ワーグナー:「神々の黄昏」より「夜明け」と「ジークフリートのラインへの旅」
ルドルフ・ケンペ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団 1956年11月30日&12月5日録音
Wagner:Die Gotterdammerung [Prologue: Dawn]
Wagner:Die Gotterdammerung [Siegfried's Rhine Journey]
ジークフリートの死を暗示

ワーグナー:「神々の黄昏」より「夜明けとジークフリートのラインへの旅」
「神々の黄昏」はエールダの娘である運命の女神、3人のノルンの登場で幕が開きます。
3人のノルンはそれぞれ「過去」「現在」「未来」を司るのですが、彼女たちは神々の行く末を案じます。
しかし、彼女たちの予知能力は混乱をきたし、やがて「永遠の知恵の終焉」を悟り、夜明けが近づくなかで母親のエールダがいる大地の下へと姿を隠してしまいます。
その後に演奏されるのが「夜明けとジークフリートのラインへの旅」の「夜明け」の部分です。
この「夜明け」の音楽が高揚するなかでジークフリートとブリュンヒルデが登場します。
そして、ジークフリートはブリュンヒルデに指輪をあずけ、ブリュンヒルデはジークフリートに愛馬グラーネを贈ります。
そして、ジークフリートがグラーネにまたがって武者修行の旅に出るのをブリュンヒルデは見送るのですが、その場面で鳴り響くのが「ジークフリートのラインへの旅」です。
その音楽はラインに向かうジークフリートの勇姿と壮大なるラインへの賛歌で彩られるのですが、最後は不気味な響きで締めくくられるのは、その後のジークフリートの死を暗示しているようです。
「伝統」という豊かな土壌の中にしっかりと根を張った「立派な」ワーグナー
ケンペは1956年にベルリンフィルと、1958年にはウィーンフィルとワーグナーの管弦楽曲を録音しています。
ベルリンフィルとの録音は以下の通りです。
- 「さまよえるオランダ人」序曲
- 「タンホイザー」序曲
- 「タンホイザー」第1幕よりバッカナール
- 「タンホイザー」第1幕よりヴェヌスベルクの音楽
- 「神々の黄昏」より「夜明け」
- 「神々の黄昏」より「ジークフリートのラインへの旅」
そして、58年のウィーンフィルとの録音は以下のようになっています。
- 「ローエングリン」第1幕への「前奏曲」
- 「パルシファル」第1幕への「前奏曲」
- 「パルシファル」より「聖金曜日の音楽」
- 「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲と愛の死」
そして、そのどれもが「伝統」という豊かな土壌の中にしっかりと根を張った「立派な」ワーグナーなのです。
ただし、そう書くと誤解を招くかもしれません。
なぜならば、「伝統」に根を張った「立派な」ワーグナーなどと言えば、さぞや巨大な音楽が立ちあらわれるのかと勘違いされそうだからです。
聞けばすぐに分かることですが、ケンペのワーグナーには人を驚かすような「巨大」さはありません。それ故に、人によってはこれを特徴に乏しい音楽として物足りなさを覚える人がいるかもしれません。
ここで演奏される序曲や前奏曲ならば、そのまま幕が開いてオペラが始まっても何の違和感も感じません。
例えばフルトヴェングラーなんかだと、そこまでぶち切れるように前奏曲を演奏したのでは、この後幕が開いて最後まで持つのかと心配になってしまったりするのですが、ケンペにはそんな心配は微塵もありません。
つまりは、私が「伝統」に根を張った「立派な」ワーグナーといったのは、おそらくはヨーロッパの各地で日常的に演奏されているであろう「ワーグナー」のもっとも常識的な、しかしながらもっとも「上質な姿」がそこにあるということなのです。
「伝統」というものはマーラーが語ったように「怠惰の別名」であるかもしれませんし、それ故にその「怠惰」を乗りこえるためには新しい「潮流」が生まれてくる事が絶対に必要です。
しかし、その「新しい潮流」が本物となるためには「伝統」という壁を乗りこえていく必要があります。
言葉をかえれば壁となりうるだけの「伝統」が厳然と存在してこそ「新しい潮流」は本物となりうるのです。つまりは、パラドックスのように聞こえるかもしれませんが、新しいものを拒み続ける「伝統の守護者」が必要なのです。
ただし、ケンペには「守護者」などと言う思いはなかったでしょう。
彼はごく自然に、伝統という世界の中で自由に呼吸をして、自由に音楽をやっていただけだと思うのですが、それが結果して伝統の守護者となっていたのです。
長らく音楽監督が不在であったコヴェントガーデンの歌劇場が61年にショルティを招こうとしたときに、多くの人から異論が出されました。
そして、その異論を唱えた人たちが希望したのがケンペでした。
もちろん、病弱であったケンペがそんな骨の折れる仕事を引き受けるはずもなかったのですが、つまりは、ケンペとはそういう存在だったのです。
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