エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
(Vc)ポール・トルトゥリエ マルコム・サージェント指揮 BBC交響楽団 1953年録音
Elgar:Cello Concerto in E minor , Op.38 [1.Adagio; Moderato]
Elgar:Cello Concerto in E minor , Op.38 [2.Lento; Allegro molto]
Elgar:Cello Concerto in E minor , Op.38 [3.Adagio]
Elgar:Cello Concerto in E minor , Op.38 [4.Allegro; Moderato; Allegro, ma non troppo; Poco piu lento; Adagio]
意外と評価が低い作品なのでしょうか?・・・、不思議です。

レコード芸術という雑誌があります。私は購読しなくなって随分な日が経つのですが、一応クラシック音楽を聴く人間にとっては定番のような雑誌です。その定番の雑誌の定番とも言うべき企画がベストレコードの選出です。20世紀が終わろうかと言うときには、誰もが想像するとおりに20世紀のベストレコードの選出を行っています。その時の企画が一冊の本となって出ているのですが、選出の対象となった300の作品の中にこの協奏曲はノミネートされていません。
エルガーの作品でノミネートされているのは驚くなかれ「威風堂々」だけです。これでは、エルガーはマーチの作曲家だったと誤解されても仕方がありません。
チェロによる協奏曲と言うことでは、おそらくドヴォルザークのものと並び立つ最高傑作だと思うのですが、残念ながら無視をされています。
それは同時に、日本におけるエルガー評価の反映なのかもしれません。
それはエルガーに限ったことではなく、同時代のイギリスを代表するディーリアスになるとノミネートすらされていませんから、日本におけるイギリス音楽の不人気ぶりは際だっています。おそらくその一番大きな原因は、にこりともしない晦渋さにあるのでしょうね。
どこかで聞いたエピソードですが、エルガーの作品は退屈だという意見には不満を感じるイギリス人も、ディーリアスになると他国の人間には分かってもらえないだろうなと諦めてしまうそうです。
しかし、あらためてこのエルガーのチェロ協奏曲を聴いてみると、冒頭のチェロのメロディは実に魅力的です。ドヴォルザークならこれに続いてどんどん魅力的な歌を聞かせてサービス満点の作品に仕上げてくれるのですが、エルガーの場合はその後はいつものイギリス風に戻ってしまいます。しかし、ある種の晦渋さと背中合わせになっているそのような渋さが、聞き込むほどに良くなってくるという意味で「大人の音楽」と言えるのかもしれません。
なお、この作品を完成させた翌年に彼を生涯にわたって支え続けてきた妻を亡くすのですが、その打撃はエルガーから創作意欲を奪ってしまいます。その後の15年間で数えるほどの作品しか残していませんから、この協奏曲は実質的にはエルガーの最晩年の作品といえます。
端正系になる前の覇気溢れる演奏
振り返ってみると、この50~60年頃というのはチェリストのビッグネームが目白押しです。
まずは大御所のカザルスは存命中で、フランコ政権への抗議から演奏活動は行わないと言明したものの、いろいろな音楽祭において指揮活動との両輪で未だに現役でした。
さらに、豪快なシュタルケル、美音系の貴公子フルニエなども全盛期でした。それ以外に、思いつくだけでも、カサド、ピアティゴルスキー、ジャンドロン、さらにヤニグロも指揮活動に重点をおくのはこれよりも先の時代でした。
そして、若きロストロポーヴィチにデュ・プレなどが登場してくるのもこの時代でした。
そう言うチェリスト戦国時代において「トルトゥリエ」はどのようなポジションを占めていたのでしょうか。
当然のことながらカザルスの風格はないわけであって、シュタルケルほどの豪快さはありませんし、フルニエの美音もありません。そして、ヤニグロの濃厚さとは最も遠いところにいます。
そうですね、あえて名づけるならば「端正系」でしょうか。ただし、こういう言い方は、ともするとそれなりのビッグネームなのだが、聴いてみるとこれと言った特徴がつかまえられないときの「苦し紛れ」として使われることもあるのですが、トルトゥリエのチェロは言葉の正しい意味で本当に「端正」な音楽を聴かせてくれます。
ですから、こういう演奏を若いときに聴くと何とも言えない物足りなさを感じるかもしれません。しかし、年を重ねると、いわゆる「外連」というものがうるさく感じられてくるので、こういう演奏が実に好ましく思えてきます。
そう言えば、道楽の行き着く先は「石」らしいです。
人は最初は人に興味を持つのですが、やがてそれが煩わしくなってきて対象が動物に変わるそうです。やがて、それも煩わしくなってくると動かない盆栽へと興味がうつり、最後は石へと行き着くそうです。
さすがに、トルトゥリエのチェロを石呼ばわりする気はありませんが、しかし、シュタルケルやフルニエなどと比べればはるかに「煩わしさ」が少ない演奏である事は事実です。フルニエがチェロの貴公子ならば、トルトゥリエはチェロのジェントルマンと言えばいいのかもしれません。
とは言え、この時のトルトゥリエはまだ40歳になったばかりですから、晩年に録音されたもの(1977年)と比べると覇気があります。トルトゥリエは最後の最後まで現役として活動し録音も残したので、こういう若い頃の録音は長く顧みられることがありませんでした。その意味では、後年の端正系になる前のトルトゥリエが聞けると言うことでは大きな価値があるといえるのかもしれません。
録音に関しても、モノラル時代のものとしては極上に属する部類です。
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