クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バッハ:管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069

カール・ミュンヒンガー指揮 シュトゥットガルト室内管弦楽団 1962年録音





J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [1.Ouverture]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [2.Bourree I, II]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [3.Gavotte]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [4.Menuett ]

J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [5.Rejouissance]


ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品

ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。

そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。
同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。

ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。

ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。
それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。

疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。


  1. 管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
    荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。

  2. 管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
    パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。

  3. 管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
    この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。

  4. 管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069
    序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。



60年代におけるこの作品のスタンダード的存在


50年代初頭の彼らの演奏には粗さはあっても、その時代でしか為し得なかった魅力を持っていました。しかし、この62年にまとめて録音されたバッハの管弦楽組曲の全集ではそう言う粗さのようなものはすっかり影をひそめて演奏の完成度はとても高くなっています。
ですから、この録音が60年代においてはリヒターやパイヤールなどと並んで一つのスタンダードであり続けました。
そして、そうなった背景にはミュンヒンガーがこの管弦楽団の統率者となったと言う「事実」があるのでしょう。

もちろん、ミュンヒンガーは1945年の設立当初からシュトゥットガルト室内管弦楽団の指揮者でした、しかし、初期の演奏を聞いていると、それは「指揮者」という「役割」を与えられた仲間の一人という雰囲気をよく感じたものです。
しかし、この62年のバッハ演奏では、彼は疑いもなくシュトゥットガルト室内管弦楽団を統率する「指揮者」になっています。そして、音楽の演奏というのは、そう言う絶対的な統率者が存在しなければその完成度は上がらないのだという「ごく当たり前の事実」を思い出させてくれるのです。しかし、気楽な聞き手というのは贅沢なもので、そう言う完成度の高さと引き替えに失ったものも惜しく思ってしまうのです。

とは言っても、これは同時代のリヒターやパイヤール等の演奏と並べてみても全く見劣りのしない見事なものであることも事実です。ゆえに、実にもって聞き手というのは贅沢なものです。
しかし、それを贅沢とは分かっていながら、もう少し深掘りしてみるといろいろなものが見えてくることにも気づかされます。

この演奏を聞いてみて真っ先に気づくのは、しっかりと地に足のついた、軽々しさなどと言うものは全く感じさせない、「これこそが私が信じるバッハの姿だ」という信念です。そして、その「信念」は誰の「信念」なのかと言えば、それは疑いもなくミュンヒンガーという指揮者の「信念」なのです。

音楽というのは難しいものです。
そうなると、演奏の完成度を上げるために指揮者の信念に基づいて全員が演奏することを要求され、そのために指揮者が統率力を上げていけばいくほどに、「音画をする人」と「音楽をさせられる人」に二分されていきます。
もちろん、ミュンヒンガーの信念に心から共感して、自らも彼の棒のもとで「音楽をする喜び」に浸れるプレーヤーもいるでしょう。そして、時にはその場に参加しているプレーヤー全員がその様に結束できることはあるのかもしれませんが、私の経験上ではそう言う運意気が感じられる演奏は希有なことです。

例えば、有名な第2番では「ジャン=ピエール・ランパル」がフルートをを担当しています。その演奏を華やかなものと評価する人もいるのですが、私にはその華やかさもミュンヒンガーと言う枠の中におさまっているように思えてなりません。50年代の彼らならば、例えフルート奏者がランパルのようなビッグネームではなくてももっと自由に楽しく吹きまくったのではないかと妄想してしまいます。

音楽としての完成度を高めることと音楽をすることの喜びを発露させることは本来は矛盾するものではないのですが、現実にはそれがどれほど難しいことかを如実に示してくれているのがこの50年代から60年代にかけての「シュトゥットガルト室内管弦楽団」かもしれません。
そして、現在は、全てにわたって「完成度を高める」事に力が傾注されるようになりました。

そう言えば、ミュンシュの録音を取り上げて今のオケには「色」がないと書いたことがあるのですが、その時の思いとこれは根っこが同じところにあるのかもしれません。

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