クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

ウィレム・ヴァン・オッテルロー指揮 ハーグ・レジデンティ管弦楽団 1953年12月4日録音





Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [1.Un poco sostenuto - Allegro]

Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [2.Andante sostenuto]

Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [3.Un poco allegretto e grazioso]

Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68 [4.Piu andante - Allegro non troppo, ma con brio - Piu allegro]


ベートーヴェンの影を乗り越えて

ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。

彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。

の交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。

確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。

彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。

しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。

私は、若いときは大好きでした。
そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
それだけ年をとったということでしょうか。

なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。

この作品に「暑苦しさ」を感じる人にはお勧めかもしれません


ブラームスの交響曲1番には「青春の澱」のようなものが感じられると書いたのは吉田秀和でした。クラシック音楽などと言うものを聞き始めた頃の私のとって吉田秀和はまさに「水先案内人」だったのですが、この「青春の澱」という表現には強い反発を感じたものでした。
つまりは、若い頃の私はそれほどまでにこの作品が好きだったのです。その好きな作品に「青春の澱」などと言う言葉を使われることが我慢できなかったのです。

しかしながら、年を重ねるにつれてこの交響曲が持つ「熱さ(暑苦しさ?)」みたいなものがだんだんとしんどく感じられ来るようになりました。そして齢60を超えた今となっては、この吉田秀和の「青春の澱」という表現は実に的を射た的確な表現であったことが理解できるようになってきました。しかし、まさにそう言う部分にこそこの作品の魅力があるのであって、その表現が決してこの作品の価値を貶めるものでないことも理解できるようになりました。
しかし、まさにそう言う音楽であるが故に、年をとるとこういう作品と向き合うのはかなりしんどい話と言うことになります。

そう言えば、晩年のバーンスタインがチャイコフスキーの「悲愴」をまるでマーラーであるかのように肥え太らせた演奏を行いました。逆にセルは、マーラーの音楽を徹底的にダイエットさせて、一ヶ月で10キロ痩せることが出来ますみたいな音楽に仕立て上げていたものです。
問題はその様なやり方が、音楽として妥当なものかどうかと言うことです。
つまりは、ここでのオッテルローのブラームスは、吉田秀和が指摘したような「青春の澱」のようなものを綺麗に洗い流した演奏になっているからです。
しかしながら、まさにそう言う「青春の澱」のようなものがこの音楽の本質的な部分を支えているとすれば、この演奏は実に困った演奏だと言うことになります。そして、それと同じ感情はチャイコフスキーを肥大化させたバーンスタインや、マーラーをダイエットさせたセルの演奏にもいえることです。

とは言いながらも、年を重ねて、あの暑苦しさを感じるブラームスのファースト・シンフォニーをたまには聞いてみたいと思う年寄りにとっては有り難い演奏であり録音であるかもしれません。もちろん、この作品に、例えば最晩年のミンシュがパリ管と録音したブラームスのような「熱さ」を求める人にとっては「凡演」以外の何ものでもないでしょう。

そう言う意味ではほとんどの人にはお勧めできない録音ではあるのですが、中にはこれくらいがちょうどいいという年寄り(若くても)も多いかもしれません。まあ、さすがに、私はそこまで弱ってはいないので当分は聞き返すことはないかもしれません。

それから、オッテルローは「大学祝典序曲」と「悲劇的序曲」も録音しているのですが、これもまた祝典的な華やかさを演出する気持ちなど全く感じられない「大学祝典序曲」であり、悲しみを湛えた悲劇を吐露する気持ちなど全く感じられない「悲劇的序曲」なので、さすがに、この序曲くらいはもう少し演出をしてもいいのではないかと思ったりもします。
しかしながら、オッテルローにしてみれば、自らのブラームスの交響曲のスタイルを継承すれば、序曲もまたこのような音楽になるのでしょう。

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