12月30-31日(録音(Constantin Silvestri:Bournemouth Symphony Orchestra (Vn)Gerald Jarvis Recorded on Dcember 30-31, 1966)
[2025-12-11]
ベートーヴェン:六重奏曲 変ホ長調, Op.71(Beethoven:Sextet in E-Flat Major, Op.71)
ウィーン・フィルハーモニー木管グループ:1950年録音(Vienna Philharmonic Wind Group:Recorded on 1950)
[2025-12-09]
ベートーベン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」作品125(歌唱:ルーマニア語)(Beethoven:Symphony No.9 in D minor, Op.125 "Choral")
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 (S)Emilia (Ms)マルタ・ケスラー、(T)イオン・ピソ (Bass)マリウス・リンツラー (Chorus Master)ヴァシリ・パンテ ジョルジュ・エネスコ・フィル合唱団 (Chorus Master)カロル・リトヴィン ルーマニア放送合唱団 1961年8月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra (S)Emilia Petrescu (Ms)Martha Kessler (T)Ion Piso (Bass)マMarius Rintzler (Chorus Master)Vasile Pintea Corul Filarmonicii "George Enescu”(Chorus Master) arol Litvin Corul Radioteleviziunii Romane Recorded on July, 1961)
[2025-12-07]
ベートーベン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」 ヘ短調 Op.57(Beethoven: Piano Sonata No.23 In F Minor, Op.57 "Appassionata")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1955年11月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on November, 1955)
[2025-12-06]
ラヴェル:夜のガスパール(Ravel:Gaspard de la nuit)
(P)ジーナ・バッカウアー:(語り)サー・ジョン・ギールグッド 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Read)Sir John Gielgud Recorded on June, 1964)
[2025-12-04]
フォーレ:夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74(Faure:Nocturne No.7 in C-sharp minor, Op.74)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)
[2025-12-02]
ハイドン:弦楽四重奏曲第32番 ハ長調, Op.20, No.2, Hob.3:32(Haydn:String Quartet No.32 in C major, Op.20, No.2, Hob.3:32)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)
[2025-11-30]
チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58(Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年11月13日~16日&21日録音(Constantin Silvestri:French National Radio Orchestra Recorded on November 13-16&21, 1959)
[2025-11-28]
ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major ,Op.93)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年5月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on May, 1961)
[2025-11-26]
ショパン: ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21(Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21)
(P)ジーナ・バッカウアー:アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Con)Antal Dorati London Symphony Orchestra Recorded on June, 1964)